〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドの増加や食材の高騰で、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

意外性がいっぱいの中華料理店

地下鉄茅場町駅から徒歩2分のオフィス街に、絶品の中華料理を食べさせてくれる店がある。それが「STADIUM99KAYABACHO」だ。店頭に白地に黒文字で「中華バル」と書かれた長提灯が吊るされているが、どう見ても中華料理店には見えない。ガラス張りの洒落たファサードは、まるでダイニングバーのよう。その店づくりの意外性と同じく、この店の料理を食べたらきっと、同様の意外性にときめくことだろう。

「中華バル」の文字がなければ、誰もここが中華料理店とは思わない、意外性のあるファサード。

店主の金岡永哲さんは客単価15,000~20,000円の高級中国料理店で7年間修業を積み、確かな調理技術を習得。独立するなら、地域に溶け込んだ日常使いできる町中華の店がいいなと考えていた。だが、次に勤めた店が沖縄料理のエッセンスを取り入れた中華料理店で、こういう商売のやり方もあるのかと大いに刺激を受けたそうだ。その後、バーや小料理店などで働いて商売の引き出しを増やし、現在、中華バルの店主として腕前を存分に発揮している。

店主の金岡永哲さん。誕生日は9月9日だが、店名の数字と同じなのは偶然だそう。

1皿で3度おいしい、冷菜ニラレバ

同店のメニュー表は手書きのシンプルなもので、料理は“前菜” “手作り点心”“主菜・麺・飯”“オススメ”の4つにカテゴリー分けされている。そこにはなじみの料理名がずらりと並び、何を注文すればよいのか一目瞭然。中国料理にありがちな難しい漢字が並んだ料理名にドギマギする心配など、同店では無用だ。客は各カテゴリーから料理をチョイスすればいい。

 

例えば、“前菜”からは「冷たいニラレバ」。ニラレバは誰もが知る大衆中華の主菜だが、なぜ前菜で、しかも冷たいのか。その疑問は運ばれてきた料理を見れば、思わず納得する。同店のニラレバはニラとレバーが別々に盛られた、“冷菜”仕立てなのである。

 

ボイルした豚レバーは山椒と醤油のタレにひと晩漬け込まれており、味つけはそれだけ。それ以外の味つけはニラの方で行い、唐辛子も、ニンニクも、生姜も、醤油も、三温糖も、オイスターソースも、ニラの方についている。そのため、ニラはけっこう辛めだが、レバーはほんのり山椒の香りが漂うシンプルさだ。それぞれ単独でもおいしいが、ニラをレバーにのせて口の中に放り込めば、やっぱりこれはニラレバだと安心する。1皿で3度おいしい。そんな洒落た冷菜だ。

「冷たいニラレバ」400円。ニラとレバーが別個に盛られている。

季節の到来が待ち遠しい「旬の春巻き」

“手作り点心”のカテゴリーにはギョウザやシュウマイの料理名が並び、もちろん春巻きもある。春巻きは比較的身近な料理だが、やはりひと味違うのが同店流。商品名は「旬の春巻き」。春巻きに季節感を持ち込んだ、何ともうれしい一品だ。町中華の店は季節感がそれほど顕著ではなく、どちらかといえばなじみの定番料理が主流だ。だからこその店主・金岡さんの遊びごころなのである。

 

さてその内容だが、春に提供しているのは「肉みその春キャベツ包み春巻き」。これは甘めの肉味噌を春キャベツで包んで具材にしたもの。ロールキャベツを春巻きの皮で包むようなイメージで作ったという。味はかなり濃厚で、歯応えもしっかりしている。豚挽き肉は一番粗いものを使用しており、そこにれんこんのシャキシャキ感がアクセントとして加わるので、何ともクセになる。春の終わりと共になくなるのが残念で仕方ない。そんな気持ちになる春巻きだ。

写真は「肉みその春キャベツ包み春巻き」500円。過去には「ホタルイカと雪うるい」「エビと黄ニラの湯葉包み」などを提供。

旨味調味料を使用しない無化調中華の底力

“主菜・麺・飯”のカテゴリーの中から同店の実力に触れるなら、「うま味とシビレの麻婆豆腐」が外せない。本来、麻婆豆腐は旨味もシビレも兼ね備えた料理だが、日本の麻婆豆腐は万人が食べやすい味に仕上げられているものも多い。旨味だけではなく、昨今のブームである“シビレ”を商品名に入れて強調しているところに、同店の意気込みが感じられる。

