カウンター席のみのイタリアン。シェフの手技を間近で体験

座席数わずか9席、カウンターのみのシックなイタリアンレストランで腕を振るうのは、三軒茶屋の人気店やイタリアで研鑽を積んだ青木克大シェフ。王道のイタリア料理を根底に持ちながらも、イタリア料理の新たな可能性にチャレンジする料理人だ。

RAMA 青木シェフ
都内の人気イタリア料理店や出張料理、和食など豊富な経験を持つ青木さん。

青木さんが目指すのは「イタリア料理の進化」と「日本とイタリアの融合」だという。日本とイタリア。それぞれの地域で育まれた伝統的な料理を大切にしながらも、時代に合わせて新しい手法や食材を取り入れ、それを積み重ねていくことで次の世代につなぐ料理を生み出していきたい。その思いを支えているのが、多彩な経験だ。三軒茶屋にあった「グッチーナ」で料理人としてスタートしたのち渡伊。イタリアではフィレンツェで、自分が気に入ったお店を直接訪ねて研鑽を積んだ。帰国後は南青山のイタリアンや出張シェフ、和食店などでも経験を重ねている。
その経験すべてが込められ、さらに様々なアイデアが込められているのが「RAMA」なのだ。

RAMA 外観
広尾駅や白金台駅、恵比寿駅から徒歩10分以上。隠れ家的な「RAMA」。

ひと包みでアクアパッツァが味わえる贅沢

RAMAを初めて訪れる人にオススメなのが、8,000円の「おまかせコース」だ。メニューには記載されておらず、初めての人にだけ紹介するコースだという。このコースならば、同店らしさが詰め込まれた“つきだし”から始まり、寿司、トリュフのパスタまで楽しめるので、うってつけだろう。

 

コースの最初に出てくるのは、“つきだし”の「アニョロッティ ダル プリン」。いわゆるアミューズだ。ピエモンテの郷土料理である「アニョロッティ ダル プリン」は、一般的には肉を使うが、同店ではタラやアサリなどの魚介類を煮込んだものを使用。そこに、アサリのスープをサフランで香り付けしたソースをかけている。少し大きめに作られており、アニョロッティの中にアクアパッツァが入っているかのように濃厚な魚介のうまみを味わうことができる。

RAMA「アニョロッティ ダル プリン」
つきだしの「アニョロッティ ダル プリン」。コースでなくとも、最初に出てくる。

日本の寿司とイタリアを融合させる、ドライトマトの醤油

イタリア料理を進化させ、新しい扉を開いていく青木さんならではのメニューのひとつが、コースやアラカルトで味わえる「寿司」だ。かつて勤めていた店のホールスタッフが、まかないに「お寿司が食べたい」と言い出したことで思いついたという。「イタリア料理で寿司? と一瞬、驚いたのですが、考えてみればカルパッチョ用の新鮮な刺身があって、お米もビネガーもある。足りないのは醤油だけ。何か代用できるものはないかと調味料を見渡していたときに目に留まったのがドライトマトのピューレでした」と青木さんが見せてくれたのが、ドライトマトからつくった醤油だった。

 

トマトには、醤油と同じうまみ成分のグルタミン酸が豊富だ。当時、店で自家製パンを出していたことから天然酵母があったそうで、醤油もつくれるのではないかと思いついたという。試行錯誤を重ねた結果、ドライトマトのピューレからジュースを2回搾り、発酵させるなど手間暇かけたイタリアンな醤油が誕生した。

RAMA ドライトマトの醤油
ドライトマトと知っていて味見をすればトマトの酸味を感じるが、知らなければ「うまみのある醤油」そのもの。

その醤油を使っているのが、旬の魚の寿司だ。取材時には桜鯛の押し寿司が提供された。厚めの鯛の押し寿司をオーブンに入れ、ほんのり温かい状態で提供される寿司には、ドライトマトの醤油がかかっている。バーナーで皮目部分を軽く炙っているので、香ばしさとドライトマトのうまみとコクが合わさり、見た目はどう見ても寿司なのに、やはりイタリア料理であると思わせる、不思議な一品だ。

