ピエモンテ料理の第一人者、堀江純一郎シェフが挑む新店

2月に奈良から東京に移転した「リストランテ・イ・ルンガ」。多くの食通たちをファンにもつ堀江純一郎シェフが手掛ける一軒だ。代名詞といえる「アニョロティ・ダル・プリン」をはじめ、象徴的な料理と共にその魅力をお届けする。

二子玉川を新たな舞台に、堀江純一郎シェフが腕を振るう

自然光が差し込む店内。各テーブルには、小さな生花が飾られている。

 

今年2月、二子玉川駅からすぐの場所に「リストランテ・イ・ルンガ」が移転オープン。9年間にわたり、奈良の東大寺前で、全国の食通たちを魅了し続けてきた堀江純一郎シェフの店とあり、早くも話題を集めている。

 

店内は、前面がガラス張りで、木を印象的に配したデザインで、木漏れ日のように自然光が差し込む。「花水木の街」二子玉川を意識しているという。厨房と客席は、細長い窓越しで様子が見えるような造りになっているのも特徴。調理中でも客席が見え、ゲストの食事にも目が行き届く。天井からランダムに吊るされた照明は、真鍮で作った特注品で、「フィラメントの美しさを意識しました」と堀江さん。昼と夜では違った表情を見せてくれる。

オープン以来、変わらぬロゴで愛されている「リストランテ・イ・ルンガ」。

 

二子玉川に移転を果たしたが、スタッフは奈良のメンバーと一緒。そのため、オープン間もなくてもすでに安定感ある心地良いサービスが印象的だ。

 

店内に飾られた絵は、修業時代からイタリアで購入した数々。「なけなしの金で、いつか自分が店を持った時のためにと買い集めたものです。奈良の店でも飾っていました」(堀江さん)

新たなスタートを切った、名シェフ・堀江純一郎さん。

 

大学卒業後、修業経験もなく料理人を志して1996年に渡伊。トスカーナ州「オスワルド・バロンチェッリ」「ロマーノ」、ピエモンテ州「イル・カシナーレ・ヌオーヴォ」で研鑽を積んだ。2002年には、ピエモンテ州「ピステルナ」のオープニングシェフに抜擢される。帰国後の07年、東京・西麻布に「ラ・グラディスカ」をオープン。09年に、奈良の魅力に触れて移住した。

 

「都心もいいけれど、地元の世田谷を選びました。内装も周囲の緑豊かな自然と調和するようなデザインにしています。奈良では46席でしたが、二子玉川は14席。よりゲストと密に、ダイレクトに料理をお届けしていきたいですね。これまで、イタリア、西麻布、奈良で経験してきたことを、存分に表現していきたいと思います」と語る堀江シェフ。

イタリアと日本、大胆さと繊細さが共存する料理の数々

ウサギの肉を使った前菜「トンノディコニーリョ ピエモンテ風」。

 

前菜として提供されるこちらは、ハンガリー産のウサギをサラダ仕立てにした軽やかな一皿。丸ごと仕入れ、パーツごとに分けて、ローズマリーやローリエ、ジュニパーベリーなどでマリネにして真空でパーツごとに湯せんしている。12年熟成のバルサミコを添えて。

20年以上作り続けているパスタ料理「アニョロティ ダル プリン」。

 

こちらの「アニョロティ・ダル・プリン」は、堀江シェフの代名詞ともいうべき一皿で、ピエモンテ州の「イル・カシナーレ・ヌオーヴォ」で研鑽を積んだ時代から作り続けているメニューだ。家庭料理として作られているものを、堀江シェフならではの仕立てでアレンジし、リストランテの料理に昇華している。

 

中が透けて見える薄いパスタ生地の中には、牛、豚、ウサギの3種類のミンチと、イタリア米、ホウレン草が詰められている。ソースは、肉汁とバター、パルメザンチーズから作るまろやかな風味。「リストランテ・イ・ルンガ」では、堀江シェフの多彩なパスタレシピの中から、常時3~4種類用意している。

パスタとヒグマそれぞれの旨味と食感の相性がいい「オッキ ディ ルーポ 熊のポルペットーネ」。

 

トマトで煮込む料理のラグーナポレターノに着想した一皿。オオカミの目という意味のパスタは、プリッと食感よく、食べ応えあり。アスパラガスとイタリア産グリーンピースが、春らしさを添えている。団子状の肉は北海道を拠点とするELEZO社から仕入れるヒグマのスネ肉を粗挽きにして、玉子やニンニク、ハーブなどと丸めたもの。小麦粉を使用しておらず、肉の食感と風味がダイレクトに伝わってくる。紹介している料理はすべてディナーコース「Una Pagina」(13,000円)からの一例。

 

食材にも精通する堀江シェフ。肉は、先ほど紹介したELEZO社のほか、フランスやイタリアから選りすぐりのウサギや鴨などを仕入れている。野菜は三浦半島の長島農園をメインに、ジャガイモは北海道の村上農場から。

お酒好きの心をグッとつかむ、稀少なワインとグラッパ

「バルバレスコ クリケット パイエ 2000」48,000円、「マグマ ロッソ 4」38,000円など。

 

自身もお酒好きという堀江シェフ。ワインのラインアップにも目を見張るものがある。ピエモンテ産のものを基軸に、自然派を含め、マニア垂涎ものの銘柄も揃える。およそ200本をストックし、グラスワインも充実している。

 

「料理に“はみ出している部分”があり、それに絡めたいと思うワインというのが、相性のいいものですね」と語る堀江シェフ。はみ出している部分というのは、香りや味わいなど、その料理を口にして余韻のように残る要素のこと。確かに堀江シェフの料理を味わっていると、思わずワイングラスに手が伸びてしまうのだ。

世界的に有名なピエモンテのグラッパ「ロマーノ・レヴィ」の数々。

 

店内の棚には、グラッパ「ロマーノ・レヴィ」が飾られている。堀江シェフの修業先であるピエモンテで蒸溜される銘酒で、1枚1枚ラベルを手書きしている非常に希少なもの。写真手前のボトルは、今は亡きグラッパの伝説的造り手ロマーノ・レヴィさんが堀江シェフに贈った、思い出深い逸品だ。

 

料理もお酒も、そしてサービスも、ここにしかない価値がある「リストランテ・イ・ルンガ」。ぜひ、大切な人と訪れてみてはいかがだろうか。

 

ウェブサイト:http://i-lunga.jp/

取材・文/外川ゆい

撮影/松川真介