〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドの増加や食材の高騰で、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

クリスマスイブにオープンした和の居酒屋

「絶品の海鮮料理を代官“山”で食べる」。そんなことを言うと怪訝な顔をされそうだが、そして、その代官山駅から徒歩5分ほどの場所にあるのが「オ山ノ活惚レ」だ。

 

一度聞いたら忘れられないほど強く印象に残る店名。そこから海鮮料理をイメージするのはなかなか難しいものがある。同店は2019年12月24日のクリスマスイブにオープン。クリスマスのイメージとは程遠い和の居酒屋だが、これは店主の松永大輝さんが「洋食店が多い代官山に、気軽に入れる和の店をつくりたかった」との思いで開店したもの。ある意味、松永さんからこの街への、粋なクリスマスプレゼントだったわけである。

店主の松永大輝さん。高級和食店で料理人生活のスタートを切り、その後、海鮮料理が売り物の店で修業を積んで独立。

“谷”から上った“山”にある店

松永さんは同店から徒歩5分の場所に「活惚れ」という居酒屋を営んでおり、同店はその2号店にあたる。店名の「活惚レ」とは、松永さんの地元、静岡・清水の夏祭りで老若男女が一丸となって踊り、弾ける「かっぽれ」から取ったもの。自分の店も同じように幅広い客に親しんでもらえればとの思いを、この店名に託したのである。

なお、「活惚れ」の住所は渋谷区鶯谷町。代官山の「オ山ノ活惚レ」は、地理的にそこから上った場所にあるため「谷から上った場所」との意味をこめて、前に「オ山ノ」を付けて「オ山ノ活惚レ」とした。

一般的な和の居酒屋とは少しイメージが異なるため、見落として通りすぎないように注意。

ウニとイクラが鮮やかな、“ばくだん”料理

同店は海鮮料理が売り物の店だけに王道の刺身もいいが、ちょっと変化球をきかせて「『極上』海鮮納豆」を頼んでみるのも悪くない。このメニュー、数種の刺身、たくあん、キュウリを小さく刻み、挽き割り納豆と共に皿に盛り、さらにウニ、イクラ、卵黄を加えて、白ゴマと万能ネギをちらしたもの。濃口醤油をかけてよくかき混ぜ、海苔で巻いて食べる。口の中でごちそう感が躍動し、濃厚な味わいを洗い流すかのように酒がすすんで仕方ない。

「『極上』海鮮納豆」1,200円。よくかき混ぜて、海苔で巻いて食べる。

使用する刺身は日によって異なり、この日は生本マグロの中トロと赤身、カツオ、ヤリイカ、マダコが入っていた。これにウニとイクラが加わるのだから、ごちそう感もひとしおに。魚介は全部合わせて150g以上ものボリューム。寿司店には“ばくだん”と呼ばれる同様のメニューがあるが、これはそれをドーンと豪華にしたもの。原価率70~80%と採算度外視の、何とも贅沢な“刺身メニュー”だ。

際立つウニとイクラの“ツートップ”の存在感が、よりいっそうごちそう感を高める。

餃子にも魚のテイストをプラス

同店は刺身だけでなく、焼きもの、揚げもの、煮炊きものなど、実にメニューの7割を魚介料理が占める。そのため、1日に扱う魚種は20~30種にも上る。だが、魚がウリといっても自店を「海鮮居酒屋」とは捉えておらず、あくまで普通の「居酒屋」のスタンスだ。だからこそ、メニューに「お山のギョーザ」なる魚と関係のない料理もある。ここはひとつ、魚以外のメニューで、同店の魅力に触れてみるのもいいだろう。

 

当たり前だが、「お山のギョーザ」はどこから見ても普通の餃子で、魚料理の気配などみじんもない。キツネ色に焼けた皮の香ばしさが食欲をそそり、ガブリとかじるとなかなか弾力もある。あんは豚挽き肉を、おろし生姜、濃口醤油、塩などで味つけしているそうだが、どことなく和風の味わいがする。それが何かと尋ねると、カツオと昆布の出汁、そしてカツオ節粉を加えているという。ここにも魚介の要素がしっかりと盛り込まれていた。

