日本橋駅からすぐのビルの9階に、凛と佇む「鮨むとう」。オープンしたのは6月10日、バタバタしてなかなか取材に応じられなかったという言葉から、主人・武藤啓司さんの誠実な人柄が伝わる。
寿司職人としては、まさに円熟の年代だが、その経緯を聞くと、なかなかに個性的だ。
六本木、広尾、恵比寿などで広く経験を積んだのち、縁あって入社した店が「割烹智映」。
一昨年残念なことに若くして亡くなったが、女主人は魚の目利きと扱いについては唯一無二と言われる存在だった。10年の間に多くのことを学んだという。その後「すきやばし次郎」出身の「鮨あお」で3年間、研鑽を積んだ。
「しゃりなど、鮨あおの時代に学んだものをベースにしていますが、そこに、自分なりのエッセンスを加えたオリジナル。それでいて正統派の江戸前、そんな寿司が、今、私が目指している寿司です」と、武藤氏は言う。
魚の扱いも、しゃりの扱いも実に丁寧。ゆるりと流れるようなその所作を見ていると、この人の握る寿司は必ずおいしい。そう思わせられる。
酒が進むつまみの数々
現在は、つまみが5品と握りが14貫のおまかせコースのみだ。1品ずつ、1貫ずつ、じっくり味わいたい。
縞海老
つまみは1品目が、とろりとした食感の中に旨みの強い縞海老。殻を乾燥させて醤油につけこんだ、海老醤油をからませて盛りつけている。
香ばしい殻の香りがまとわりついて、なんとも美味なスターターだ。
蒸し鮑とうにの海苔ソース
お造りの次に出されるのが「蒸し鮑とうにの海苔ソース」。
時間をかけてゆっくりと柔らかく蒸しあげた鮑と北海道産のうにという贅沢なつまみだが、実はその下に海苔のソースが敷かれている。焼き海苔を鮑のだしで煮たという、ひと手間もふた手間もかかった仕上がりに、仕事の丁寧さが見てとれる。
白甘鯛の塩焼き
最後に出されるのが焼き物。本日は白甘鯛の塩焼きである。
遠火の強火の炭火でじっくり炙ったそれは、皮はぱりっと、身はしっとりふっくら。温かいものを一品いただくと、満足感も違ってくる。
ほかには、必ずその日の白身のお造りと、かつおの藁焼きのたたきが定番として供されるそうだ。