TOKYO HIP BAR vol.52
大人のグリム童話な世界が広がる“ちょい悪バー”
新しいものが生まれるのはいつも、異なるものの掛け合わせから。寅年の日本人バーテンダーと、午年のイギリス人バーテンダーの出会いが、恵比寿にちょっと変わったバーを作り出しました。
二人の干支を重ねた「寅午」は、心の闇を意味する「トラウマ」と同じ響き。その少しダークなイメージと重ね、大人が気兼ねなく悪巧みができるような、落ち着きのある空間が作られました。入り口横には喫煙者にも優しいスモーキングルームがあり、その先の重厚な木の扉を開けると、舞台のような赤いビロードのカーテンに囲まれたバースペースが現れます。
8種類ほど揃うシグネチャーカクテルは、トラウマらしくグリム童話のような少しダークな意味合いがあるもの。森の奥深く、魔女が大釜で怪しげな何かを作っている情景をイメージした「ストレガ・コーデュロン」、薬用樹木のキナやマヌカハニーを合わせた“万能薬・霊薬”の意味を持つ「パナセア」などストーリー性のあるカクテルのほか、音楽や映画への興味も強いオーナーの好みを反映するように、マリリン・マンソンが手がけたアブサンを使用した「リリー・ホワイト」や、ジム・ジャームッシュ監督の映画「コーヒー&シガレッツ」という名のカクテルも揃います。
この赤い空間に合うのは、ヴァンパイアのお墨付きと書かれた「アニミア」。血のカクテルにふさわしく、鉄分含有量の多いスーパーフード「サジー」に、サクランボのリキュールとザクロのシロップ、卵白、クランベリージュース等を合わせ、血小板に見立てたゆかりを振りかけて完成します。酸味のあるサジーを中心にしながらも、リキュールの甘みと卵白の柔らかさが味を支え、ヴァンパイアになった気分でエネルギーを蓄えられるカクテルです。
さまざまなストーリーでカクテルを導き出すのは、オーナーバーテンダーの大内雄介さん。「バーテンダーは自身のバックボーンが反映される仕事なので、異なる背景を持つパートナーがよいと思いました」と語り、オープンに際して声をかけたのは、隣に立つイギリス出身のバーテンダー、トム・ブラドナムさんです。
日本と欧米のカクテルメイキングスタイル、東洋人と西洋人という見た目の違いはありながら、大内さんもオーストラリアでのバーテンダー経験、トムさんも地方を含めて日本で長く暮らした経験があり、なによりバー文化が好きであるという共通点があることで、文化の違いがうまくブレンドされています。
一番身近な非日常であるバーを、すこしダークなストーリーを込めながら作り上げた二人の世界観をどうぞお楽しみください。