コラボレーションメニューより抜粋
(北崎シェフより)
おひたしは杣径で一年中作っています。それは日本料理そのものだから。日本料理の特徴は、水もしくは出汁に食材の味を逃がして、加えられた塩分とにじみ出た風味を汁ごと食べる料理法です。それは、日ごとに変わる味と香りに、たえず変化する時の流れを重ねて感じとってきた日本人の感受性を表しています。能登に流れる水の音のスピードは流れる時間のスピード。そんなことを感じながら作り続けている料理です。
(リオネル・べカシェフより)
夜明けと共に洋助さんの船が港に戻ってくるイメージ。料理人にたくさんの恵みを与えてくれる、能登の海にオマージュを捧げたいと思いこのお料理を作りました。洋助さんの海への愛、海の生き物の命への感謝の気持ちを込めて、できる限りシンプルに調理しました。赤烏賊は昆布締めにして能登島高農園の加賀太胡瓜を添えています。そして能登の海藻アカモクなどもあしらっています。
能登の春は海から始まると言われるほど海藻が豊かなのが特徴です。
能登の漁師の洋助さんとは大変親しくさせていただいており、普段からエスキスで使っている魚も多く取り寄せています。洋助さんは能登町鵜川の漁師集団「日の出大敷」の5代目網元です。陸から数キロ離れた場所に網を張って、袋網に誘導した魚を捕獲する伝統的な大敷網漁。大型の漁船で魚を追って大量に獲るのではなく、魚の動きそのものを読んで「待つ」漁のため、最近では自然への回帰や資源保護につながる省エネ漁として世界中の漁場でも見直されています。
(北崎シェフより)
赤木さんが毎朝歩いている山道を行くと、ある高度を超えると土の色が真っ赤に変わります。これは能登の山のあちこちで見られる特徴的な光景です。豆は、平田さんの持っていた「かわち豆」と呼ばれる在来の黒豆と、杣径に少し残っていた珠洲の金時豆を合わせて使っています。その道のかたわらに育つわらびと土を作る作物と言われる豆の煮汁を合わせたスープです。山歩きの気分と土を感じる味を目指しています。
(リオネル・ベカシェフより)
この料理は能登の人々へのオマージュです。先ほどの烏賊と同様に、シンプルに素材を提示しています。一つひとつの野菜のアイデンティティを失わないように、別々に調理しました。眺めているだけで希望の言葉が聞こえてきそうな一皿です。野菜はすべてが能登からではないのですが、使っているハーブはすべて能登から届いたものです。大きな黒いお皿は赤木明登さんによる輪島塗のお皿です。
(池端シェフより)
1988年から輪島の門前町で七面鳥を育てている大村さんは72歳、飼育施設も大きな被害を受けたのにもかかわらず「必ず復活する」と熱いパッションを語ってくれました。七面鳥に合わせる干ししいたけは冬の間にみんなで摘んで干した原木しいたけ「NOTO115」。地震の揺れとエネルギーでスイッチが入ったようで、この春ものすごい勢いで大量のしいたけが出現し、それを4月位まで干して、今回持ってきました。この料理には大村さんのパッションや、能登の土地の強力なエネルギーが静かに宿っています。
レジリエンス:負の力をポジティブに変換する力強さを表しています。
(平田シェフより)
イメージは「自然の脅威と美しさ」。町や道路、人が何世代にもわたって創り上げてきたものがたった1分間の地震で破壊されました。山も崩れ、海岸も隆起し、今までの景色がそこにはありませんでした。自然の脅威を感じた1月が過ぎてから、空いた時間に山に入りました。倒れた木の隙間を縫って森に入ると、そこには今までと変わらない森の景色がありました。春になると今までと同じように山菜が顔を出し、山椒は花を咲かせ始めました。そんな自然の強さと美しさを共存させた料理にしたいと思い、山椒や藁で燻した蛤を使った力強いソースと、野草の美しい緑の色素を使った麺でパスタを作りました。直接摘みにいった野草(ヨモギ・セリ・明日葉・ニラ・あさつき・セロリなど)が含まれています。葛粉がつるっとした食感になっています。能登の「宝達葛」を使用。山椒をベースに、蛤を藁でスモークしました。仕上げに山椒を散らしています。
(北崎シェフより)
