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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター
岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
三浦半島の食材を使った海辺のイタリアン
逗子駅に降り立つと、どんな季節でも心地よい潮風が出迎えてくれる。駅周辺には三浦半島の食材を活かしたイタリアンの名店が多いことでも知られ、食を堪能することで海へ行かずともリゾート気分が体験できる。なかでも「sou+(ソウタス)」は、シェフみずから毎朝、三浦半島の新鮮な魚介類と有機野菜を仕入れ、素材を活かしたイタリアンが楽しめると評判だ。
オーナーシェフの細田健太郎さんは、横浜の名店「SALONE2007」出身。同店は2016年に「食べログ JAPAN RESTAURANT AWARD」のイタリアン部門で全国1位を獲得。そのときシェフを務めていたのが細田さん。その実力は誰もが認めるところだ。10年前から逗子で暮らしていたことから、カウンター中心の物件を探して、この地で2023年12月に独立した。
ソウタスでは料理に合わせて自然派ワインが提供されており、そのセレクトも細田さんが担当している。細田さんはSALONE2007の立ち上げ以前からグループのレストランに勤務し、サービスも経験。「グループではまだ自然派ワインが珍しかった2005年頃から提供していたので、僕自身もずっと自然派ワイン育ちです」と話すほど、自然派ワインにも精通している。
トマトのカプレーゼ✕海を感じる白ワイン
ソウタスで出される食材はほとんどが三浦半島産だが、特別においしいと感じた食材は取り寄せられている。「完璧なトマトのカプレーゼ パフェ仕立て」は、湿度で育ててトマトの生命力を引き出す農法で知られる三重県のポモナファームのトマトが主役。「ミニトマトは、実は当たり外れが多い食材。ポモナファームのミニトマトは、甘みはもちろん酸味や青っぽい香りもしっかりあって、子どもの頃に畑で採ってかじった昔ながらの味があります」と細田さん。
そのトマトの味を引き立てるため、調理は至ってシンプル。ミルキーなストッラッチャテッラチーズと、生ハムで出汁をとってホワイトバルサミコをあわせたゼリーでパフェ仕立てに。食してみると、旨みと塩気、清涼感のあるゼリーが完熟したトマトやチーズにからみ、宝石のようなキラキラしたおいしさとなって喉を通り抜けていった。
トマトのカプレーゼに合わせたいのは、イタリアのサルデーニャ島で造られた白ワイン。「酵母が生きていてプチプチとしたフレッシュ感があります。ハーブっぽいニュアンスもあるので、トマトに合いますね」と細田さん。ヴェルメンティーノという地中海らしいミネラル感と果実味のある白ワインで、レストランのロケーションにもふさわしい味わいが楽しめた。
ボンゴレビアンコ✕華やか白ワイン
ソウタスの看板メニューといえるのが「あさりのボンゴレビアンコ」。実は、細田さんはドラマ「ビーチボーイズ」のマイク眞木さんに憧れて「海辺のレストランでおいしいボンゴレビアンコを作りたい」と20代前半に美容師から料理人になった経緯がある。「シンプルでどこにでもあるメニューですが、ここでしか味わえない一皿に仕上げています」と胸を張るとおり、素材のおいしさを凝縮させる仕掛けがある。
「パスタは麺のおいしさが命です。3種類の魚介類の出汁と昆布の出汁をパスタにからめて、仕上げにオレンジオイルをかけています」と細田さん。アサリも貝から取り出しやすいように大きなサイズを使用。一緒にいただくと、海のエキスを満喫するような味わい。さらにオレンジオイルのコクのある華やかさが加わって、見た目のシンプルさとは裏腹に魚介類の風味が口いっぱいに広がる贅沢な味が楽しめる。さすがの看板メニューだ。
ボンゴレビアンコにおすすめは、イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の海の近くで造られた白ワイン。「ミネラル感に加えて、モスカートらしい華やかさがあるワインです。魚介類とはもちろん合いますし、オレンジの香りとの相性もいいですね」と細田さん。ボンゴレビアンコをさらに華やかにしてくれる白ワインだった。
タコじゃが✕薄旨赤ワイン
メインディッシュでぜひ味わいたいのが、細田さんが師匠から受け継いだという渾身の一皿。サローネグループの統括料理長の樋口敬洋氏が修業先のシチリアで作っていた一皿をオマージュしたものだ。ポイントは魚介の旨みを凝縮してじゃがいもに吸わせているところ。仕上げにシチリアのオリーブオイルをたっぷりまわしかけると、地中海にいるような気分にさせてくれる味が完成する。
タコじゃがにおすすめなのは、アメリカのユニークなラベルの赤ワイン。「ワインに合った音楽のプレイリストを公開し、おもしろい取り組みをやっている生産者の赤ワインです。味わいとしては薄旨系で、タコのように白ワインでは物足りないような食材にぴったりです。軽く冷やしたものを提供しています」と細田さん。タコじゃがとのボリューム感もぴったりで心地よい組み合わせだった。
細田さんの「私が恋した自然派ワイン」
細田さんは自身が恋したワインとして、香りに引かれた一本を紹介してくれた。
「僕は元々、マルヴァジアという品種のワインが大好きなんです。なかでもファタリタは、その香りがたまりません。アンズやビワなどのオレンジワインらしい香りにハーブやバニラ、ムスクなどもまじった素晴らしいワインです。
味わい的にもノンフィルターのにごりが溶け込んだまろやかな果実味があっておいしいですね。マルヴァジアをさらに大好きにさせてくれた一本です」
海に似合うワインをラインアップ
ソウタスではメニューの料理に合うワインが用意されている。三浦半島の食材が使われているため、白やオレンジワイン、軽い赤ワインが中心となっている。細田さんが昔から使っているイタリアの自然派ワインが多いが、最近はアメリカなどのユニークなものも置くようになっており、バラエティに富んできている。グラス10種類(1,200〜1,800円)、ボトル50種類(4,980〜20,000円)。
逗子でリフレッシュしておいしいものを食べたいときに
ソウタスの開店時間は15時。細田さんが朝、市場へ仕入れに行って仕込みを終えてから開店するためランチタイムには間に合わなかったそう。その分、ディナーは早めの時間帯からスタートするため、東京や横浜から足を延ばして逗子の空気を感じたいときにはぴったり。ソウタスの料理は、どれも記憶に残る一皿で旅の思い出にもなる。いつもと気分を変えてリフレッシュしながら、おいしいものを食べたいときにはぜひ出かけてみよう。
※価格は税込