定食王が今日も行く!Vol.57

地元の魚を地元で食べる!魚のワンダーランド

オープン前から100人行列!

地元の魚を地元で食べる贅沢

 

平日の残業が続き、土日も仕事や身内の事情で忙しく擦り減っていくと、だんだん休日に無気力になっていく“アラフォークライシス”を感じる今日この頃。そんな時、気分転換の方法として、新人時代に先輩から教えられたのが「漁港へ行く」ことだ。

 

その女性の先輩は当時、長時間労働と離婚調停に追われ、平日は深夜まで会社で残業、週末は家でぐったり。別居中の夫との思い出の詰まった部屋で息が詰まるという生活を送る中で、突発的に漁港へ行き美味しい海鮮を食べて、月曜を迎えるという儀式を定期的に行なっていた。

車で国道134号線を下っていくと富士山、湘南の海、相模川などを横目に、平塚漁港へと到着。4年前にオープンし、開店前から100人行列するという大人気のランチスポット「平塚漁港の食堂」が今回の目的地だ。平塚駅からはバスで10分程度の場所にポツリと建っている。写真をよく見ると開店前だが、すでに人が行列しているのがわかるだろう。私が到着したのは10:30頃だろうか。すでに予約などでランチ1周目は埋まってしまっており、2周目の予約を入れた。その後も続々と客が押し寄せ、待合いスペースやお店の前も人だかりだ。

このお店、何十年も続く老舗の漁港の食堂ではなく、4年前に魚介の普及を目的とした農林水産省の、6次産業化事業(1次×2次×3次=6次)認定を受けてオープンしたお店だ。

 

最近では国内有数の漁港である平塚で、地元で取れた魚を食べることが難しい。良い魚はより高額でホテルや料亭へ売られていくからだ。国際的にも厳しい状況の日本の水産業に鑑みると、高値で売れるものを地元の店が安く購入するのも違う。ということで、知名度が低く価値がつかないが、美味しい魚を提供するこの食堂が誕生したのだ。

メニューは当日の仕入れによって毎日変わるそうだ。見ると10以上の超豪華な定食が並ぶ! 1時間以上待っていたにもかかわらず、なかなか決められずに、いろんなものを頼んでしまった。女性にイチオシという「DELI膳」やがっつり系の丼など、ありとあらゆる魚料理が提供されている魚のワンダーランドだ。

刺身で、焼いて、煮て、揚げて

魚のフルコース定食

 

通常、漁港の食堂といえば料理人の技量に左右されにくい刺身定食を食べるのが、自分の中のルールだ。しかしせっかくなので「刺・焼・煮揚」すべての調理法を味わうことができる「よくばり膳」を注文。

地魚の4種盛りはどれもプリップリで新鮮。

サバの煮付けはふっくら柔らかく、優しい味付け。炊き込まれた大根と人参には味がしっかり染みていて、ほっこりした気分になる。

焼き魚はトビウオの開きを炙ったもの、そして夏が旬のシイラのフライが一皿に収まりきらず飛び出しているのも、この店のサービス精神を物語る。

魚のフライは280円で追加でき、定番のアジフライ、カキフライ、そしてエビ天と、すべてを追加で頼んでしまった……。サクサクの衣の中に潜んだアジはふわっと、カキはトロっと、エビはプリプリ! ちょっと雑な表現ではあるが、素材の新鮮さを語るにはこれが一番伝わるのではないだろうか。フライだけ、焼き魚だけ、煮魚だけでも白飯一杯いけるほどのボリュームだ。もちろんご飯のお代わりを繰り返したことは言うまでもない。量も新鮮さも、味も申し分ない。そしてちょっと珍しい地魚たちとの出会いもあり、平塚・湘南の魚介を十分に堪能でき、満足度は抜群だ!

平塚の漁港が目指す未来を

噛み締めながら英気を養う

 

湘南、平塚といえばやはりしらす丼は名物の一つ。しらすとは船引き網漁法で漁獲されるイワシ類の子供の総称だ。実はそれぞれ種類が違う。丼の中央には、宝石のようにキラキラ輝く、朝取れの生しらすが。海藻や錦糸玉子とともに器を飾りなんとも華やかだ。

もちろん釜揚げしらすのサラダも名物の一つで、単品で追加できる。

 

地元の名産や、通年取れるアジ、サバ、カマス、そして湘南の近隣の漁港で取れた魚を値崩れすることなく仕入れ、老若男女幅広く届ける。6次産業化事業は大手企業が参入しては撤退するという、やや難しい領域になっている。そこには農業、水産業などの継続の難しさや、国内外で変わりゆく状況など、様々な要因がある。そんなシビアな環境の中でも、人と地元と魚をつなごうとしている食堂には頭が下がる思いだ。

 

そんな時、シビアな環境の中で闘う漁師さんと触れ合い、うまい魚を食べると、ああ、また月曜日からまた頑張ろう!と思える。「あぁ、最近ちょっとしんどいな」と思ったら、ぜひ漁港に出かけてみてほしい。ちょっと行き詰まった人生が、軽く感じられるかもしれない。