日本料理ではよく一皿の中に海のものと山のものを組み合わせて使いますが、同じ出汁で作ると味が混ざってしまい個性が半減するので、別々に調理してお皿や口の中で出会うように仕立てます。今回は和食の煮物に使うことはないミルクを少しだけ入れています。ミルクに含まれる油脂分は食材の中に含まれる水分が浸み出すのをブロックするので、煮汁の中で味は混ざりにくく、砂糖や味醂を使わなくても柔らかな味にまとまります。ふっくら火を入れたサワラと一緒に盛り合わせます。個性を消すことなく、おだやかにつながる。「和」の料理(和食)のつもりです。
(池端シェフより)
炊き出しでいろんな料理人と交流してきました。そこで地元の居酒屋の方が作っていたハチメを頭や骨ごと揚げてバリ バリと食べる唐揚げがとても印象的でした。 地震を経て地域の中での交流は今までよりも深まりました。炊き出しや地元の方との交流の中では教えてもらうことも 多く、人と人との絆や信頼関係の美しさを料理にしたいと思いおさかな料理を作りました。
本日はイギスをフリット。 小さなハーブは明日葉やせりをつかっています。中にはゆうなんば(能登の柚子胡椒、いしりのマヨネーズ)、かりっ と揚げたイギスの中骨が入っています。お皿の底には 大麦とたけのこが隠れています。 トマトビネガーでマリネし たウドを添えました。そしてブイヨンはたけのこのゆで汁と子魚のコンソメ、少しミルクを使用しています。
このイギスもアカイカと同じ能登町 鵜川、日之出大敷 5代目網本の洋助さんが届けてくださったものです。 3月の上旬にリオネル・ベカが能登を訪問し洋助さんを訪ねました。石川県の漁協は1600人漁師が登録されており、800 人は輪島港で働いていらした。今回は残念ながら海岸が隆起して輪島より以北は漁に出られなくなってしまいました。 鵜川は海岸の隆起が見られなかったため、1月8日から漁を再開したそうです。氷見まで氷を取りに行き、漁をしたとの ことです。
(リオネル・ベカシェフより)
フランスの田舎の料理、庶民の料理によくみられる豚肉と豆の組み合わせ。フランスの歴史を振り返るとこの2つの食材によって人々が生き抜いてきたことがわかります。質素でありながら力強い一皿となっています。時に私たちは食べるものによって生かされていることを忘れがちです。今回池端さんと平田さんが震災直後から行ってきた炊き出しのことを伺って考えました。肉は能登と富山の境にあるぶーぶーファームさんの放牧豚を使っています。ロース肉は風にあてて水分を飛ばし、味噌、ハチミツ、マスタード、お酢でマリネし、仕上げにしっとりと焼きあげました。コンディモンはプルーンとヘーゼルナッツを使ったペーストを添えております。蕪は蕪のジュースで火を入れ、仕上げに表面を焼きあげました。ソースは焼き汁に煮詰めた能登のやまぶどうジュースを加えて味を調えております。仕上げに能登の実山椒で軽く香りを加えた、能登島、高農園のフレッシュなハーブをあしらっています。
(平田シェフ、池端シェフより)
イメージは懐かしさ、郷愁。昔はよく食べられていたイタドリ。食べたことがない人にもどこか懐かしさを感じるような香りと酸味が特徴的だと思います。日本の田舎の原風景が想起できるようなものに仕立てました。
(リオネル・ベカシェフより)
能登からインスピレーションを得たデザートです。能登半島のジオグラフィー、そこに生きる人々の自然、その気高い美しさ、奥深さの中に見え隠れする希望の光。本質的なものははかないものの中に宿るという日本の美意識を表現しました。小豆と米という日本の食文化に欠かせない2つの食材を使っています。リオレはお米をミルクで炊いたライスプディングです。フランスではとてもポピュラーな家庭のおやつです。本日は酒粕とともにアイスクリーム仕立てにしております。隣に添えているのはナツメグの香りのシャンティクリーム。上にのっているのがカシスのチュイール。カシスの酸味をアクセントとして召し上がっていただくデザートです。赤い器は赤木明登さんの能登鉢です。これは元来、托鉢に使う鉢のようです。そして非常に柔らかな口触りの黒いお匙がありますがこちらも赤木明登さんの平匙です。お寺で修行されている皆様が朝食を召し上がる際、1つだけ使用することを許されたカトラリーということです。
文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 写真:お店から
あわせて読みたい