目次
〈パン 百名店 2018〉
第3回のテーマは、ネクストトレンド予想
評判の高いパン店を全国各地から100店集めた「食べログ パン 百名店」が、掲載店も新たに「食べログ パン 百名店 2018」(以下、パン 百名店 2018)としてバージョンアップ! そこで、〈こんがりパンだパンクラブ〉のひのようこさんと、食に詳しいライターの齋藤優子さんが、その発表にあたって座談会を開催。「パン 百名店 2018」から見えてくるネクストトレンドから、注目エリア、偏愛パンまで。パンについて語り出したら止まらないふたりが繰り出すホットな話題を4回に分けてお届け。
第1回 トレンド振り返り
第2回 注目エリア
第3回 ネクストトレンド予想
第4回 パン好きふたりのマイベスト
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第3回のテーマは、ネクストトレンド予想。
食パンやコッペパンといった日本ならではのパンがブレイク中。では、次にくるのはどんなタイプ? パン通ふたりは、“日本ならでは”の流れがさらに進むと予想した。
日本独自のサンドイッチ、パン、そして店作りが進行中
写真(左)齋藤優子さん(右)ひのようこさん
「パンそのものから、店のスタイルまで。ごはんを食べるシーンに、パンが入ってきたとひしひしと感じています」(ひのようこ)
「パン屋に行って、かつお節や本、花まで買って帰る時代がくるなんて! 個性ほとばしるパン職人の店作りも楽しみ」(齋藤優子)
※(*)がついている店舗は、「パン 百名店 2018 」掲載店舗
KEYWORD 1 サンドイッチの和風化が進む
齋藤優子(以下S)「サンドイッチは、“和”サンドの進化に拍車がかかるのでは、と予想しています。すでに、あんバターなど、スイーツ系は定番化。やわらかいパンのみならず、東京・新高円寺〈SONKA〉(*)のようなバゲット専門店にまでおいしいあんバターサンドがある。今後は、おそうざい系サンドにも、その傾向が広がりそう」
出典:みるみんくさん
ひのようこ(以下H)「たしかに、面白い具材を使ったサンドイッチは増えていますね。東京・下北沢〈カイソ〉(*)には、トルコの定番サバサンドならぬ、イワシ缶のサンドがあったり、枝豆がぎっしりのったクロックムッシュなどがあって、個性豊か」
出典:hymurockさん
S「関東圏で卵サンドと言えば、ゆで卵を使った卵サラダが主流でしたが、近年、温かい卵焼きをはさんだタイプが増えてきましたよね」
H「東京・麻布十番にある甘味処〈天のや〉が火付け役のひとつでしょうか。ここはだし巻きですよね」
S「〈天のや〉は、もともと大阪の日本橋にあった甘味処。関西圏では、だし巻きを使った卵サンドが多いです。京都・出町柳〈COFFEE HOUSE maki〉の和風タマゴトーストは、卵焼きに海苔とかつお節を重ねています。こうした卵サンドブームもひと役買って、作り手にも食べる側にもパンと和風食材との親和性をもっと試してみたいという思いが強くなってきたのかもしれません」
H「そういえば、昨秋、赤坂にできた〈パンとエスプレッソと〉(*)の会社が手がける〈コーテシー〉。ここは卵サラダサンドなのですが、そこにいぶりがっこが入っていました!」
S「京懐石〈京大和〉が、京都伊勢丹店限定で和風サンドイッチを出しているのですが、だし巻きのほか、おからやきんぴら、高野豆腐を具材に使っているんです」
H「高野豆腐ですか? 面白いですね」
S「“高野豆腐なんて合うんだろうか”と疑心暗鬼で口にしたのですが、フライにして油脂分を補っているせいか、驚くほど一体感があって、素直においしいんです」
H「京都〈ORENO PAN okumura〉のカツサンドは、自家製のしば漬け入りでした。いまはまだ、関西圏のほうがその傾向が強いようですが、これから全国に広がっていくかもしれませんね」
S「そうですね。明太フランスが、福岡から全国に広がっていったように」
KEYWORD 2 味噌汁とパン、が日常化する!?
