本連載のナビゲーター、肉バカの小池克臣さん

小池克臣が推す「予約困難予備軍」の焼肉店

巷には「予約困難」な焼肉店がたくさん存在している。口コミやメディアへの掲載など、予約困難となる要因はさまざまだ。本連載では肉バカ・小池克臣さんに早めに押さえておくべき「予約困難予備軍」の焼肉店を焼き方のポイントとともに教えてもらう。

教えてくれる人

小池克臣
横浜の魚屋の長男として生まれるも、家業を継がずに、外で、家で、肉を焼く日々を送る。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、ほぼ毎晩、牛三昧。その様子をInstagramYouTubeで発信中。著書に『肉バカ。No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社刊)。公式ブログ「No Meat, No Life.」。

町田駅から歩いてすぐの雑居ビルの中に潜む焼肉店

平日でも賑わいをみせる町田駅。線路沿いを少し歩くと辿り着く、小池さんが推す今回の目的地は、知る人ぞ知る和牛専門店「焼肉うしの絵」。そんなになじみのない立地ではあるが、わざわざ食べに行く感が期待値を上げる、遠征系焼肉だ。ここかな?という気持ちで階段を上ると、店名のごとく、牛の絵と“完全予約制”と記されたシルバーの扉が現れる。秘密基地のような隠れ家に入る瞬間から、高揚感に包まれるはずだ。

知人の書家によるダイナミックな牛の絵がお店のアイコン。オープン当初は違う店名だったが、ロゴにもなっているこの絵をベースに、屋号を「うしの絵」に変更したという。店主はこの絵を見ると初心に返り気が引き締まるそう

店内へ足を踏み入れると、武骨な壁、ロースターを囲むブースのような席があり、いい意味で焼肉屋らしからぬ、カフェのようなカジュアルでしゃれた内観に驚くはずだ。こちらは2016年に開業し、21年に全面リニューアルした店主ワンオペスタイルの和牛専門焼肉店。国産牛の良さを知ってもらい、感動するほどの本物のおいしさを伝えたいという思いをコンセプトに、国産ハラミにまだなじみがない地域である町田という場所で勝負する。銘柄、等級、マーブリングより、味わいと鮮度を重視し、出所を把握したごく一部にしか流通しない極上の和牛を扱うために、メニューを厳選し、ロスなく回している。

ウッドやモルタルを基調とした、肉を堪能するのに申し分のない落ち着いたブース席が3つ。手前にはさらに暗がりの個室も完備する
 

小池さん

伺ったきっかけは、知人から、すごくこだわり出したいい店があるよと聞きつけ、インスタを見て訪問しました。田島健次商店からの仕入れ、内臓系への熱き思い、細部にまで店主のこだわりを感じ、これは本物だなと確信して再訪したほど。肉好きの仲間はもちろん、家族も連れてきたいなと思えるお店です。とんでもない分厚さの肉が出てきたときは、歓喜! この場所だからできるコスパの良さに、今年イチ驚きました。

迷走期を脱却! 熱き店主が焼肉にかける思いとは?

店主・五十嵐勝弘さんの実家は、創業35年の町田の住宅街にあるファミリー的な焼肉店。幼少から遊びの延長で包丁を握り、厳しい父に頼まれ店を手伝うことをきっかけに、焼肉の面白さに興味を持った。

店主の五十嵐勝弘さん。「食べる人に喜んでもらうのが一番の幸せ。求めてくれる人が辿り着く店になりたい」と、ワンオペにて意地を貫き通す。現在メニューを少なくしているが、内臓系をもっと突きつめてから枝(生肉)にも力を入れていく予定だ

20代中盤まで役者を目指していたが、夢を追わずに焼肉の道で生きていく!と決め一念発起。実家の店は単価が約3,000円だが、もっといい肉を使用し、駅前で勝負したい!と2016年に30歳で自身の店を開業。当初はUSA産のタンを使い、当時流行っていた肉寿司や卵をつけて食べるすき焼きスタイルなどに手を染め、迷走。俺ダサい!と気づき、東京のいい店を見て独学で研究し、リニューアル。コロナ禍に訪れた、山形牛専門店「焼肉Hodori」の国産ハラミのおいしさに感動と衝撃を受け、開眼。影響を受け、生き方すらも変わったという。2022年2月に仕入れを大幅に変更。最高峰の国産牛を取り扱う田島健次商店へ辿りつけたことで、人生も店も一変する。無駄を削ぎ落とし、主に内臓系に力を入れてメニューを絞ることでクオリティをキープし、最大限のポテンシャルを発揮する。

 

小池さん

メニューに書かれた“焼肉は肉の芸術なり”という言葉に信念がこもっていて、内臓系は東京食肉市場の田島健次商店から、正肉は丸富商店からという仕入れにも、五十嵐さんのこだわりと気合いが感じられ惹かれました。友達が少ない、社会不適合者感っていう共通点もあり(笑)、だからすごく好きなのかも。自分が食べておいしいと感じる店の店主とは絶対的に話が合うし、感覚が合う。そういう人との会話は自分が気づかないことに気づくし、楽しいし、知識の幅も広がるんです。だから通ってしまうのかも。