NYで肉食を
肉汁で乾杯だとか、肉欲に溺れちゃうなんて言いながら肉記事をひたすら書いてきた私。しかし、いまだに世界一のステーキハウスと名高いNY「ピーター ルーガー ステーキ ハウス」(Peter Luger STEAK HOUSE)に行ったことがないのです。
なぜ世界一といわれているの? 「ピーター ルーガー ステーキ ハウス」の経験“肉”値のない人に説得力のある肉なんて書けないよ、ということで説得“肉”力を付けるために自腹でニューヨークへ行ってきました。肉を食べるためだけに。
それでは肉浴ニューヨーク、これはもう肉ヨークでいいんじゃないのコレ、というNY「ピーター ルーガー ステーキ ハウス」をお届けします!
ニューヨークについてから調べてみた
まず完全予約制で2カ月先まで満席というネット情報に(NYについてから調べたアホ)ビビりながら、とりあえず電話してみることに。朝9時ごろに電話を掛けるとオープンの11時くらいに掛け直してくれまいか、とのことなのでまたその頃に電話しました。
「ひとりでも予約できますか?」と聞くと「大丈夫です。あ、テーブル席を予約するならちょっと遅い時間になっちゃうけど、いま来られるならカウンター席だったらすぐ入れるよ。ひとりだったらカウンター席の方が待たなくていいしお薦めかも。」というフレンドリーな応対を受けて、着の身着のままフンドシだけ締め直してホテルを飛び出します。
電車を乗り継ぎ、「Peter Luger STEAK HOUSE」とでっかく書かれているれんがのビルを目指します。歩きながら早足になり、駆け足になり、足がナルト状態になりながら息せき切ってビルまで飛び込んでいきます。
あれ?
この建物の中にATMが見える。そんなに高いの? 店内にATM置かなきゃいけないくらい、高いの? よくよく見るとカウンターがありその中で人々がせわしなく働いています。店内でなく銀行。え? 銀行のなかで肉を食べるの? え、ていうか銀行じゃん。「Capital One Bank」って書いてある。このビル何?
地団駄をダンダン踏んでいたら、対面のビルに「Peter Luger STEAK HOUSE」と書かれているのを見つけ、なんとトリッキーな、牛の呪いかと恐々としながら駆けていき、重いドアを開けます。
ついに、肉ヨークに潜入
店内はもう既に混み合っていて、予約した人々がウェイティングカウンターの奥にある予約台帳をめくる女性の所で名前を告げるために並んでいました。私はひとりなのでカウンターの中のダンディーな彼に「私はひとりなのだけど、カウンターでもいいですか?」と聞くと「君を待っていたよ。」とウインク。「テェンクス。」とウインクを返しながら席に着きます。
ランチ限定ステーキもありますが、せっかくなので
「赤身の一番美味しいやつください」
「OK, baby! とっておきの赤身肉を頼んでくるからね!」と去っていく彼。ビールを飲みながら、粘着質な視線を店内に張り巡らせつつ、大人しく待ちます。
以下、カウンターのなかのバーテンダーさん(以下“バ”)との会話です。
バ 「日本から来たの? 何してる人?」
私 「ジェロントフィリアの研究をしております」
バ 「何それ」
私 「年齢が上の方が好きな性癖のことです」
バ 「40歳とか?」
私 「80歳オーバーですかね」
すると突然、
隣に座っていた人 「ウェイワッ(Wait, what!?!?!?)」
カウンターで隣に座っていた人が、我々の会話を聞いてこっそりググっていらっしゃったようなのですが、彼がサーチしたサイトを見せてもらいました。
隣の彼は恐る恐る聞いてきます。
「日本では、そんな人が増えているんですか」
私 「そうですね」
以前「男は還暦から」というコラムを書いたときにジェロントフィリアのことを書かせていただいたので、一部抜粋してみます。
そもそも、私、学生時代にひたすら図書館に籠っていたので、よくなにをしているのかと聞かれていたのですが、ひたすらジェロントフィリアについて調べていたのですね。あ、絶対にググらないでください。過激な言葉が出てきますが、そこはイキらないで。頼むから、イキらないで話を聞いて。
まずジェロントは老年や老熟といった意味で、Gerontology(ジェロントロジー・高齢社会の人間学)から派生した“ネオ・ジェントロジー”は、いま一番フレッシュな学問ですね。
この学問に対し競争的研究資金として、「科学研究費助成事業:通称“科研費”」が下りるようになったのも、必要な思想だと国が認めたと言えるでしょう(ドヤ)。
