若手料理人を応援するプロジェクト「Next Table」。先日行われた「Next Table vol.01」では、女性料理人たちの一夜限りのコラボディナーが実現した。シェフ5名、ソムリエ1名の計6名の料理人が協力しあい、スペシャルディナーを提供。前編に引き続き、今回のイベントに臨む際の決意や、メニューを考案する意図、参加しての感想などを、料理人に伺った。

「美」を意識した皿を作り上げた、服部萌さん

4皿めは、香辛料の絶妙な使い方に定評がある「老虎菜」で、調理とサービスを統括する支配人を務める大車輪の活躍を見せる服部萌さんの作、白湯と香辛料を使った仔羊の煮込み「ホンメン羊排肉」だ。カウンターで骨つきの塊肉を切り分けると歓声が上がる。

服部萌さん

 

「女性シェフ5人が力を合わせるコラボディナーということで“美”を強く意識しました。医食同源の考えをベースに香辛料をふんだんに加え、羊のくせを和らげると同時に、血行や代謝をよくすることを考えたのです」と服部さん。厚みのあるスパイシーな味わいは、鯛のアンクルートの次の皿としても、ぴたりとはまった。

「ホンメン羊排肉」

 

今回のコラボレーションで学んだことや今後の夢を語ってもらった。「料理のジャンルを超えて、美味しさや盛り付けの表現があるということを改めて感じました。和洋中という既存のジャンルにとらわれず、自分のジャンルを構築していきたいと強く思いました。また、チームワークの大切さも再認識。これは自分で店をやる場合にもとても参考になると思います」

華やかさをバラの香りで表現した、高橋初姫さん

デザートはニューノルディックなど、イノベーティヴな料理を供する「TIRPSE」を卒業したばかりの高橋さんの「ピーチメルバ さ姫の香り」。クラシックなデザートであるピーチメルバを再構築、モダンに仕上げた。女性らしい華やかさをバラの香りで表現したのだという。

高橋初姫さん

 

「さ姫(さひめ)」という食用バラのクリスタリゼ(砂糖漬け)を添えて、まずひと口かじってもらうことで、バラの香りを口中にとどめながら桃のコンポートを食べてもらおうという趣向だ。「チャイニーズののあとにくるデセールなので、桃のコンポートもバニラではなく、山椒の香りをきかせて煮ました」とも。どことなくエキゾチックな風味に、あちらこちらのテーブルから、賞賛の声が上がった。

「ピーチメルバ さ姫の香り」

 

高橋さんは「いつもはフレンチのコース料理のデザートを作っているわけですが、中華のあとなので、食材に何を選ぶか、考えさせられました。結果、古典のピーチメルバの要素を分解して再構築したわけですが、考えている過程がとても楽しくて、今後の料理の方向性に大きくつながったように思います。今の夢は海外で研鑽を積むこと。いろいろなことを吸収して、引き出しを増やしていきたいと思います」と力強く語ってくれた。

料理のバトンをワインで繋いだ、真鍋摩梨さん

合作のアミューズを含めて6皿の料理のバトンをうまく繋いだのが、ソムリエの真鍋さんのセレクトしたワインだ。

 

「ワインありきのスタートではなく、それぞれの料理人の出したい世界観を表現することを一番に考えました。いずれも、試作段階から今日まで、何度も彼女たちの料理を食べ、試行錯誤しながら選んだワインです。せっかく若手女性料理人5人が集まる、これまでにない試みですから、最初と最後のワインは女性の造り手のものを選びたいなと思いました。最初はフランス、最後は日本の女性醸造家の1本です」と話してくれた。

真鍋摩梨さん

 

アミューズとともに供したのは、シャンパーニュ地方でもシャルドネの銘醸地のブラン・ド・ブランのシャンパン。女性醸造家の醸す、華やかながらも凜と筋の通った味わいは、今宵の趣旨にまさにふさわしいスターターとなった。お造りに合わせた2本目は、イタリアのソアヴェの3大造り手の一人と言われるワイナリーの品。だしの旨みとソアヴェのミネラル感が見事にマッチ。3皿めのフォアグラのコンフィには、ドイツモーゼルのリースリングを。ほのかな甘みとキリっとした酸が、とろけるようなフォアグラを一層引き立てる。

それぞれの料理人の世界観に合わせて選ばれたワイン

 

鯛のアンクルートは、鯛に重ねたハーブとソースのグレープフルーツのすがすがしさに、南仏のロゼを合わせて見事にマリアージュさせた。仔羊には醤油やスパイスの香りを受け止める伊トスカーナのサンジョヴェーゼを。進化系のピーチメルバには、ワインも変化球で桃のワインを合わせた。山梨のフジッコワイナリーの作で、桃100%で造られている。香りは甘やかな桃だが、味わいはすっきりとキレがよく、その意外性と相性のよさをゲストも心ゆくまで楽しんだ。

 

真鍋さんはフリーランスの立ち場として活躍しているが、今後は、もっと女性ならではの感性を生かして、レストランのワインリストづくりや、イベントのワインプロデュースなどをしていきたいと意欲的だ。

温かい応援の声で締めくくられた、コラボディナー

食後に客席を回るなかで、料理人が皆それぞれに、アドバイスや応援の声をもらい、希望に胸をふくらませたことは間違いない。Next Tableの初回として、主催者も参加者も手探りで進めたコラボイベントではあったが、大盛況のもと、双方確かな手ごたえを感じながらの閉会となった。

 

取材・文/小松宏子

撮影/松園多聞