ファッション誌『mer』や『mina』などで活躍するモデルでありながら、豪快な飲み方がなんとも男らしい! お酒好きを公言するモデル・村田倫子が、気になる飲み屋をパトロールする連載。
飲み道楽な彼女が、「同世代の人にもっと外食、外飲みを楽しんで欲しい!」と願いを込めてお送りする今回は、2018年秋に豊洲への移転前に行っておきたいと熱望していた、東京の食のメッカ・築地。早朝から活気に溢れたこの街を食べ歩いて見つけた、美味しいお店を紹介します。
呑み屋パトロール vol.9「築地で食べ歩きの巻」
電車から降りた瞬間、「あ、海に来た」と思った。
駅のホームに、むっとなだれ込む磯の香り。
実は初めて降り立つ築地市場。豊かな海の幸の予感は、ホームに降り立った瞬間から、私の空っぽの胃を刺激する。
平日にもかかわらず溢れる人の波に身を任せ、つきました築地場外。少し歩くと人口密度が一層濃い場所に。人気スポットの正体を確認しようと顔をあげるとハロー、テリー伊藤さん。
あぁ、これが90年以上の歴史を持つ玉子焼き専門の店「丸武」!!! テリー伊藤さんの実家としても有名ですよね。
お店の周りを見渡すと、顔を綻ばせながら、ほっくり黄色の四角を頬張る人たちの幸せな光景が広がっていました。
私もその景色に混ざりたくて、お母さんに100円玉を渡す。
ワンコインと引き換えられた黄色い幸せ。これこそ真の高コストパフォーマンス!!!!!
見た目から「ほくほく」と語りかけてくる玉子焼き。初めてなのに懐かしくて、素朴でふんわり優しい甘さに、思わず目を細めてしまう。
)^o^( この顔文字が、とてもしっくりくるなあ……ほくほく。
夜中のうちに契約農場から仕入れた鮮度ピチピチの卵と、熟練された職人さんの愛情で丁寧に焼き上げられた玉子焼き。なんと早朝3時から仕込んでいるそうです。築地の朝は早い。
創業当時から今日まで玉子焼き一筋。ひとつを妥協なく究める。本気の心意気が醸す破壊力にはとてもかなわないなあ……。
序盤からの素敵な出会いに、すっかりご機嫌な足取りで市場をお散歩。ジューシーな香りに引き寄せられ、お次はここかな「吉澤商店」。
築地は海鮮のイメージが強かったので、この地に肉屋の旗を掲げる光景に思わず足が止まる。店頭では、仲卸直送の新鮮な高級肉が、都内のスーパーではとても見られない数字を並べて販売されている。
そして、ショーケースにころんと並ぶ、メンチカツや和牛コロッケ、ハムカツ……。
むむむ!? “松阪牛オンリー”というエリート育ちで、350円という破格のお値段。
「ほんとですか?」と疑ってしまうような数字ですね。
真偽は己で確かめよう。
ぷっくりまあるい松阪牛メンチカツ。きつね色に輝く衣。大きさもボリューミー。
パクリと一口。噛み締めた途端、どっと押し寄せる旨味の嵐に舌が歓喜。ザクっと楽しい衣を突き破ると溢れる肉汁、体温でとろけ、ほのかに余韻を残す甘い脂。
ホンモノだ!!!!!!(当たり前)
そのままでも充分な戦闘力。そこに自家製のソースをかければ、旨味の掛け算。素晴らしい。
食べ応え抜群、ジューシーが渋滞しているのに不思議なのは、後味がすっとしていて、嫌味がないこと。その秘密は、子供を産んでいない雌牛のみを使用しているから。良質なお肉だけを厳選しているのです。
実は吉澤商店の初代社長さんは、松阪牛を天下に知らしめるべく尽力し、今の私たちにその美味しさと幸せを運んでくれた、功労者。ここは、筋金入りの松阪牛グルメスポットであり、肉への愛と情熱が溢れる場所。なるほど納得、だからこそ大満足のメンチカツだ。
また吉澤商店では、和牛はもちろん自家製「焼豚」や豚肉・鶏肉・ハム加工品など様々なお肉を取り扱っている。その数々のラインナップから、一際光って見えたのは馬刺し…。
さすが、築地。やはり鮮度と価格は一般消費者にも大変親切ですね。くぅ。帰りに寄って今夜の肴にするにはもってこい。酒呑みのツボもきちんと押さえてくるあたり、好きです。
卵、お肉ときて、そろそろ海の幸…とお鼻をひくひく。目を光らせ進むと外国の方も多く集まり、異文化交流が盛んなスポットを発見。
「築地斉藤水産」です。
店頭には、キラキラ光る海からの贈り物。一段と濃くなる磯の香り。鮮度抜群の海鮮を今夜の食卓に調達するもよし、今すぐに…という食いしん坊には、生ガキのテイクアウトをどうぞ。
岩ガキ、真ガキ。大きさも種類も気分で選べます。一番お手頃なサイズでも充分に大ぶり。
ワンコイン、500円のサイズの真ガキをチョイス。
おすすめは、醤油、お酒、昆布の旨味をブレンドした自家製の三杯酢をちょこんと垂らす食べ方。この秘伝のタレが、カキのスペックを充分に引き出すのだとか。
手のひらいっぱいの大きさ、ぷるんと潤い、たんまり海の栄養をこさえたのであろう、ふっくらと色気を漂わせる丸みを帯びた身。
ああ、我慢できない! つるんといらっしゃい!
