マグマ噴火級!? の凄腕シェフが出店「キャリエ」(渋谷)

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お店に伺うたびに美味しくなっている。本当に今までためていたマグマが一気に噴火しているように感じる「Calie(キャリエ)」の高木和也シェフ。

 

出逢いは前職の「ビストラン エレネスク」だった。その時も「うわ、これは美味しいなぁ」と記憶していたのでシェフから店を移ると連絡があった時に「行かなきゃ!」と即座に予約を入れた。私の美味しいものに対する嗅覚だけは長けているのでこういう風に思った時は、まず、間違いない。

 

ということでオープン当日に伺った。場所はいま注目の食エリアである“渋二”こと渋谷2丁目。渋谷宮益坂上から青山学院大学西門通りの間で、もともと「トラットリア シチリアーナ ドンチッチョ」、「ラ・ブランシュ」、「琉球チャイニーズ TAMA」、「モノリス」など大人気店があるエリアだが、2015年後半から感度の高い店が次々とオープンし、さらに活気づいてきたタイミングでもある。

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お店に入るとまずテーブルの配置が面白いと思うはず。入口付近には8席分あり、いかようにでも対応できる。奥へ行くと2席のテーブルが3つあって、これがうまく仕切ってあるので個室ではないがプライベート感が保てる。さらに奥には6人までの完全個室がある。

 

そこへ導くように壁には鏡のラインが引かれており、いろいろな表情が映し出される。ランチは前日までの予約制で4名以上の1日1組限定。これって利益はあると思うが、わりと採算度外視なことなんじゃ……。こちらとしては嬉しいけれど大丈夫かしらと心配になってしまう、そんな店だ。

 

そしてコースも本当にお得感があってディナーは8,000円と10,000円のコースのふたつ。私はいつも8,000円のコースを選ぶが、オマールブルー、フォアグラ、キャビア、鳩、牡蠣など高級食材が惜しげもなく使われているにもかかわらず、大食漢の私でもかなりお腹いっぱいになる。

 

しかもお口直しは高木シェフのご実家で作られている米を使った棒寿司。ソルベではなくお寿司、そしてこれがまた滋味深くて驚く。シェフはご実家のお米作りを小さいころから無理矢理手伝わされてきたそう。だから“ものつくり”がどんなに大変なことかを身に沁みて感じている。「うちの米は香りとうま味が違います。」という話のとおり、栄養価を考えての精米しすぎない米は噛むと恐ろしく甘い。

 

そうやって育ったからこそ、レストランは生産者とお客様を結ぶ役割を担っていると考えていて、生産者をパートナーとしてホームページで紹介したり、生産者のアルバムを作ってテーブルに置いていたり、とにかく生産者をお客様につなげる努力は頭が下がる。

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いま、同じようなことをしているレストランが多いけれど、これはとても大切なことだ。作る側も自分の顔を知られるのでより良いものをと頑張るだろうし、食べる側にとっては安心感が持てる。取り寄せたいと思えば連絡先も教えてくれる。自分たちの国が元気になってくれるのは本当に嬉しいことである。

 

私は高木シェフの火入れが群を抜いて秀逸だと感じており、「この店のこの逸品」は魚でも肉でもどちらでも良いとお伝えすると「どうしても鴨を食べてほしい。」とのこと。ということで鴨、焼いてもらいましょうか。

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火入れのタイミングが絶妙なので、その秘訣を聞くと「お肉と火から、今だよって声が聞こえるのです。」と。「経験値に基づく法則です。この温度からこの温度までという範囲があって、それさえ超えなければどうにでもなります。それだけ引き出しは持っているので。」とシェフ。すごいなぁ、とただただ感心する。

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そうこうしているうちに火入れが終わる。「フランス料理は熱々で出すことがまずないので、通常はこれで良いのですが、僕はあえて最後の仕上げに熱を入れます。」と。ほんの少しの温度の違いでレアが苦手な人にも美味しいと思ってもらえるそう。

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できあがった皿は相変わらず美しい。

 

高木シェフの経歴は少し変わっていて、実は「Calie」で7軒目。この数字を聞くと何か問題でもあるのかと勘ぐってしまうが、これは完全に彼自身が意図していること。

 

20歳で料理人を目指した時に人生計画を立てていて、ただいま有言実行中。30歳でシェフになるという最初の目標のために修業先はホテル、ビストロ、レストラン、グランメゾンと渡った。しかもどこも誰もが知っている星つきの名店ばかり。

 

