日本の“鍋”からインスピレーション! 「リナシメント」(目黒)

4z2a5146目黒駅から徒歩10分弱、目黒川まで来るとあの美味しい料理がどう変化して待っているのかと思うと少し急ぎ足になってしまう。

 

オーナーである三浦幸一氏が新しく店を出すと聞いてから手ぐすね引いて、今日の日を心待ちにしていたのだ。なぜなら彼が携わる店はいつも美味しくて楽しいから。そしてオープン前に取材させてもらったときに食べたパスタは……、繊細でありながらもストレートにドーンと伝わる味、完全に胃袋をつかまれてしまった。なので「この店のこの逸品」には、もちろんパスタをお願いした。

 

この新作はどういったイメージで作ったのかと問うと、「日本の冬に食べるといえば“鍋”でしょう。」と返ってきた。え? 発想はそこなの? 日本の四季を感じるからですって。面白そう! 鍋イメージのパスタなんてどんな味なのかワクワクしてくる。ズワイガニを取り入れたオリジナルメニューで、ソースはズワイガニと九条ネギを使い、仕上げに香りの良い春菊をのせた。確かに“鍋”だ。

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蟹は大好物であるがゆえうれしい限り。早速いただきましょうか。パスタ、粉の風味がしっかり来るなぁ。甘くてもちもちしてコシもある。そこにソースの味が染み込んでうま味も十分。なんだかイタリアンって感じではない。

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「イタリアンの要素はパスタ以外ほとんど入っていません。鍋のシメのうどんをイメージしています。日本にいるならこういうのがあってもいいかなと思って。」と辻 利治シェフ。

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今日使った「パスタ マンチーニ」は中部イタリア地方のマルケで作られているもの。一般的な「スパゲッティーニ」よりちょっと太めの直径が2.2mmある「スパゲッティ」のため、ソースで煮込む感じ。だから“うどん”なのか。

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ちょっとここでパスタの説明を。昔ながらの豊かな大地、マルケ州で作られる「パスタ マンチーニ」は国産小麦の栽培にこだわり、種まきから袋詰めまですべて自分たちの手で行う。

 

刈り取ってから数カ月間熟成させて成分を安定させることによってゆでても崩れないパスタができる。天日乾燥を再現する低音長時間乾燥(40℃で80-90時間掛けて乾燥)で小麦本来の色と香りを凝縮させている。

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こういった魚介のだしを吸わせるにはもってこいのパスタなのだが、かなりデリケートなので煮込みすぎるとだしの味が強く出てしまい、吸わせないと粉っぽくなるしでアルデンテの状態をソースのなかで調整していかなければならない。

 

パスタのポテンシャルをどうやって引き出すのかが腕の見せ所という、取扱注意の難しいパスタなのである。

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ソースにはゆずこしょうとイタリアの唐辛子も入っている。ピリッとして最後まで飽きずに美味しく食べられる。濃厚な蟹の味にも合う。イタリアでは使わない春菊はモリモリに盛ってある。これはまさしく“香りを届けるパスタ”ですな。

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念願の邂逅

店名「リナシメント」は「ルネッサンス」のイタリア語で意味は「再生」とか「復活」。この意味を表すのがオーナー三浦氏と田沢正人氏のタッグなのである。出会ってから13年、お互いをリスペクトし続け、いつか一緒に店を出そうと言っていたふたりがやっと念願を成し遂げた。

 

田沢シェフは90年代イタリアン全盛期の「ビゴロッソ」、「インコントロ」などを経て渡伊、帰国後は「ダノイ アルトリ」、「オステリア スプレンディド」、「ボッテガ ミケーレ」、「ノーバード」の料理長として食通たちを唸らせてきた。

 

また、三浦氏も「アンティ ヴィーノ」、「ダノイ アルトリ」、「オステリア スプレンディド」、「リストランテ アッラ バーバ」、「イル チルコロ」、「テノハ&スタイルレストラン」などでディレクトール、ソムリエ、オーナーを経験し、運営やプロデュース業で活躍してきた。ふたりはイタリアンの名店「ダノイ アルトリ」で出会い、再び「オステリア スプレンディド」を一緒に盛り上げ、そして「リナシメント」でコンビ復活!である。

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ですが、取材のこの日は田沢シェフったら体調不良でお休み。代わって腕をふるうのは「バカリ ダ ポルタ ポルテーゼ」出身の辻 利治シェフ。前職まではソムリエ業、マネージャー、シェフと2足ならぬ3足のわらじを履いてきた凄腕の持ち主。こちらでもオープン前から田沢シェフと一緒に厨房に入り、しっかり味を受け継いでいます。

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レシピは田沢シェフの考案。間違いなくイタリア料理なのだがそこに至るまでの技術はシェフの料理人生のすべてが詰まっている。

 

イタリア料理のシェフをしながらパン屋、寿司屋、焼肉屋、その他にもさまざまなジャンルや職種を経験した田沢シェフ。日本のレストランで働くということは大抵が日本に住んでいる人に食べてもらう、つまり、日本食の味に慣れているわけである。

 

例えば魚といえば江戸前寿司。寿司ネタは新鮮な魚を“ねかす”。このねかした魚を美味しいと捉えている舌に、ただ新鮮な魚を捌いて出したところで美味しいと感じるわけがない。

 

でもイタリア料理にはない調理法なのでどうすれば良いかわからない。だったら学べ!ということで、懇意にしてもらっている寿司屋にお願いして「魚をシメる」、「酢を冷やす」など、日本食の仕込みをただひたすらさせてもらったそう。パンも、肉も、そうやって“日本でシェフとしてやっていく道”を自ら広げたのである。

 

だから日本人の私にとっては心地良い味付け。しかも今日のパスタのように毎回“美味しい驚き”がある。シグネチャーである美しい前菜の「インサラティッシマ・リナシメント」なんて、よくもまぁここまで手が込んだことをと感心する。十数種類の旬な食材をそれぞれに合った調理法で作り、ひとつの皿に盛りつけるこの料理。いつも何かしら変わっているので飽きることもない。田沢シェフ、本当にすごい皿を作ったもんだ。そのレシピをこれまた忠実に再現する辻シェフ。

 

天才と努力家、ふたりのシェフが作る美味しくて楽しい料理にまた会いに行こう。あんな修行僧みたいな厳格な生活リズムでは、結婚したいしたいと言っても絶対にできないと思う三浦さんにもね。

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今日のお品書き

スパゲッティ・マンチーニ 北海道産ズワイ蟹と九条葱 春菊添え/1,900円