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なんだか最近目にする機会が増えた気がする……そんな、“今まさにキテる”フードを紹介する不定期連載。今回は、最近「カルディ」や「スターバックスコーヒー」などでも見かけるようになったブレイク中のスイーツ「マリトッツォ」と、そのブームの秘密について、お菓子の歴史研究家の猫井登さんに教えてもらいました!
教えてくれる人
猫井登
1960年京都生まれ。 早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理科で学び、調理免許取得。ル・コルドン・ブルー代官山校にて、菓子ディプロム取得。フランスエコール・リッツ・エスコフィエ等で製菓を学ぶ。著書に「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス刊)「おいしさの秘密がわかる スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版刊)がある。
【今これがキテる!】~マリトッツォ編~
起源はローマ帝国時代!?「マリトッツォ」の歴史
マリトッツォの起源は、ローマ帝国時代にまで遡ることができるともいわれるが、当時はラードなど動物性油脂を使い、蜂蜜などで甘くした生地にレーズンなどのドライフルーツを加えた大型のパンだったと考えられている。
中世のいわゆるキリスト教の時代には、復活祭の前の四旬節(しじゅんせつ)の時期に食べるパンとして知られるようになる。四旬節(イタリア語でクワレジマ)とは、十字架にかけられた主イエス・キリストの受難に思いを馳せながら厳粛な悔い改め、精進が求められる時期。食事についても肉や卵などの摂取が禁じられ、粗食にすべきとされた。当時のマリトッツォは、動物性油脂に代えてオリーブ油を用いた生地にレーズンを加えた質素なもので、「マリトッツォ・クワレジマーレ(四旬節のマリトッツォ)」あるいは「サント・マリトッツォ(聖なるマリトッツォ)」と呼ばれた。
さらに時代が下り、1900年代後半に入ると寒い時期に生クリームをたっぷりと挟んだものが登場するようになる。ローマでは、レーズン、オレンジピール、松の実などが入ったものは、そのまま(生クリームを挟まずに)食し、生クリームを挟む場合は、レーズンなどを入れないプレーンな生地を用いることが多かった。
近時はさらにバリエーションが豊富になり、形が丸形(ローマのあるラツィオ州)のほか、楕円形、舟形(マルケ州)、編んだもの、中身も、生クリームのほかに、チョコクリームを入れたものなど、地方ごと、お店ごとにさまざまなタイプが見られるようになっている。
逸話も様々。マリトッツォの名前の由来
マリトッツォ(maritozzo)の名は、イタリア語のマリート(marito/夫)に由来するとされるが、以下のように様々な逸話がある。
- 1. 3月の第一金曜日に、男性が意中の女性にこのパンを贈る習慣があり、将来の夫からのパンということで、この名が付いた。
- 2. 女性が将来夫としたい男性=結婚したい男性に、このパンを作って贈ったことから、この名が付いた。
- 3. 奥さんが愛する夫に食べさせるため、毎朝パン屋に買いに走ったことから、この名が付いた。
実は似ているスイーツがいくつも? その違いとは?
「ブリオッシュ・コン・ジェラート」
同じくイタリアのパン菓子で「ブリオッシュ・コン・ジェラート」という外見が似たものがあるが、こちらは、ブリオッシュ生地にイタリアの、アイスの一種である「ジェラート」を挟むという点で異なっている。日本では、清澄白河「ブリジェラ」のブリオッシュ・コン・ジェラートが有名。
「セムラ」
パンに生クリームを挟むという構造も外見も似ているのが、毎年3月頃に登場する「セムラ」※ というスウェーデンの伝統菓子。こちらは、パン生地にカルダモンを利かせていること、生クリームの下にアーモンドペーストを敷いている点が異なる。
※ 豪徳寺「フィーカファブリーケン」はスウェーデン菓子専門店。アーモンドペーストがセムラの味わいに深みを与えている。
マリトッツォが日本にやってきたのはいつ?
日本において「マリトッツォ」が注目を浴び始めたのは、ここ数年と言えよう。2014年に大阪市の洋菓子店「トルクーヘン」が販売し、人気商品となる。2017年9月、東京の白金台にオープンした「ア・レガ」が、2019年5月、白金高輪にオープンした「ドロゲリア サンクリッカ」が、オープン当初より販売。2020年6月にオープンした「EATALY HARAJUKU(イータリー ハラジュク)」の「マリトッツォ」がテレビで紹介され、一気に知名度が上がる。
2020年11月には、カルディで冷凍のものが販売されるようになり、購買層が広がった。