いずれひとり立ちするというふたつ目の目標のために、ひとつの店で前菜からデザートまでできるようになったら次の店へ移っていった。コロコロと居場所を変える高木シェフに眉をひそめるシェフもいたが、彼の信念を伝えると、それならばと逆にオーナーシェフになるための教えを授けてくれたシェフもいた。

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長居できない以上、常に他人の2倍、3倍以上努力する。休みの日にはあちこち勉強のために食べ歩き、なかなか携わるチャンスがないデザート作りには時間の許す限りパティシエを手伝い技術を習得していった。

 

そして本当に30歳でシェフとなったのである。実家の米を自分の料理に使うことも目標のひとつで、これも実現した。次なる大きな目標は35歳でオーナーシェフ。それまでにもっともっと生産者とつながり、地域の物産を「Calie」を通して発信していきたいと考えている。

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さらに先の話だがいずれは料理業界の底上げをしたいと思っているそう。拘束時間の長さ、賃金の低さを改善し、福利厚生の充実を図り、若手が育たないこの状況を変えたい、料理人に光が当たる時代を取り戻したいと話す。これは高木シェフの実体験からの想いなのだが、私にも料理業界の人材不足や暴力の話が耳に入る。だからあえて記してみる。

 

これは事実ではあるけれど料理に携わるすべての立場からの見解ではないことをご了承いただきたい。立場が変われば意見も違う。そうしなければいけなかった理由もある。でも人材不足によりやむなく閉店を余儀なくされる時代になってしまった。こんなにも人を幸せにできる料理人という仕事を続けづらくなった現状を、とても残念に感じる。

 

高木シェフが料理人を辞めずに済んだのは現在、神楽坂「ラ・トゥーエル」の山本聖司シェフのおかげだという。

 

「“ホテルあがり”はバカにされる風潮があるんです。なぜかというと大きなホテルの厨房ではすべて部門で分かれているので、例えば玉ネギの担当は皮むきを1日中やっています。だからひとつの仕事には長けているのですがひと皿をひとりで作れない人が多い。すると小さいレストランでは何もできないことになります。

 

ホテルからレストランに移った時、毎日、死ぬほど怒られて殴られていました。自分は本当にダメなんだなと落ち込んだ時に当時「オレキス」のシェフだった山本氏とオーナーの春藤祐志氏に出逢い拾ってもらったんです。

 

もちろん最初は雑用係でしたが、それまであまりに殴られ続けていたのでシェフが欲しいものは先回りして準備できるようになっていたんですね。使う道具は人によって好き嫌いがあるので、最初はふたつ用意してその時そのシェフが使ったものを次からは揃えておくといったことを誰よりも完璧にしていました。その努力をシェフが認めてくれて少しずついろいろな仕事を与えてくれたんです。

 

初めて前菜からデザートまでできるようになって自分の目指す道が見えました。頑張れば見てくれる人はいるんだなと思えたのも初めてでしたね。でも振り返ってみると殴られなければ今の自分はなかったと思います。叩かれないために何をしなければいけないかを考えましたし、何もかも死ぬ気で覚えました。」と笑う。

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この経験が店名の由来につながったのかもしれない。「Calie」はフランス語のCamarade(仲間)のCa、Lien(絆)のli、Ecrin(宝箱)のeをとった造語。今までに携わった人々がいて、そこからつながっていく。それこそが宝物。店はその宝物が入っている宝箱なのだ。

 

ポジティブな考え方だと言ってしまえばそこまでだが、自分を殴った人がいたから仕事のスキルがアップし、人生の決断をするきっかけになる人にも出逢えた。自分は決して暴力を振るわないと誓えた。尊敬するシェフから味と料理に対する姿勢を教えてもらった。素晴らしい店で働けたから良い食材や生産者に恵まれた。すべて自分にとっての宝物である。次は自分が仲間と絆を作り、宝物を与えていきたいと思っている。それが「Calie」の使命であり、高木シェフの夢のひとつである。

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これを読んでいただいた皆様、高木シェフの“いま”をぜひ知っておいていただきたいと思う。そしていつかまたくるであろう彼の料理の分岐点にも立ち合ってみてほしいと心から願ってやまない。

今日のお品書き

Menu

Saphir 〜サフィール〜/8,000円 (税サ抜)

▼コース内容

・アミューズ

・前菜 2皿

・魚料理

・肉料理(牛ランプ肉のロースト赤ワインソース)

・小さなデザート

・デザート

・小菓子

・食後のお飲み物