【そば百名店】
寒い時期は「かけそば」で温まりたくなるもの。そば通には冷たい「せいろ」や「ざる」が好まれる傾向がありますが、最近は美味しい「かけそば」も増えています。今回は「かけそば」のおいしい3店を、そば研究家の前島敏正さんに教えていただきました。
そば通も満足させる、アツアツかけそばの美味しい店はどこ?
まずは「かけそば」の定義から。「かけそば」とは、茹でたそばを丼に入れて、熱いつゆをかけたもの。一見すると茹でたそばに温かいつゆをかけただけに見えますが、そばは茹でた後に洗ってぬめりを取り、冷水で〆てコシを出すのが基本です。それを再び熱湯で温めてから熱いつゆの中に入れたのが「かけそば」です。ちなみに、茹でたそばを冷水で〆ずに使い、茹で汁と熱いつゆを入れた器に盛るおそばは「釜揚げそば」といいます。それでは、そば通も満足の「かけそば」店をご紹介しましょう。
東銀座の人気店のかけそば
東銀座の路地に佇む「蕎麦 流石」は、極細の十割そばに定評のある、人気そば店。「冷たいつゆをかけた『冷やかけそば』が有名ですが、温かい『かけそば』も十割そばの美味しさが生きた逸品です」と前島さん。
つなぎを使わずに極細に仕上げられたそばは、繊細な口当たり。丼で湯気を立てるかけそばを手繰れば、つゆの温度でそばの香りがふわりと立ちます。
「大変細く伸びやすいので、お手元に参りましたらすぐにお召し上がりください」とメニューに書かれているように、席に運ばれたらおしゃべりを中断し、伸びてしまう前に食べ切りましょう。
平日のラストオーダーは21:30と、おそば屋さんとしては比較的遅くまで営業しているのも魅力的。歌舞伎や映画の帰りに、繊細な喉越しの「かけそば」で温まってみてはいかがでしょうか。
お次は、中野坂上の知る人ぞ知る店
中野坂上の住宅街に2012年にオープンした「らすとらあだ」は、知る人ぞ知る、看板のないそば店。店内は9席のみと、小ぢんまりしたアットホームな雰囲気ですが、出される料理は本格派です。
「季節ごとに厳選した産地から取り寄せるそばを使っていて、“細打ち”“太打ち”のほかに“平打ち”もあります。噛んだ時においしさを感じるおそばです」(前島さん)
そばの香りと温かいつゆの風味が出合って生まれる「かけそば」のおいしさは、巷の「かけそば」とは全く別モノ。冷たいおそばしか出さない時期もあるので、「かけそば」を食べたい方は電話で確認してからお出かけください。
神宮前の名店も必須
神宮前の路地の「玉笑」も目立つ看板がありませんが、日が暮れると灯る足灯籠が目印。
「粗挽きの『そばがき』が有名ですが、そばの香りをシンプルに楽しめる『かけそば』もおすすめです。『かけそば』には、そのお店のそばの味が現れますから、初めて訪れるお店のそばの味を確かめるために味わうのもいいですね」(前島さん)
粗挽きのそばの実のざらっとした粒感が心地よい「かけそば」は、玉笑ならでは。「玉子とじそば」「花巻そば(かけそばに海苔をのせたもの)」「にしんそば」「天ぷらそば」などの種モノも揃っているので、寒い冬こそ挑戦してみたいところです。
「『かけそば』は小腹を落ち着かせるのにもうってつけ。左党の方はまず『かけそば』でお腹を満たし、それからゆっくり飲み始めるというのもひとつの手です」(前島さん)
玉笑のようにアラカルトで楽しめるお店では、最初に「かけそば」でお腹を落ち着かせ、そば前を楽しみ、種モノや「粗挽きせいろ」で〆るのも一興です。もちろん、〆を「かけそば」とするもよし。どうぞ、お好きなスタイルでお楽しみください。
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【解説】
前島敏正 (まえしま・としまさ)
そば研究家。ほぼ毎日そばを食べ歩きながら、ブログや監修本でのそば情報の発信やそば同好会のセミナー主宰など幅広く活動している。蕎麦鑑定士、江戸ソバリエ及びルシック(ソバリエ上級者)の資格を保有。蕎麦好きが高じてほぼ毎日のように食べ歩き、訪問した全国の蕎麦屋約1,000軒のデータベース化をしている。