「お山のギョーザ」800円。醤油、酢、ラー油の容器もお洒落。オレンジワイン(「シャラウリ・ワイン」1,250円)ともよく合う。

カツサンドもある懐の深い品揃え

一方、和の居酒屋でちょっと珍しいメニューが「fishタルタルカツサンド」だ。同商品は、まず居酒屋でカツサンドを出したいという思いがあり、次に魚がウリなので、それなら魚のカツにしようと仕上げた一品。マダラを使用した、サクサク、香ばしい魚のカツだ。

「fishタルタルカツサンド」1,000円。盛りつけも美しく、和の模様の敷紙がひときわ映える。

パンは火鉢で焼いており、炭の香ばしさがほんのり漂う。サニーレタスや千切り人参を挟み、自家製タルタルソースと中濃ソースで味を付けると、クセになる味わいに。添えられたバーガーペーパーに入れてパクッと食べれば、ここが居酒屋ということを一瞬、忘れてしまうほど。こうしたメニューが違和感なく溶け込んでいるところが、同店の何とも凄いところだろう。

バーガーペーパーに入れてガブリと食べる、カジュアルさも堪らない。

料理のおいしさを引き立てるアルコールがいっぱい!

「魚」という共通項はあるが、刺身メニュー、餃子、カツサンドとメニューがこんなにもバラエティーに富めば、アルコールは何を飲めばよいのかちょっと悩んでしまう。だが、同店ではすべての料理に合うアルコールを幅広く揃えている。面白いことに和の居酒屋ながら一番人気はワインで、次が日本酒。そしてその他のビール、サワー、クラフトジン、焼酎、果実酒、ウィスキーと続く。

 

ワインは自然派ワインにこだわり、赤、白、ロゼ、オレンジと揃えている。計30種ほどあり、料理に合わせてぴったりなものを選んでくれる。意外や意外、オレンジワインは「お山のギョーザ」と相性がよい。サワーは生搾りの「本日の柑橘サワー」が人気で、河内晩柑、湘南ゴールド、デコポン、ハッサク、レモンなどから選べ、「『極上』海鮮納豆」ともよく合う。クラフトジンはトニック割が人気で、「fishタルタルカツサンド」と好相性だ。

クラフトビールは1,000円均一で提供。ショーケースにずらりと並んでおり、ジャケ買い感覚で選ぶのも楽しい。「『極上』海鮮納豆」にも合う。

日本酒がすすんで困る“〆”の焼おにぎり

では、裏メニューも含めて15種ほどある日本酒はどの料理に合うのか? ベースは魚系全般だが、〆のメニューに合わせてみるのも一興だ。同店には〆の名物メニューに「炭焼おにぎり」がある。これは、焼おにぎりにウニかイクラのどちらかがトッピングされたもので、300円増しで「Wのせ」にもできる。これならウニとイクラの競演が楽しめ、〆のメニューでもごちそう感を堪能できる。

ウニかイクラのどちらかがのる「炭焼おにぎり」1,000円。300円プラスすると「Wのせ」にもできる。

同商品は「fishタルタルカツサンド」のパンと同様に、カウンター席の一角に設けた火鉢でおにぎりを焼くので、見ていて何とも楽しい。おにぎりの表面には刺身に使用する土佐醤油を塗るが、ウニとイクラの塩分があるため側面には塗らず、絶妙な塩梅に仕上げている。ウニとイクラをつまみに日本酒をグイッとあおると、これはもう焼おにぎりの具というより立派な酒肴だ。

焼おにぎりは、火鉢で炭火焼きにする。土佐醤油を塗り、クセになる味に。

「炭焼おにぎり」はごちそう感も高く、最後にこれを食べて贅沢な思い出を作ろう。このように、ごちそう感のあるウニとイクラで始まり、ウニとイクラで終わる。同店は予算7,000円ほどで楽しめるため、少し背伸びをして楽しむ自腹飯にぴったり。胸が躍る、いや、全身で踊って喜びを表わしたくなるほどの満足感を得られる店。それが「オ山ノ活惚レ」だ。

皿やグラスに店名が入ったオリジナル食器にもセンスのよさが現われている。
【本日のお会計】
■食事
・「極上」海鮮納豆 1,200円
・お山のギョーザ 800円
・fishタルタルカツサンド 1,000円
・炭焼おにぎり Wのせ 1,300円
 
■ドリンク
オレンジワイン シャラウリ・ワイン 1,250円
日本酒 日置桜 500円
合計 6,050円

※価格はすべて税抜

 
※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2020年3月25日)時点の情報をもとに作成しております。
 
取材・文:印束義則(grooo)
撮影:玉川博之