旨味調味料代わりの肉味噌で旨味を補い、味を安定させる。

“旨味”の部分だが、同店は町中華で一般的な旨味調味料は使用せず、無化調中華にこだわっている。旨味は豚挽き肉、干し椎茸、ザーサイ、干しエビ、実山椒などで作った肉味噌が補う。シビレはもちろん花椒だ。甜麺醤、豆板醤、豆鼓などもきいた濃厚な味わいがクセになり、その中に確かな旨味とシビレを感じる。

「うま味とシビレの麻婆豆腐」1,000円。その商品名に店側の主張がはっきり表われている。

「パラパラ派」も「しっとり派」もどちらも満足させる品揃え

チャーハンは大衆店から高級店までどこにでもあるメニューだけに、その店の奥深さを知る上でも、頼んでおきたいもの。同店では、麻婆豆腐でも使用している肉味噌が入った「五目チャーハン」の他に、「レタス入り黒チャーハン」も揃える。この2品はそれぞれ対照的な魅力を発揮しており、「五目チャーハン」はパラパラで、「レタス入り黒チャーハン」はしっとりした仕上がり。こうした味の好みは人によって分かれるもので、両方押さえているところに同店の心意気を感じる。

パラパラとしっとり。2種のチャーハンが揃っているのもうれしい。

「黒カレーは聞いたことあるけど、黒チャーハンって何?」。こんなふうに、「レタス入り黒チャーハン」の商品名に引かれて注文する客も多い。“黒”の正体は中国醤油で、これで甘味も加える。また、味つけにはオイスターソースも用いており、コクもプラス。レタスはほどよくシャキシャキ感を残し、刻んだチャーシューとザーサイの食感も心地よい。濃厚なおいしさなので、口の中をスッキリさせるドリンクと一緒に楽しむのもオススメだ。

「レタス入り黒チャーハン」800円。中国醤油とオイスターソースで濃厚なおいしさに。

魅惑の酒が料理をさらに引き立てる

口の中をスッキリさせるドリンクとして人気なのが、「自家製生レモンサワー」。また、中華料理店らしいドリンクとして体験してみたいのが「山椒ハイボール」だ。「山椒」の名前を聞いただけで、中華料理との相思相愛ぶりがこれでもかと伝わってくる。山椒が原料のスピリッツをベースに作るハイボールだけに、そのすっきりキレのある味わいが、料理をさらに引き立ててくれる。

「山椒ハイボール」700円。シャープな飲み口で中華料理との相性も抜群。

「体にやさしい無化調中華には、同じく体にやさしい自然派ワインを!」。そんな思いから、同店では自然派ワインにこだわってボトルで赤・白共に7~8種ほど揃える。もともと、店主の金岡さんがワイン好きとあって、自らの体験を交えて中華料理との相性のよさを分かりやすく説明してくれる。特に白ワインは辛口でさらっと飲みやすいものを中心に取り揃えており、女性客にうれしいセレクトだ。

ボトルワインは3,000~4,000円のものを中心に取り揃える。

意外性たっぷりの本格中華の店

食事を終えてふと我に返ると、改めて意外性の連続だった満足感の高い時間を過ごしたことに気づかされる。安心感のあるなじみの中華料理とは、どれもひと味違う。町中華的親しみやすさなのに、中華とはかけ離れたダイニングバーのような店内の雰囲気。酒もオリジナルのハイボールや自然派ワインなど、新しい中華料理との組み合わせを体験することができた。

 

予算3,000~4,000円で楽しめるため、日常づかいに最適。とはいえ、この総合的な魅力は、やはりワンランク上の“町中華”とでもいうのがぴったり。気どらず、町中華でほっこりいきたいが、ちょっとだけ特別な気持ちも味わいたい。そんな“自腹飯”気分のときにオススメなのが、高級中国料理店で研鑽を積んだ店主がもてなす、「STADIUM99KAYABACHO」という意外性たっぷりの本格中華の店なのだ。

6席のカウンター席の他、テーブル席が計8席。この雰囲気で楽しむ中華料理は、なかなか格別なものがある。

 

【本日のお会計】
■食事
・冷たいニラレバ 400円
・旬の春巻き(肉みその春キャベツ包み春巻き) 500円
・うま味とシビレの麻婆豆腐 1,000円
・レタス入り黒チャーハン 800円
 
■ドリンク
・山椒ハイボール 700円
・自家製生レモンサワー 600円合計 4,000円

※価格はすべて税抜

 
※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2020年3月26日)時点の情報をもとに作成しております。
 
取材・文:印束義則(grooo)
撮影:玉川博之