今年8月中旬から10月上旬まで、青森県下北郡大間町が食と観光を掛け合わせた新たな取り組みを行っていることをご存じだろうか?
「大間マグロ一本釣り漁ウォッチング」と題されたこのツアー。
文字通り、“黒いダイヤ”と呼ばれるクロマグロ(通称・本マグロ)を求めて海に出航する大間の漁師たちの雄姿を見学できるツアーなのだが、とにかくその内容が“ここでしか体験できない”ほどスゴイ。
荒波を乗り越え帰還した後は、地元の名店「浜寿司」で、マグロ料理(別途料金)も堪能できる「大間マグロ一本釣り漁ウォッチング」。五感をフルスロットルにして、マグロを楽しむ新時代のツアーの模様を余すところなくリポートします。
1匹1億5,540万円のマグロを釣った漁師のお店で食す!
大間と言えば、マグロだ。
なぜ大間が、マグロの町として注目を集めるように至ったかは後編に譲るとして、まずは大間のマグロを食べてみたい。船の出航時刻は朝10時。となれば、その間を利用して、マグロを食べるに越したことはないわけだが、「朝から極上のマグロを堪能したい」という方にオススメしたいのが、大間でも有名なマグロ漁師の直営店「魚喰いの大間んぞく(おおまんぞく)」だ。名前からして、美味くないわけがない。
こちらのお店は、2013年の築地市場の初セリで、1匹1億5,540万円(!!)の史上最高値を叩き出した大間マグロを釣り上げた漁師の父である竹内 薫さんが、漁師を引退して営んでいるとあって、朝早くから多くの観光客が訪れる名所でもある。それにしても、 1匹1億5,540万円とは驚きだ。マグロの世界にも、“1億円プレイヤー”が存在する……その事実を知るだけで、何ゆえ、津軽海峡の厳しい荒波に船を出す漁師が後を絶たないか分かるはずだ。
朝から大間の大トロを食べるのは、明日地球が滅びでもしない限り気が引けたので、赤身のマグロを堪能できる「マグロ切り落とし定食」を注文。当たり前すぎて申し訳ないのだが、美味すぎる。
甘みもさることながら、柔らかい中にも赤身特有の確かな食べ応えがあり、心の奥底で何度も「魚食文化、万歳!」と叫びながら、マグロの切り身を口の中に放り込んでしまった。大間の人たちは、こんなに美味いものを毎日食べているのか……うらやましいッ! 週2~3回だったとしても、ズルイぞ。
それにしても、あれだけ美味いマグロをコンスタントに漁獲できる津軽海峡とは、どんな場所なのか? 集合場所である大間漁協に着くと、係留されるはえ縄漁船「第58海洋丸」(約5トン)が、我々の眼前に、姿を現す。決して大きくはない一本釣り漁船に乗るわけにはいかないので、ツアー参加者は、大間のベテラン漁師であり、自身も夜にはえ縄漁を行う泉徳隆さんが操舵する、この第58海洋丸(約5トン)に乗船し、一本釣り漁を行う漁場へ向かうことになる。
ちなみに、一本釣り漁は100年近く前から続けられており、マグロとの格闘が数時間に及ぶこともあるほど体力が問われる伝統漁法だ。乱獲を引き起こす可能性の高い巻き網漁法と違い、資源保護につながる漁法として、世界的にも注目されている。
対して、我々が乗り込むはえ縄漁船、すなわちはえ縄漁法とは、1本の幹縄に多数の枝縄をつけ、その枝縄の先端に釣り針をつけ、一度に多くのマグロを捕獲する漁法。一本釣り同様、こちらもマグロを傷つけないため、高値で取引されるケースが多くなる。これまで大間は、この二つの漁法を駆使して、多くの超級マグロを釣り上げてきた実績を誇るのである。
船は、10人ほどを乗客を乗せ、出航。薬剤師から「これが最も強いものですね」と太鼓判を押された酔い止めは飲んだ……いざ、海賊王に俺はなるッ!
