能登半島地震の復興支援として2024年6月15日、大阪中之島美術館1Fにある「ミュゼカラト」で「クラブ・デュ・タスキドール」主催のチャリティービュッフェが開かれました。この日は、11人のフレンチシェフをはじめ、150人近いお客様が集ったのです。食を通して能登を元気に。その思いが繋がり、広がる夜になりました。

「クラブ・デュ・タスキドール」のシェフ11人による競演

「クラブ・デュ・タスキドール」とは、フランス料理に敬意と情熱を持ち続ける料理人たちによる集いです。フランス料理の巨匠・アラン デュカス氏、上柿元 勝氏、三國 清三氏が中心となり、2019年に日本で発足しました。

「タスキドール」とは、“金のタスキ”という意味。会長の上柿元 勝シェフ曰く「会の活動は多岐にわたります。フランス料理の伝統と技術の継承や人材育成はもちろん、食の大切さを次世代に伝承すること。さらには日仏の農水産業の発展に貢献することを目的に、あらゆる活動をおこなっているのです」。まさに、食文化を通じてフランスと日本をタスキで繋ぐ料理人の集いなのだ。

そのタスキは、未曾有の災害が起こった能登にも、繋がり続けている。
じつは「クラブ・デュ・タスキドール」では「シェフたちができる範囲で、できることを考えたい」と、能登半島地震の復興支援イベントを度々実施してきた。その中の一つが「令和6年能登半島地震 チャリティービュッフェ」。

会場には名だたるシェフ11名が集結!

左手前から、大阪・淀屋橋「プレスキル」佐々木 康二シェフ、大阪・中之島「リーガロイヤルホテル」太田昌利シェフ、埼玉・飯能市「アトリエ・ド・コンマ」小峰敏宏シェフ、クラブ・デュ・タスキドールの会長を務める「カミーユ」上柿元 勝シェフ、大阪「リュミエールグループ」唐渡 泰シェフ、東京・浅草「ナベノイズム」渡辺 雄一郎シェフ。左奥から、京都・烏丸御池「真白」小霜浩之シェフ、大阪・北浜「シナエ」大東和彦シェフ、京都・二条「ラ ビオグラフィ」滝本将博シェフ、大阪・淀屋橋「ル ポンドシエル」小楠修シェフ、京都・清水五条「フォションホテル京都」林 啓一郎シェフ(撮影/藤原琴弓)

まさに、錚々たる顔ぶれ!
ビュッフェ形式で提供される料理とドリンク代を含めて22,000円。決して安価ではない参加費ではあるが、人気シェフの競演という話題性はもとより「能登を応援したい」という方々で会場は埋め尽くされていた。
「イベント告知の2日後には定員に達し、キャンセル待ちの状態が続いたんですよ」とにこやかに話すのは、開催場所になった「ミュゼカラト」を率いる唐渡泰シェフ(「リュミエールグループ」オーナーシェフ)。当日は、146名にも及ぶ客が来場したという。

シェフたち渾身の料理を見ていただくとわかるように、価格以上の驚きと感動に満ちた、チャリティービュッフェだったのです。

ビュッフェらしからぬ、クリエイティブなフランス料理が勢揃い!

ビュッフェとはいえ、そのスタイルはフランス料理のフルコースを味わっているかのような構成。11人のフレンチシェフたちが、各自のブースにスタンバイ。冷たいものは冷たいまま、そして肉料理などは熱々のものを皿に盛り付けてゆく。そして、お客様ひとりひとりと会話をしながら、シェフ自らが手渡しをしている。

そのメニューの一部を紹介させていただこう。

冷前菜の一品。「真白」小霜シェフによる「京都 舞コーンのプリンとフォアグラのかき氷」。糖度の高い京都産トウモロコシ「京都舞コーン」のピュアな甘みに驚く。フォアグラのテリーヌのかき氷との温度差も心地よい一皿
魚料理は「フォションホテル京都」林シェフ作「能登スズキのアンクルート 柚子の香る海藻バターソース」。能登産のスズキや海藻、さらには能登の郷土食「いしり」をソースのアクセントに用いている
肉料理より。「リュミエールグループ」唐渡シェフは、能登の交雑牛を使用。「石川県産牛ロース肉のロティ バターを使わない現代風ベアルネーズソース 野菜の大遊園地とご一緒に」。澄ましバターを用いないベアルネーズソースは、ブドウの種の油とタマネギのピュレでコクを持たせている。ビーツや人参、小松菜のソースほか季節野菜もふんだんに。「野菜の美食」を提唱する唐渡シェフならではの一品
「クラブ・デュ・タスキドール」会長の上柿元シェフによる「牛肉の赤ワイン煮込み ポンムピュレ添え」。鹿児島県産の牛ホホ肉は、香味野菜や赤ワインなどを用いて3時間煮込んでいる。「ド直球です」とシェフ。ソースは深いコクを感じさせながら、赤ワインの酸味が心地よい。ポンムピュレ(マッシュポテト)には隠し味にカレー粉を加えていて、スパイシーな風味がほんのりと漂う

参加者の女性グループに話を聞くと「普段は行くことができない高級レストランの料理を実際にいただくことができて、本当に美味でした」「おいしいお料理をいただいて、被災地の支援に少しでも貢献できたのはうれしいです」とのこと。会場には筆者の知人男性も。曰く「こんなに質が高いビュッフェは初めての経験です。全種類をいただきましたが、フルコースをいただいている感覚だった」と、皆さんご満悦の様子だった。

大切なのは「継続、そして風化させないこと」

「クラブ・デュ・タスキドール」会長の上柿元 勝シェフ(カミーユ)

この日、会長である上柿元シェフにお話を伺った。
「震災直後は、被災地での炊き出しも考えたのですが。道路が寸断された地域などもあり、迷惑をおかけすることも考えられました。そこで、私たち「クラブ・デュ・タスキドール」では、シェフたちができる範囲で、できることをと考え、被災地支援イベントを実施することに」。今回のチャリティービュッフェでは、売上の25%を、能登半島地震の被災地へ寄付するという。

上柿元シェフは復興支援についてこうも話す。「一番怖いのは“風化”です。日本は災害がどこで起きてもおかしくないですし“明日は我が身”なのです。ですから、できる人ができる範囲で応援をし続け、お互い元気になることがとても大切です。そして半年後も、一年後も継続させることが重要なのです」

このチャリティービュッフェの後も「クラブ・デュ・タスキドール」では、能登・石川復興支援のチャリティーイベントを開き続けている。7月8日には「能登・石川復興応援チャリティーディナー」と題し、「クラブ・デュ・タスキドール」メンバーの6人のシェフたちによる美食の饗宴を、東京「京王プラザホテル」で開いた。その後の活動はぜひ、Instagramをご覧いただきたい。

「ご参加いただくお客様には食べて飲んで、笑顔になり、能登を応援していただきたい。おいしさが能登の活力に繋がるよう、タスキを繋げ続けます」と、上柿元シェフは締めくくってくれた。

クラブ・デュ・タスキドール

文・撮影:船井香緒里