RAMA 桜鯛の押し寿司
粒が大きめの米を使用しているので、厚めにカットされた桜鯛とのバランスがよい。

トリュフのパスタをつまみに、赤ワインを嗜む

全11品のコースには、青木さんのスペシャリテである鴨料理や、同店の人気パスタであるトリュフのパスタ「タヤリン タルトゥーフォ」が入っている。

 

「タヤリン タルトゥーフォ」は、自家製のブロード(出汁)をからめた手打ちのタヤリンにパルミジャーノチーズをたっぷりとかけ、仕上げにトリュフをのせていく。トリュフのパスタの場合、トリュフはスライスしたものを使うが、この店では細かく削って振りかけている。それらをしっかりとかき混ぜてからいただくため、トリュフとパスタが一体化し、どこをどう食べてもちょうどよいバランスとなって味わうことができるのだ。また、一般的なタヤリンより少し太めにし、パスタがすぐにくったりしてくっついてしまわないようにした。そのため、ゆっくりと食べ進めることができる。チーズの濃厚さも加わり、赤ワインと合わせてつまみのように楽しむこともできるパスタだ。

RAMA トリュフのパスタ
チーズとトリュフが絡み合い、芳醇な香りと濃厚な味わいが楽しめる「タヤリン タルトゥーフォ」。

夜中2時までオープン。ハイセンスなのに居酒屋的な雰囲気

夜中の2時までオープンしているカウンターのみの店のため、夜遅くまで仕事をしている人や、深夜に小腹が空いたので軽く1杯だけ飲みたいという人が立ち寄る「RAMA」。店構えやインテリア、盛り付けがハイセンスなのでハードルが高いと思いきや、青木さんの気さくな人柄から居酒屋のように立ち寄れるのもうれしい。また、遅い時間からでも好きな銘柄が楽しめるよう、グラスワインが豊富に揃っている。少なくとも赤白各8種類、スパークリングも2種類ほどを用意しているため、軽く飲みたい人も、いろいろな種類を楽しみたい人も満足できるだろう。

 

ワインを選ぶのは青木さんだ。イタリア料理だからといってイタリアワインに限定せず、もっと自由な観点でワインを選んでいると言い、世界各地のワインから自分の料理に合うものを厳選。例えば、シリアのワインなど、国にこだわらず飲んでおいしいものを仕入れている。
もちろん、料理はアラカルトがあり、紹介した「おまかせコース」の料理も単品で注文できる。1軒目としてしっかり食事を楽しむ以外にも、ワインバーとして立ち寄ったり、食後のコーヒーとデザートだけ利用したりといった贅沢な使い方まで幅広いシーンで利用できる店だ。

RAMAのワイン
グラスワインは1,000~1,300円が中心。ときに1,800円ほどのものを出すこともある。

新しいイタリア料理の可能性を楽しむ

青木さんが大切にしているものの中に、客とのつながり、客への感謝がある。だからこそ、すべての料理や工程に手間をかけている。冷製や常温のものが多い“つきだし”に、あえて手間をかけて温かいものを出すのもその表れだ。なおかつ、それが手間のかかる詰めものであるのは、青木さんの「来てくださってありがとう」という気持ちが表現されているからだろう。

 

そして何より、イタリア料理を進化させて新しい世界を広げていき、それを客と一緒に楽しんでいきたいという青木さんの思いそのものが、この店の魅力だ。すべての食器を作家物の和食器にしているなど、細部にまで日本とイタリアを同時に楽しむ遊び心に溢れている。イタリア料理の店は数多くあるが、日本とイタリアが交わった一歩先を行くイタリア料理がここから始まっていくのかもしれない。

RAMA内観 カウンター席
カウンター9席のみの落ち着いた空間。シェフとの会話も食事のエッセンスだ。

※価格はすべて税・サービス料別

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2020年4月8日)時点の情報をもとに作成しております。

取材・文:岡崎たかこ(grooo)
撮影:玉川博之