S「食パンに限らず、シンプルなハード系のパンも、ごはんのおかずに合うものが増えてきたような気がします。たとえば、きんぴらや肉じゃが、味噌汁と一緒に楽しめるような」
H「少し前は、作り手の方々から、“どうやったら、夜ごはんにパンを食べてもらえるだろう”という相談を良く受けていたのですが、少しずつ変わってきたのかもしれませんね。夜にパンを食べるのは、ローストビーフやビーフシチューなど、洋風の料理が食卓に並ぶ時だけではなくなってきた」
S「国産の小麦粉のみを使っている〈365日〉(*)のソンプルサンというパンなどは、白いごはんと同じように、和風のおかずに合わせられる。やはり、国産の小麦粉を使っていると、和食との相性がいいんでしょうか」
出典:シノンセさん
H「食感も影響しているかもしれません。ここ数年、水分量の多い“もっちり”や“もちもち”といった食感のパンが増えてきて、いまや日本のパンの特徴のひとつになっています」
S「“もちもち”って、ごはんに通じる、日本人好みの食感ですものね。そういえば、神戸〈サ・マーシュ〉(*)には、小麦粉ではなく、米粉を使ったバゲットがあって、和食にとてもよく合うと聞いたことがあります。ここには、ドイツパンがジャガイモを練り込むように、山芋を練り込んだパンもあるし、京都〈ワルダー〉(*)には、だし入りのパンがあります」
H「日比谷に新たに誕生した〈ル・プチメック〉には、山椒のバゲットもありますよね。我が家はもともとごはんを炊かないので、和食にも合うシンプルなパンが増えてくれるのは大歓迎です」
KEYWORD 3 ベーカリーに本や花が並ぶ時代到来!
H「ごはんを食べるシーンに、パンが入ってきているというのは、店のスタイルからも伝わってきます」
S「あ、それ、すごく感じます。大阪〈ル ・シュクレクール〉(*)の北新地店は、モダンな内装でありながら、店頭でかつお節を売っていたし、東京〈365日〉(*)で納豆を買ってきたこともあります。どちらの店にも店主が自身の目で選んだと思われる食材が、パンの材料にこだわらずに並んでいて、ベーカリーのスタイルも変わってきたなぁとつくづく思います」
H「材料の産地に足を運ぶパン職人が増えてきたせいか、地元の生産者や料理人などとのつながりも強く感じます。以前は、ベーカリーがレストランにパンを卸すだけだったのが、最近はその逆も出てきました」
S「レストランからも、ベーカリーにサンドイッチの具材を卸すようになってきました」
H「昨年オープンした〈ビーバーブレッド〉には、割田健一シェフの人脈の広さを物語るように、多彩なコラボサンドがあって、それも楽しみのひとつ。銀座のビストロ〈マルディ・グラ〉のソーセージ入りMGドッグに、六本木〈サロン デ サリュー〉のカレーを使ったカレーパン……」
出典:南十字輝さん
S「〈ビーバーブレッド〉は、決して広くない店内に、三軒茶屋のイタリアン〈ナティーボ〉のキャラメルポップコーンや、神楽坂「かもめブックス」がセレクトした本が置いてあって、予約すれば本も買えるます。そういえば、〈コーテシー〉にも、アートブックが置いてありますよね」
出典:えもやん★スイーツハンターさん
H「東京・千駄木の〈ベーカリー ミウラ〉は、ひとつ屋根の下に花屋もあって、パンを買うついでに花を買って帰ることもできるんですよ」
S「パリよりおいしいバゲットを作るぞ!と頑張っていた時代を経て、パン職人はいま、日本人ならではの、より地域に、生活に根ざしたパン作り、店作りを目指しているのかもしれませんね」
第4回へ続く。
PROFILE
ひのようこ
〈こんがりパンだパンクラブ〉主宰。〈ベッカライ徳多朗〉のミルクフランスでパンに開眼。そこから来る日も来る日もパン、というパン生活が始まり、気づけば、それを生業とするパンコーディネーターに。現在も1日3食パン。家でごはんを炊くことはない。月に1回、クラブでパンの試食会を行っている。
齋藤優子(さいとう・ゆうこ)
パン、スイーツからカレーまで。雑誌をメインに取材・執筆するフードライター。東京・青山に〈デュヌ・ラルテ〉がオープンした時、アイテムやディスプレイの斬新さに、パンの概念を覆される。現在、京都にも拠点を置き、東京と行ったり来たり。関西圏のパンを食べ歩きながら、関東圏との違いを感じる日々。