定食王が今日も行く!Vol.51

平成生まれも負けてない!大衆食堂の新しいあり方を模索する大阪の新名店

大阪に出現した静かな革命

多様化する平成の伝説に

 

2017年6月26日に第一回が始まったこの連載も1周年! 1周年を記念して紹介しようと決めていた食堂がある。そのため、週末に大阪を訪れた。2016年の創業から2年で、「大衆食堂」業界で注目となっている大阪、谷町六丁目の「そのだ」だ。大衆食堂や居酒屋系を食べ歩きされる方とお話をすると、「行った?」「いいよね!」と必ず話題になる一軒だ。雑誌の特集などでも見開きで紹介されるほどの存在感を放っている。

定食を提供する大衆食堂は文明開化から高度経済成長の時代を経て、日本で頑張って生きる人々を支えてきた。働き方、家族のカタチ、そして食のバックグラウンドも多様化する時代の中で、どんな人が訪れてもアットホームに感じられる新時代の食堂とはこういうことだったのか!と思わせるのが「大衆食堂スタンド そのだ」だ。

大阪心斎橋からもほど近い、谷町六丁目、通称「谷六(タニロク)」の空堀商店街にある大きな暖簾が目印だ。もともとは玉造にあった「中華そば そのだ」の2号店として2016年にオープンした。看板や店内のメニューやレトロな演出、コの字形カウンターや、中華をベースにした幅広いメニュー、そして何を食べても美味い! 料理のクオリティ、接客などなど、昭和の大衆食堂のコピーではなく、平成を代表する大衆食堂を体現している。

麺をおかずに白飯を!

クセになる中華そば定食

 

こちらがランチの定食。本店が中華そば屋ということもあり、中華そば定食をセレクト。まさにご飯を合わせて、ホッとするハイクオリティな一品なのだ。

中華そば定食には唐揚げ、ポテサラ、そしてたくあんがついてくる。

そして注目は、ほんのりピンクさを残し、粗挽きのブラックペッパーをまぶした大ぶりのチャーシュー!

大きなチャーシューの下からは、ハマグリがお目見え。魚介ベースの醤油系のスープは、程よくあっさり。しかし、旨味がグッと前面に出てくる! 麺は太めの平打ちで、スープがガッツリ絡んでくる。シンプルなのだけれど、そのバランスの良さに「地球」、「小宇宙」を感じるような完成度の高さだ。

食堂の懐の深さは、昼飲み

夜飲みが進むつまみの名品にあり!

 

大衆食堂の懐の深さはランチの定食だけではなく、昼間っから飲んでも、会社帰りに立ち寄っても、うまいご飯にお酒が進む、つまみの名品があること。名物の肉豆腐、柔らかく煮込んだ牛すじとこんにゃくは、見た目通り甘辛いのだが、後味スッキリ。酒が進むけれど、いくらでも食べられてしまうブラックホールのような魔法の一品だ。

定食メニューのトップバッターを飾る「メンチカツ」。こちらはオーロラソースでというのが特徴的。外はカリカリ! 肉汁がジュワー、ざく切りの玉ねぎの食感がシャキシャキと、口の中で衣と肉汁と玉ねぎとソースが踊りだす、お祭り騒ぎだ。

そして関西では珍しい(?)、最近では関東でも見かけることが少なくなった「バイス」。もともとはウィスキーやビールが高価だった時代に、紫蘇のばいす(梅酢)エキスを焼酎で割って飲み始めたことから始まった、昭和初期の酒場でポピュラーだった飲み物。レトロな演出の店内で味わうことで、「ALWAYS三丁目の夕日」の世界にタイムスリップできる。セーラームーンのグラスが一番人気なのだが、今回は巡り会うことができず、少年アシベグラスだった。

店内には他にもぎっしりとメニューが貼り付けられており、牡蠣キムチやエビパン、パクチーヨダレやっこ、熊本県の名物ちくわポテサラ天など多様な地方からインスピレーションを受けたメニューが並ぶ。昭和初期の食堂のメニューだけでなく、セーラームーン世代、パクチーネイティブ世代らが懐かしい、ホッとすると思える食堂だ。大阪にありながら様々な地方、国籍の人も受け入れられる料理の数々。

 

30年間で多様化する時代「平成」を象徴する、大衆食堂なのだと感じた。懐の深い一軒、関西在住以外の方もぜひ訪れてみてほしい。