次世代のシェフを応援する「Next Table」。第一回は女性料理人

去る9月9日、今をときめく「TRUNK HOTEL」にて、これまでにない画期的なコラボレーションディナーが開かれた。「食べログ」が主催する、次世代を担う料理人の活躍の場を作り、応援するプロジェクト「Next Table」。その第一回として、若手の中でも女性料理人にフォーカスした一夜限りのディナーイベントを企画した。

ご存じの通り、日本の飲食業界の中では、まだまだ女性料理人が男性と対等に活躍していくのは難しい。体力的なハンディはもちろんのこと、長らく男性社会だった因習によるところも大きい。そこで、女性ならではの繊細な感覚やしなやかな感性に光を当て、女性料理人の活躍がダイレクトに見える場を作り、女性がより輝ける飲食業界となることを目指した催しだ。

半年間の準備期間を経て

キックオフは半年前にさかのぼる。まず、難関だったのが人選。そもそも、優秀な若手の女性料理人の名がまだまだ表には出ていない。そこで、各レストランや著名なシェフに問い合わせ、口コミで優秀な若手を募った。候補が絞り込まれてからは、イベント担当者がレストランへ足を運び、食事をし、協議を重ねた。その結果、5人の料理人と1人のソムリエが選ばれた。

恵比寿「Umi」のオーナーシェフ・藤木千夏さん。大阪「一汁二菜うえの 箕面店」の料理長・出島光さん、銀座「レストランエール」スーシェフ・久力英恵さん、神戸「老虎菜」でマネージャーを務める服部萌さん、「TIRPSE」でパティシエを務めた高橋初姫さん。フリーのソムリエとして活躍する真鍋摩梨さん。シェフ5人が一皿ずつ料理を作り、ソムリエがワインを選び、一つのディナーコースとしてゲストに楽しんでもらおうという試みだ。

 

しかし5人のジャンルは和洋中とバラバラ。難しさもある反面、うまく決まったときには、足し算ではなく掛け算のパワーを発揮してくれる、スリリングな企画でもある。

いざ、チームが始動してからも幾多の困難が待ち受けていた。まず、メンバーのうち2人は関西で活動しているために、5人が頻繁に会うこともままならない。誰もが日々の業務だけでもいっぱいいっぱいの中で、それぞれ時間を捻出し、メニュー構成の意見を出し合い、試作に励んだ。

 

ようやくメニュー構成が決まったのが開催の1カ月前。しかしながら、各自が1皿を作り、それをつないでいくだけでは、盛り上がりやコラボレーション感に欠けるのでは? そんな意見も出始める。ジャンルを超えた素材や調味料の使い方などで工夫するも、なかなか納得がいかない。最後に、5人共作となるアミューズを作ることで落ち着いた。その時点ですでに、開催まで残り2週間に迫っていた。

緊張感とともにイベントがスタート

当日は9時に現地入り。TRUNK HOTELの厨房で、早速下ごしらえにとりかかる。慣れない場所ながら、きびきびとした動きは見ていて気持ちがいい。厨房全体が心地よい緊張感に包まれているようだ。また、素材が少しずつ形になっていくさまはなんとも達成感がある。今回のディナーの告知はweb上で行われた。多くの読者が若い女性料理人を応援したいと興味を持ってくれ、TRUNK HOTELのダイニング40席はすぐに売り切れた。

オープンの1時間前、盛り付けのテーブルには、アミューズを盛りつけるプレートがずらりと並べられ、いよいよ40人のゲストを待つばかりとなった。

 

ゲストが揃い、シャンパンが注がれ始めると、Next Tableのアドバイザーである浜田岳文さんと本田直之さんからイベントの意図が語られ、女性シェフたちへのエールが送られ、いざ、乾杯! 記念すべき第一回のNext Tableが幕を開けた。

1皿目は故郷を想う料理を各自テーマカラーで表現したアミューズの盛り合わせ。藤木さんは赤をテーマに、ラディッシュ、塩、フロマージュブラン、ビーツの取り合わせ。出島さんは青で、秋刀魚の棒寿司。高橋さんは緑で、トウモロコシのフランにケールのパウダーを。久力さんは黒でセップまんじゅう。服部さんは和歌山の海の豊さとイメージカラーの黄色を黄金色に揚げた白子で表現。色とりどりのプレートにそれぞれの想いが込められ、なんとも楽しいスターターとなった。

そして、出島さんによる、金目鯛の昆布締め、帆立の焼き霜、生うににだしのジュレをたっぷりかけたお造り。久力さんのフォアグラのコンフィは、デラウエアの枝で燻して軽いスモーク香をつけている。続いて藤木さんの真鯛のアンクルート。真鯛にタプナードソースを塗り香草を重ねてパイで包んで焼き、グレープフルーツで酸味を補ったブールブランソースを添えた。そして、服部さんのホンメン羊排肉。豆板醤や花椒などのスパイスを加えてほろほろに煮た骨付き子羊肉にスパイシーなソースがよく合う。デザートは高橋さんのピーチメルバ。山椒のコンポート液に漬けた桃で、古典的なデザートを見事に再構築。

和洋中にまたがった一皿一皿の流れを上手につないでくれたのが、ソムリエ・真鍋さんのワインペアリング。それぞれのシェフの味や想いを邪魔することなく、全体として一つのストーリーを持たせるようなワインのセレクトを心掛けたという。一皿ごとにマイクを通して語られる、明解なワインの説明とペアリングの意図が、一層食事を盛り上げていた。

温かな空気に包まれ、未来に繋がるイベントが終了

無事に6皿を供し終えたあとは、女性シェフ5人が客席を回り、挨拶とともに忌憚のない意見を聞いて回った。ここがよかった、ここはもう少しこうすればなど、具体的なアドバイスも多数出て、どのテーブルでも話がはずんだ。ゲスト側からしても、料理人と相対することで、今後も応援したいという気持ちが確かなものとなる。

すでに店を持っているシェフへは早速来店の約束を、また、独立したあかつきには応援団になるという、温かな目線に満ちていた。そんな和やかなエンディングは、Next Table第一回の確かな手ごたえ、成功を物語っていた。

各シェフの料理の詳細やインタビューは、次回の記事に掲載予定。

 

取材・文/小松宏子

撮影/松園多聞