目指すのは和食、最年少でのミシュランの星の獲得
本田:料理人のつながりは結構あるの?
藤井:全然なくて。でも、最近、料理人さんたちにお店に来ていただけるようになりました。なるべく来ていただいたシェフのお店には伺うようにしています。
本田:今、好きなお店はどういうところ?
藤井:最近行ったところだと、赤坂見附に移転した「薪鳥新神戸」。焼き鳥がすごく好きなわけではなかったんですけど、食べたらめちゃくちゃうまいと素直に思いました。それと、シェフが一人でやっていて、そんなに話さない。完全に振り切っていて、ずっと背を向けて鶏を焼いている。
本田:移転して席が増えたからね。以前は説明もしていた。
藤井:そうなんですね。逆に、僕には焼き手だけをやっているのが斬新で、すごくハマりました。ほかには近所になりますが「銀座 しのはら」。料理ももちろんですが、大将を含めてお弟子さんたちが醸し出す空気感がすごい。僕たちも勉強させていただきたいと思っているところです。
本田:カウンタービジネスだから、ああいうエンターテイメント性が必要。「しのはら」出身の料理人が別府にオープンした「日本料理 別府 廣門(ひろかど)」という店があって、彼もまだ若いけどプレゼンテーションがすごい。1回、見るといいよ。カウンターって対面なわけだから、トークもだし、店主の醸し出す雰囲気も必要。ずっと黙って料理しているなら、カウンターでなくてもいいじゃん。客も緊張しちゃうわけですよ。「しのはら」や「廣門」は、もちろん料理もおいしく食べてもらいたいけど、楽しんでもらおうという気持ちがものすごく強い。
藤井:大がかりな演出は人数がいないと無理ですが、一人でもできるお客様の喜ばせ方はあると思います。トークとかを勉強して「しのはら」みたいな楽しいお店にしたいですね。
本田:それはできそう? よく言うのが、和食もそうだけど、寿司店から独立する時には料理と同じように話す技術も大事。それが苦手な人がカウンター店をやると、ぐちゃぐちゃになっちゃう。和食なんか特に裏にしかいないから、トークのトレーニングとかしていない。お客さんと話さないでしょ。もともと話すのが得意な子はすごく有利だけど、そこでつまずいちゃう人もいる。「有涯」の前に神楽坂の店をやっておいて良かったよね。
藤井:神楽坂の店でも、最初は、料理を作るのに必死でほとんどお客様と話せていませんでした。でも、その経験があったので、「有涯」では多少話せるようになったかなと思います。まだまだ自分の中に引き出しも少ないので、料理だけじゃなくていろんなジャンルを勉強していきたいですね。
本田:料理以外の知識を得ようと何かしてる?
藤井:子どもの時から中学まではサッカーをやっていました。あとは将棋ですね。父に教えてもらって、小さい頃からずっとやっていました。箱根の時は、将棋の相手をしたのがきっかけで大将に気に入られて、いろんな仕事を任せてもらえました。
本田:それは面白いね。スティーブ・ジョブズが「Connecting the dots」、日本語だと「点と点をつなげる」ということを言っている。どういう意味かというと、全然つながりそうにない点と点がいっぱいあって、でも、ある時、それが全部つながって、一気に伸びるみたいな。将棋も料理には何の関係もなさそうだけど、それがつながったからね。もしかしたら将棋をやってなかったら、今ごろ、料理は全然できてないかもしれない。
藤井:その可能性あったかもしれません。
本田:これから、どうしていきたい?
藤井:「しのはら」のように、来ておいしいだけじゃなくて、楽しかったなとか、そういう日常から離れた感覚になっていただける店にしたいなと思います。僕個人として料理業界に入ってきてずっと目標にしていることは、ミシュランの星を取ることです。
本田:どうやったら取れると思う?
藤井:料理を頑張って、おいしいものを作り続けていく。作りながら空気感や空間について学んで、「有涯」ならでは、「有涯」だったらと思ってもらえるお店にしたいと思います。
本田:今、24歳だっけ? 和食で星を持っている20代っていないと思う。だとしたら面白い、チャンスじゃん。それを言いまくっていた方がいい。誰かが何か助けてくれることがあるかも知れないけど、言わないとわからない。将来はどうしたい? 将来と言っても、24歳だからだいぶ先の話だけど。
藤井:あまり長期的な目標を考えたことはなくて、何十年後のビジョンはないですね。どこかでやりたいとか、どういう場所に行きたいとかもなくて。今はまだできないことだらけなので、そういったことをできるようになりたいと思っています。
本田:「有涯」にまだ来たことない人に、こういう店なんですと伝えるとしたら?
藤井:僕と同い年の女将がやっている店というのもあってチームがすごく若い。そのことでフレッシュさ、他にはない空気感が出せているかなと思っています。ただ、それだけに頼りたくない。しっかり実力をつけて、これだけおいしくて、サービスも良いのにまだ若いよね、若いけどすごいと言ってもらえるようにしたいですね。
本田:料理としてはどう?
藤井:意識しているのは、奇をてらい過ぎず自分色を出すこと。毎月、料理を食べていただければ、「有涯」の料理はこういう料理だねと思っていただけるものになっていると思います。四季を通して“これが「有涯」の料理”ということを伝えていきたいですね。
本田:なるほど。今日はありがとうございます。
藤井:ありがとうございます。