「はぁ」と溜息が漏れる。勢いよく滑り込んできたと思えば、間髪をいれず弾け、濃厚な甘みと海の香りが力強く主張する。ぷちんという食感と、まったりとした余韻の共存に、気持ちが良くてくらっとします。よく海のミルクと表現されるカキ。はじめてその意味が分かった気がしました。
ちなみに、本日の真ガキは長崎産。ここでは、その時期に旬の産地を厳選して仕入れているそう。つまり、常に旬の美味しい海の幸を堪能できるわけです。
「足を運んでくれたお客さんが、いかに楽しんでもらえるかを一番考えているよ」と、笑顔満点で応えてくれたお父さん。そんな愛溢れる人が切り盛りするお店。人が集まる理由も納得です。
生うにも十分に魅力的だったので、今度はこちらもつるんといきたいですね。また来る理由ができた。
さてさて、小腹も満たされてきました。築地のシメはやっぱり……お寿司でしょう。と、食べ歩きグルメのクオリティの高さに期待値も高めに向かった先は、「つきじ鈴富 すし富」。
少し入った通りは落ち着いていていいですね。
そして、ランチメニューを見て驚き。
あら、お寿司屋さんとは思えない価格ですね……。握りで1,000円切ってるし、丼も…ましてや「鮪切り落としづけ丼」なんて648円!? 消費者である私たちには、お得と幸せしかない地だ、築地。らぶ。
テンションも上がり、お昼からいってしまいましょう。
かんぱい! ランチ日本酒(くぅ〜)。
この時間からの乾杯は笑顔しか溢れません。
頼んだのは、「越乃寒梅『灑』純米吟醸」800円。すっきりとフルーティで、上品に澄み渡る。気をつけないとゴクゴクと手の運びがとまらない魔法の水。
そして、目の前に現れたのは「にぎり」972円。
メバチマグロが二貫。赤味を帯びているのは背中、白っぽい身はお腹に近い部位。カンパチ、赤海老、昆布しめされたサーモン、ホタテ、キュウリと鉄火の細巻き。そして自家製の玉子。
あぁー、なんと豪華キャスト!!!! この顔ぶれを拝むだけでも、すでにお得感がすごい。鮮度の高いネタと、職人さんが握るシャリ。後からピリッと主張するわさびがまた旨味を追いかける。
ひとつひとつの握りに含まれたストーリーを、口の中でゆっくりひもとく感触。寿司は繊細で芸術的な食べ物だ。
そして日本酒と相性が抜群なところが私は好きだよ、お寿司さん。
丼の加減はどうでしょう? 「鮪切り落としづけ丼」648円。
予想よりボリュームたっぷり大ぶりの丼におめかしされた鮪さんたち。
色々な種類のマグロ達を堪能できる赤く輝く宝の山。身にきちんと染み渡ったタレの深みが、ぷりんと口で弾けて踊る。赤身のしっかりした味、酢飯の香りが爽快に舌を、胃を、鼻腔をくすぐる。
あー、なんて幸せなんだ。日本酒も、握りも、丼も十分に欲張って堪能し、3,000円でお釣りが返ってるここは、本当に東京なのか。
払ったお金以上の対価が、ここ築地では何食わぬ顔で返ってくる。お客さんと正面から向き合い、熱と愛のこもったエンターテインメント。あぁ、もっとはやく知りたかった夢の国。
素材そのものにきちんと向かい合い、真っ向から勝負を挑む築地市場。様々な食のスペシャリストが集い、毎日本気で商う姿勢。つくり手の顔が、目の前に堂々と現れる迫力。食の原点を見た気がしました。
入場フリーの食の楽園。大、大、大満足です。
“築地第2弾”、やりたいですね。
文:村田倫子