【噂の新店】肉割烹 喜円

「The Tabelog Award 2026」でBroneを受賞した人気店「肉割烹 上」。西麻布に店を構えて9年になる同店がこの5月、麻布十番に移転(7月開店予定)。その跡地に、6月5日オープンしたのがここ「喜円」だ。いわば「上」の姉妹店、セカンドラインというわけだ。

店を任されたのは、約7年間、前料理長の大久保丈太郎氏に師事を受けた丸子隼人新料理長、35歳。故郷宮城の高校(調理科)を卒業後、上京。最初の修業先である京料理の老舗「熊魚菴 たん熊北店 東京ドームホテル店」で5年間和食の基礎をみっちりと学び、その後、天ぷら店を経て「上」に入ったのは28歳の時。2019年のことだ。「何か新しいものにチャレンジしたいという思いがある中、当時、話題を呼んでいた“肉割烹“というジャンルに興味を持ったんです」。そんな思いから、開店して2年目の「上」の門戸を叩いたのだそうだ。

今回「喜円」で扱う牛肉は“三田勢戸牛”。大久保前料理長が長年の経験を生かして選び抜いた牛だ。「焼いた時の水分量=肉汁が全然違う」と大久保前料理長が絶賛するその牛は、多くの一流料理人たちもこぞって扱うブランド牛。丸子料理長によれば、市場に出回らない希少な牛肉だそうで「生産者の勢戸さんの牛はとにかく赤身の旨みが濃い。33〜37カ月という長期肥育に加え、独自の配合飼料を与えているせいか、肉本来の味わいが実に濃密なんです。その反面、脂の融点が低いので、脂が驚くほど軽やかなところが魅力ですね」。

肉尽くしのコースでも、最後まで食べ疲れしないような肉を求めてさまざまな牛肉を試してきた大久保前料理長の努力の結晶だろう。その思いをしっかり受け継ぎつつ、新たにホルモン類もラインアップに加えた新たなコースは、全11〜12品。

最初に運ばれてきたのは“越冬メークインのガレット”。じゃがいもで仕立てたガレットに甘エビのタルタルと燻製させたブレザオラ(牛肉の生ハム)をのせた一品だ。ガレットはサクサク感を出すために焼いてから一度揚げてあり、そこに甘エビのトロトロ感とブレザオラの塩味が調和することで、食感の妙と共に奥行きのある味を演出。コースのスターターとしては上出来だろう。

続いて毛蟹の一品、ホワイトアスパラガスのお皿と、肉尽くしの前に軽やかな料理が登場。特に炭火で焼いた旬のホワイトアスパラガスに、同じくホワイトアスパラガスのソースを添えたシンプルな一品は、同店の料理の方向性がうかがえる佳品だ。聞けば、調味料は全く使わず、素材の持ち味と炭の風味で勝負。上から、同じキノコでもトリュフではなくホワイトマッシュルームを削りかける趣向も粋。一口目はそのままで。その後、添えられたマルドンの塩でどうぞというのも気が利いている。素材感を活かしたシンプルな料理を良しとする大久保イズムが丸子料理長にもきちんと引き継がれている。

ここから、待ちに待った牛肉のお目見え。スタートはリブマキの“牛刺”から。リブロースの芯の部分に巻き込んでいる希少部位で、柔らかく蕩ける脂が特徴だ。その後、串焼きにしたハツ、テールのタレ焼きと内臓類が続き、「喜円」ならではの味を提供。発酵ベルガモット塩で食べさせるハツもユニークだが、すっぽんをイメージしたというテールが秀逸。蒸した後、骨から剥がした肉片は下拵えの丁寧さが光る品のいい食感。なるほどすっぽんに似ているというのも頷ける。

肉厚にカットしたシャトーブリアンのカツサンド、和牛のすじと鰹出汁がベースのスープも美味なサーロインのしゃぶしゃぶを堪能した後、いよいよ真打“三田勢戸牛のステーキ”の出番となる。肉はヒレ肉。肉汁を逃さぬよう300gほどの塊で焼き上げている。肉の火入れは人それぞれだが、「最初から強火で焼く」のが「喜円」流。「周りはカリッと強めに焼いて香ばしさを出し、中はしっとりみずみずしく仕上がるように焼いています」と丸子料理長。そのため、炭火にかざしては休ませる作業を7〜8回繰り返し、約16分かけて焼き上げているそうだ。肉が提供されると同時に土鍋ご飯が炊き上がる絶妙のタイミングもさすが。塊で焼いたヒレ肉にナイフを入れれば真紅の美しい断面が現れる。口にすれば、シルキーな舌触りの中、優しくも滋味深い肉汁が味蕾をじんわり潤していく。肉肉しさを感じさせつつも後口は軽く、しつこさは皆無。それも上質な肉なればこそだろう。

合わせる白飯は山形の無農薬天日干しのコシヒカリ。粒立ちがよく、ほろりと口中で解ける口当たりも上々だ。この肉と白飯の組み合わせも最強だが、それだけで終わらせないのが最近の和食店の流れ。「喜円」も然りで、この後、土鍋ご飯の第2弾が目の前に。蓋を開ければ、中身は“新レンコンと実山椒の混ぜご飯”。炭火で炙り薫香を纏った新レンコンは、もちもち感も相まってご飯との相性はバツグン。見た目は地味ながらついつい後を引くおいしさで、おかわりしてしまう自分の胃袋が恐ろしい。しかも! 締めはまだまだ終わらない。本当の締めくくりは関西のかすうどんをアレンジしたという煮麺。牛すじとすっぽんでとった出汁に揚げたマルチョウ”油かす“が入り、コクのある味わいに仕立てている。
デザートの作りたて“フルーツ大福”(取材日は“石垣島ピーチパイン大福”)で、口をさっぱりさせて大団円。このフルコースで22,000円。土曜日曜のランチには16,500円のコースもある。