次にフィリア(philia)ですが、こちらはアリストテレスの語る友愛(または愛)の意味です。分かりやすいので対義語を出すと、フォビア(phobia)。クモ恐怖症(Spider phobia)や高所恐怖症(Acrophobia)といったフォビアが有名ですね。
このフォビアの対極にあるのが、フィリアです。
恐怖症の対極にあるので、簡単にいえば、異常にめっちゃくちゃ好きとでもいいたいのですが、汎用性の高い言葉なので、病的な偏愛として訳され使われることが多いです(実際犯罪者のプロファイリングでも使われます)。
取扱い注意な言葉ですが、そこはしかし敢えて、ジェロントな人々を推しMenとして高らかに主張したいと思います。
出典:東京カレンダー
この記事が949シェア(2017年3月17日現在)されたので、日本でもジェロントに興味がある人が増えていると言っても良いのではないのでしょうかダメですかそうですかですよねそうですよねハイ。
そうこうしているうちに肉が届きました。
着肉
(No reason, Coca Cola♪のリズムに合わせて)No reason, 肉ヨーク♪
かなりノーリーズンでしたよこれは。外側は香ばしくサクサク、粒が大きいのにまろやかな塩が肉と歯の間で踊り、肉の表面を突き破れば塩がじゅわっと肉内に染み込み、歯を無抵抗に受け入れる肉の愛おしさよ。一連の流れをオノマトペると、サクじゅわフワッニヤニヤです。
バーテンダーさん、最終的には「ハロルドとモード(Harold and Maude)」という映画を観るといいよ、とお薦めしてくださいました。
ごちそうさまでした。伝統の金貨チョコとともに。
と、長すぎる前座でしたが、次はようやくあのダンディーアナウンサーが登場です!
男は骨格と声で選べ
母は私が上京するときにふたつのことを教えました。まずひとつは“保証人だけにはなるな”、“男は骨格と声で選べ”と。そんな言葉を一笑に付していた私も、今ならわかります。
時は誠実さを磨耗させ、情熱を吝嗇し、重力は身体のすべての細胞と液を下降させ続け、太陽光線はジリジリとつきたてのお餅のようだった皮膚を硬化させる。しかし骨格と声だけは、変わらない。
骨格と声にほれてさえいれば、ちょっとやそっとのことで愛想は尽きたりしません。むしろけんかでもして、恋人に背を向けられたとき、ふと背筋にほれぼれして怒りを忘れたり、顔も見たくないほどムカムカしたときでも寝顔が天使だとついつい写メしちゃうじゃないですか。
というところでいうと、こちらの宮川俊二さんは霊長類最強声なのではないでしょうか。
早稲田大学第一文学部卒業後、NHKに入局したというサラブレッド。「ニュース630」(1987.4~1988.3)や「ミッドナイトジャーナル」(1990~1992)、フジテレビ専属時代は「ニュースJAPAN」(1994.4~1998.3)や「FNNスーパーニュース」(1998.4~1999.3)で、その美声をお聞きになった方も多いはず。最近では「日曜ビッグバラエティ・カラオケ★バトル」や「カラオケ★バトル 芸能界No.1決定戦」の常連として、電波上に美声をとどろかせております。
しかも美声家なだけでなく、相当な美食家。話題の新店には誰よりも早く足を運び、良いと思ったら賞賛を惜しまない。ワインエキスパートの資格も持っていらっしゃいます。そして支援者で後援者。有益な情報は、損得抜きでたくさんの人と共有し、いろんな人をつなぎ、困った人を助けるためにいつも東奔西走しています。
私 「港区のマザーテレサですね。あ、ファザーテレサですかね」
美声 「たまプラーザだよ」
美のなかの技ですね。技に美が見えます。
私 「年を取るというのは、どうですか」
美声 「黒柳徹子とかの年齢をぴしゃりと言い当てられるのが、年寄りだね」
取材中、バーにたまたまピアノがあったし、たまたま喉の調子も良かったそうで、たまたま楽譜もあったので、むりやり歌っていただきました。
もう美声川俊二と改名したらいいんじゃないかと言いたくなりましたよね。いくつになっても美声は女の体幹をトロめかします。男はカオじゃない、コエなんです。そして骨格が良ければ、ちょっとくらい肉付きが良くなっても「親近感ボディ♥」ってなるわけじゃないですか。こうなってくるとやはりアンチエイジングじゃなくてプロエイジングを推奨していきたいと思います。
オチがない、と原稿確認のときに美声で怒られました。しかしオチがどうしても落ちていないのでかみ合わない会話で締めくくりたいと思います。
私 「アラカン(アラウンド還暦)のときと、いまでは気分的に何か違いますか?」
美声 「アラカン? 嵐 寛壽郎?」
私 「あらしかんじゅうろう? 北風小僧の……?」
美声 「それは、寒太郎」