若手料理人を応援するプロジェクト「Next Table」。先日行われた「Next Table vol.01」では、女性料理人たちの一夜限りのコラボディナーが実現した。シェフ5名、ソムリエ1名の計6名の料理人が協力しあい、スペシャルディナーを提供。前編に引き続き、今回のイベントに臨む際の決意や、メニューを考案する意図、参加しての感想などを、料理人に伺った。
若くして料亭の料理長を担う、出島光さん
まずは「一汁二菜うえの 箕面店」の料理長を務める出島光さん。同店は2001年開店、箕面公園の中に建つ大正15年築の旅館を改装した料亭。四季折々の景色が映える川辺に面した趣のある佇まいが訪れる客の心を和ませる。出島さんは7つのお座敷を有する規模の店舗の料理長を、26歳で任されている。女性の活躍が難しい料理業界の中でも、日本料理は最難関というのが通念だが、創業者が調理師学校出身ということもあり、女性料理人も少なくない。
出島光さん
出島さんが担当したのは、合作のアミューズに続く、日本料理の流れではお造りにあたる皿。「アミューズで盛り上がったお客様の期待を裏切らないような1皿目を作らなければという意味で、緊張はありました。お造りは日本料理の花形ですが、お刺身を盛り込むだけではあとへ続くフレンチの皿へつながらない」と思った出島さん。そこで、金目鯛の昆布締めや帆立の焼き霜と、ひと手間加えたお造りにたっぷりのだしのジュレをかけて供した。だしの優しい旨みが魚介の旨みをより引き立てるという相乗効果で、インパクトのある前菜となった。
「初秋を感じる先付け」
イベント後の感想を聞くと、「今回は大阪と東京で距離があったので、コミュニケーションを密にとるのがまず大変でした。基本は男性社会で体力的な面ではハンデもあるのは事実です。でも、好きという気持ちがあれば何でもできます。だから苦に思ったことはありません」と頼もしい。
フレンチの枠を超えた一皿を提供した、久力英恵さん
2皿目を担当したのは久力英恵さん。調理師学校を卒業後、恵比寿の「ビストロ間」に就職。同店は2015年に銀座へ移転し「レストラン エール」として新たにオープン。2018年4月にスーシェフに就任した。同店は絵のように美しいイノベーティヴなフレンチで高い評価を受けている。
久力英恵さん
久力さんは、コラボディナーの中では、フレンチの枠を超えて、フォアグラを楽しんでもらいたいと考えた。「今回のコラボにちなんで、和食・中華・フレンチ・ワインと関連した食材を全て取り入れることに。和食はごま、ワインはぶどうつながりでシャインマスカットとデラウェア、フレンチはロックフォールチーズ。中華はどうしよう……と考えたときに杏仁を思いついたのですが、試作してみたら、エキゾチックなニュアンスが出てとても気に入りました」と自信を覗かせる。
「フォアグラのコンフィ」
実際、デラウェアの木で燻したフォアグラのコンフィは、「この日最も印象に残った」と答えたゲストも多くいたほど、完成度の高い一皿であった。イベント後には「この5人のメンバーでできたことが一番よかったです。女性シェフとつながりができたこと、仲間ができたことが何より嬉しかった。機会があれば今後もイベントに挑戦してみたい」と意欲を見せていた。
今年独立したばかりの、藤木千夏さん
3皿目の魚料理を担当した藤木千夏さんは、実は今回のプロジェクトが立ち上がったときは特定の店に所属していなかったが、今年6月14日にオーナーシェフとして恵比寿「Umi」を立ち上げた。藤木さんはパリの一ツ星レストランとして名をはせた「SOLA」の吉武シェフのもとでスーシェフを務めた実力者。自らの店にUmiと命名したのもSOLAがあってこそ。今回は5人の中でも最も経験豊富な女性シェフとして、まとめ役としても尽力した。
藤木千夏さん
「真鯛のアンクルートというクラシックな料理ですが、その中に女性ならではの感性を感じさせたいと思い、重くならないようにソースに酸味をきかせたいと思いました。それも、ビネガーを加えるのではなく、グレープフルーツの果汁で涼やかな酸味のブールブランソースにしました。鯛に重ねたハーブと相まって、爽やかな仕上がりになったと思います」と藤木さん。「鯛のアンクルートはUmiに行けば食べられるのですか?」というお客様からの質問に、「はい、ぜひいらしてください」と笑顔で答えた。
「真鯛のアンクルート」
「何人かで一つのディナーを作り上げるという経験は初めてのことで、全体を俯瞰しながら運ぶことの難しさを改めて知り、とても勉強になりました。もっともっと、女性のしなやかさや、女性ならではのオリジナリティを出していけるように頑張りたいと思います」と藤木さんは決意を語ってくれた。
後編では、服部萌さん、高橋初姫さん、真鍋摩梨さんのインタビューを掲載予定。
取材・文/小松宏子
撮影/松園多聞