津軽海峡のド真ん中は、絶叫型アトラクションだった
マグロ漁見学ポイントまでは、港から約5キロの沖合。20~30分ほどで目的地に到着するが、ただの沖合ではない。津軽海峡のド真ん中に向かっていくため、四方八方から高い波が押し寄せる。この日は時化(しけ)一歩手前の天候ということもあり、何かに捕まっていないと立っていられないほど。正直、コンディションはよろしくない。
ツアー概要の中で、“津軽海峡荒波ライド 顔面蒼白系アトラクション”というフレーズがポップなフォントで躍っていたのだが、写真を見ても分かるようにまったくポップではない。だが、ハードな中にも“つり橋の理論”ではないが、揺れに揺れまくるので、「大丈夫ですか?」「想像以上ですね(笑)。何かあったら言ってくださいね」などなど、乗船している他ツアー客と、妙な連帯感と助け合い精神を覚えてしまう面白さがある。この揺れの中で、婚活イベントをすれば、いつもより成婚率が上がるような気がしてならない。
なお、乗船前に簡易なレインコートや胴長靴は用意されているが、濡れてもいい服装で臨まないとエライことになるとだけは言っておく。
操舵室には、魚群探知機や各種レーダーなどが完備。泉さんは、乗客を漁場に案内できる遊漁船業の許可を持っている大間唯一の漁師でもあり、地元漁師たちからの信頼も厚い。マグロを釣り上げるために、生活をかけて心血を注ぐ漁師たちの漁場へと近づくことができるのは、泉さんだからこそ。“漁師VSマグロ”というリアルな環境を見せることに、とことんこだわっている点も見逃せない。
なお、良コンディションのときは、提供写真のように何十隻もの漁船が、漁場を目指して一目散に進む。天候だけでなく、マグロの魚群が大間サイドではなく、竜飛崎サイドにいれば、当然、漁船は少なくなる。
そもそも、 「8月~10月にマグロなんて取れるの?」という疑問を抱く人もいると思うが、大間のマグロ漁期はおおよそ8月~翌年1月くらいであり、年により始まりと終わりが前後する。山々から形成される下北半島の豊かな植物性プランクトンと、海流が交わる津軽海峡の海洋性プランクトン&ミネラルによって、天然の好漁場となる大間周辺は、夏場でも良質なクロマグロが集うので、その点は心配無用だ。ちなみに、寒くなるにしたがって時化が多くなり、出漁回数が減少するため、冬場のマグロは値が上がりやすくなる。
さて、提供写真の青空と比べると、乗船当日は見事な曇天模様である。当然、波も高く、目的地である漁場に到着後は停留状態になるため、漁船はより一層波に揺られ、ちょっとしたフリーフォールのような状態になる。舳先(船首)から鋭く波を乗り越える衝動で、そのまま垂直落下するような形になり、いよいよ自然絶叫型アトラクション感が極まってくる。人によっては、大当たりの日だ。
後は、マグロの姿を見ることさえできれば……。その続きは後編にて。『マグロ』と言えば、二夜連続ですから、またがせていただきます。というわけで、
“マグロ、ご期待くださいッ!”
【大間マグロ一本釣り漁ウォッチング】
ツアー公式サイト:http://yproject.co.jp/tour/maguroryowatching/
料金:1出航 120,000円(1名~10名まで)※10名なら一人当たり12,000円
人数:1名~10名(中学生以上が対象)
実施日:8月~10月上旬の毎週日曜日 ※時化や悪天候の場合は中止/実施日以外の出航は要相談
時間:10:00~ または13:00~(時期によって変更あり)
※所要時間は2時間。最長3時間ほど。
集合場所:大間港・大間漁業協同組合そば
申込み:7日前まで
問合先:Yプロジェクト(株) TEL:0175-37-5073/MAIL:info@yproject.co.jp
後編は、「浜寿司」さんの昼食“マグロのフルコース”も紹介
果たして“黒いダイヤ”を目撃することはできたのか?
そして、目の前でマグロが捕れる大間だからこそ可能なマグロ料理を含んだ“マグロのフルコース”とはいかに!?
マグロとともに歩み、進化する大間。
その魅力を知ると、あなたも大間に行きたくなりますよ。
取材・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)