おしゃれフードトレンドを追え! Vol.34

しっぽり渋く飲む 絶対はずさない鉄板おでん屋

暦の上では春だが、まだまだ寒い。「寒い時はおでんだよね!」。これはおしゃれ業界で働くどんなに気取った人でも同じこと。いや、おしゃれだからこそ気取らないカウンターおでんはマスト。屋外ロケ撮影で白い息を吐きながら「好きな具は何?」「あ〜、熱々の大根食べたい!」などと言ってカイロを握りしめながら、春夏ファッションの撮影をせっせとこなしている。寒い中でしんどいお仕事を乗り越えたら、やっぱり打ち上げはおでんでしょう。シーズナルな食べ物が大好きな彼らだからこそ、寒い日には渋いおでん屋で味がしみたおでんをハフハフしながら食べたいのだ。

 

新しいもの好きの人が多いファッション界、食選びは意外に超コンサバだったりするのだが、特におでんは絶対に外したくないという気持ちが高いようだ。有名な老舗店や、小さいけれど食通なら必ず一度は行く店に人気が集中している。

ほっとする美味しさが溢れる澄んだ出汁の上品おでん:おかめ(東北沢)

出典:銀座の夜の物語さん

出典:KateKoudyさん

 

渋い門構え、暖簾をくぐると店内は真ん中の厨房をぐるっと囲んだ木のカウンター。どこか昭和の懐かしさを残すおでん屋「おかめ」は、私の知る限りおしゃれ業界支持率ナンバー1のおでん屋だ。場所柄、代々木上原在住のスタイリストやエディター、カメラマン、アートディレクターなどがアクセスしやすい立地で、さらにどこの駅からも“ほどよく遠い”ところもポイント。まわりにさほど飲食店がない場所にポツンと存在する名店感がいい。さらにその味は、一度食べたら忘れられないほど優しく、上品。一般的な醤油味のおでんとは一線を画す、どこまでも澄んだ透明出汁のおでんは、薄味で素材の旨味をしっかりと感じられる。大根、つぶ貝、玉子、白滝、タコといった定番の種はもちろん、ロールキャベツ、銀杏巻き、タケノコといった変わり種もある。なかでもオススメは白子。お出汁が染みた白子はプルプルで濃厚! 噛んだ瞬間溢れる熱々の出汁がたまらない。まさに“癒やし系”と言える、美しいおでんだ。原稿を書きながら、今すぐにでも店に向かいたくなる。新鮮な刺身などの一品料理や、ほっと和む味わいのおにぎりなどもおでんと合わせてご賞味いただきたい。おでんはお品書きには価格が載っていないので初めての客はドキドキするが、二人で飲んで一品料理とおでんを食べてだいたい1万円ちょっと。安心してその味を堪能してもらいたい。

外国人接待にも完璧な安定感抜群の老舗:お多幸 銀座八丁目店(銀座・新橋)

関東風、真っ黒なだしに入ったおでんは味が染み込んでビールも日本酒も進む。会社帰りにはやはり、老舗の安定の美味しさがうれしい。見た目ほどはしょっぱくなく、酒のつまみにちょうど良い塩梅だ。店内は長いカウンターの奥に3名の料理人、きれいに仕切られたおでん鍋のビジュアルも、外国人ウケがすごく良い。私はフランス人やイギリス人を何度か連れていったことがあるが、高いフレンチに連れて行くよりも大興奮してくれた。おまかせおでん盛り合わせは1人前4品で1,000円とお得。しかし何が来るかは分からないので狙いのネタがある場合は、おまかせをオーダー後に足りない分をプラスするのがお得だろう。まっ茶色に染まった大根とじゃがいもはこれぞ関東!の風格だ。

静岡おでんを駅ナカで:海ぼうず(静岡)

最後に一つ遠方の店を。静岡出身の私は、幼い頃から静岡おでんに親しんできた。醤油系の真っ黒出汁、牛すじや黒はんぺんが入っているのが特徴で、ネタは通常串に刺さっている。昔は駄菓子屋にもおでん鍋が必ずあって、鍋の脇に置かれた椅子で気軽にイートイン出来た。完全に日常のおやつ的な位置だ。さらにお正月は家に来たお客様にもおでんを振る舞い、皆がダシ粉(いわし削り節の粉末と国産のアオサノリのふりかけ)をかけて食べる。そんな代表的なTHE静岡おでんが気軽に食べられるのがJR静岡駅構内の「海ぼうず」。静岡グルメとともに、だいたいのお客の目当てがここのおでん。1個110円から、注文表に正の字で鉛筆で書き入れてオーダーするのもB級グルメ感たっぷりで良い。

 

しっぽり飲むなら、おでんをつまみながら。食に関してはコンサバ志向のおしゃれ人だからこそ、おでんは間違いなくうまいクラシックな老舗を選ぶ。本格的な春が訪れる前に食べるからこそ、そのおいしさが沁みるはずだ。