TOKYO HIP BAR vol.42

現代に蘇る、1800年代の“アメリカバーテンダーの父”の名店

若きトム・クルーズが、ダンスするかのごとくボトルやシェーカーなどを投げてゲストを魅了する映画『カクテル』。飛び交うチップやモテるトム・クルーズ。このように観る人を魅了するフレアのスタイルはいつから始まったかというと、バー業界では知らない人はいないと言われるマティーニの生みの親(諸説あり)、ジェリー・トーマス(1830〜1885)というバーテンダーと言われています。

 

トーマスは“アメリカバーテンダーの父”と慕われ、アメリカ初のカクテル本である「Bartenders Guide」は復刻版も出され、今も多くのバーテンダーに読み継がれています。ジェリー・トーマスが有名だったのは、カクテルの創造性はもちろんのこと、そのパフォーマンスから。残された肖像画には、二つの金属製マグにウイスキーを入れて火をつけてその液体をマグからマグに行き来させる“ブルー ブレーザー”を披露している様子があります。このことからトーマスはショーマンシップがあるバーテンダーで、おそらくはボトルを投げるなどのフレアバーテンディングを当時披露していたのではと推測されています。

このことに敬意を払い、ジェリー・トーマスの命日である先月12月15日にオープンしたのが、新宿のフレアバー「ジェレマイア」です。トーマスのショーマンシップを、時代を越えて受け継ぐのは、フレアバーテンダーとして多くの賞を受賞している山本圭介バーテンダー率いる横浜Newjack、京都Bee’s Kneesのバーテンダー群。ボトルの傾け方、注ぎ方のひとつひとつに目が惹きつけられます。

店名の「ジェレマイア」はジェリー・トーマスの本名で、トーマスのバーには風刺画等の多くの額縁が飾られていたということから、店内には当時のアメリカのバーの写真や肖像画等が飾られています。

カクテルメニューの多くは、名著「Bartenders Guide」をもとにしたもの。当時流行っていたミルクパンチやウイスキーベースのサワー等、今見ても新鮮さのあるメニューが並びます。

カクテルで驚きを与える

トーマスの試み

 

この時代を感じるカクテルとして味わいたいのが透明なミルクカクテル「イングリッシュ・ミルク・パンチ」です。ベースとなるのは当時流行っていたというラムとコニャックの組み合わせ。そこにパイナップル、レモン、ミルクとスパイスが加えられたものですが、事前にミックスされ、時間をかけて濾過したもの。カクテルからも驚きを感じさせたかったトーマスの笑みが浮かぶようです。

入り口の目印はたくさんの額縁がかけられた壁の中央にある扉です。バーとはわかりづらい扉の奥には1800年代にタイムスリップする経験が待ち受けています。