【第3週のカレーとスパイス】まるで銀座のオアシス。胃袋にも財布にも優しい、名物ママの絶品カレー「ブラン亭」

昔から大好きなお店があります。銀座のコリドー街の古びたビルの地下にあった頃に出合い、その場所で長年営業していたものの建物が取り壊しとなり銀座八丁目に移転。しかしそのビルも取り壊しとなり、再度コリドー街のビルの4階に移転してきて今に至る「ブラン亭」というお店です。

店内に入ってみるとスナックのような雰囲気。「あら、いらっしゃい!」と優しい笑顔でママさんが迎えてくれました。カレーのお店なのですが、コリドー街の地下にあった頃からスナックのママさんのようにおしゃべり上手で楽しくて優しくて、その人柄にもお客さんが付いているのだろうなと思える方なのです。

「今日はおまかせしか無いんだけど、それで良いかしら?」と。もちろんです。ここのカレーはすべてがおいしいことを知っていますから。思えば前回来たのはコロナ禍に突入する直前の2019年のことでしたか。

基本のメニューはチキン、ポーク、キーマ、豆。そして現店舗に移転してから定番化した、しらす。どのカレーも食べたことがあるのですが、程よくスパイシーで程よく優しいおいしさ。僕はママの腕を信頼しきっているのです。「トッピングの目玉焼きのせてくださいね!」とだけ注文。ここのカレーと目玉焼きの相性の良さを思い出しながら待ちました。

出てきたカレーは実に豪華! 「今日の内容は何ですか?」と聞くと「今日はね、しらすとポークが無いの。そのかわりにビーフがあるのでそれと、野菜もつけました」と。

「おまかせ日替わりカレー」

写真の右上から時計回りに、キーマ、豆、野菜、ビーフ、チキンの順。野菜はカレーというよりはトマト煮込みでしたが、ラタトゥイユのような味付けでカレーの付け合わせとして非常に面白く、相性も良いものでした。

定番カレーはどれも最高! ママはインドにも縁があるそうで昔はインドから直送のスパイスを使用していたとのことですが、インド料理そのものではなく日本人が作ったからこその日本人受けする優しい味わいがあります。言うなればこれはスパイスカレーという言葉が生まれる前から存在するオールドスクールスパイスカレー。昔よく見かけたインド風カリー的な料理であり、その中でも突出したレベルのおいしさだと言えるでしょう。

すべてがおいしい中で特に今回心を撃ちぬかれたのはビーフ。肉のうま味とスパイスが絶妙に合わさっていて、オンリーワンのブラン亭の味なのです。

途中からフライドオニオンやピクルスを合わせて食べれば味変にもなり、おいしさが加速します。夢中になって一気に平らげた後は「はい、ほうじ茶ね」とサービスが。

その後はママと久しぶりの会話を楽しみました。お店が忙しい日はなかなかお話もできないのですが、この日はたまたま他にお客さんがいなかったので。以前はママのインド旅行時の話や、僕の仕事の話などで盛り上がり、今回はアメリカのギャングスタラッパーであるスヌープ・ドッグの話で盛り上がるという話の振り幅。とにかく話し上手で引き込まれます。

気づいたら仕事の時間でお会計。「はい。1,100円ね!」って、いやいやいやこれで1,100円は安すぎますって! しかも銀座ですよ!「だって、おまかせの日替りカレーは1,000円なのよ。でも最近玉ねぎの値段が上がっちゃって大変なの! 他のカレー屋さんはどうしてるの?」と。他のお店も価格改定を余儀なくされていますね。

そもそもカレーとラーメンは原材料や手間暇を考えると、他の料理と比べて安すぎることが多い料理。しかし思い返してみると、確かにブラン亭のカレーは昔から安いんです。そしておいしいんです。でも、場所がわかりにくかったり移転を繰り返したりしているせいもあってか、マニアが押し寄せるわけでもない、知る人ぞ知るという立ち位置に居続けている稀有なお店です。

「ポーク&しらすカレー」900円に「目玉焼き」100円をトッピング

おいしいカレーで体が癒やされ、ママのトークで心が癒やされる、銀座のオアシス。どうやら今の場所も移転予定があるとのことですので、行けるうちに行っておくべき名店です。僕もまた行かなくちゃ!

【第4週のカレーとスパイス】近府県から通うファン多し! 並んででも食べたい、奈良で注目の南インド料理店「toi印食店」

スパイスカレー流行のきっかけとなった大阪は今も多くのお店が行列をなし、さらなる新店舗が生まれ続けています。大阪には多くのカレーマニアが存在するのですが、大阪カレーマニアの間で話題となり、連日多くのお客さんが集まるお店が奈良にあります。今回は地元客はもちろん、大阪から通う人も多いという注目のお店をご紹介しましょう。近鉄奈良駅近くにある「toi印食店」です。

日本人シェフによる南インド料理のお店なのですが、おしゃれなカフェのようでもあり、現地にある食堂のようでもあるという絶妙な雰囲気。

メニューはカレーの種類と数を選べるミールスという南インド定番の定食がメイン。「Curry全種+本日のおかず」2,300円をいただきました。

「Curry全種+本日のおかず」

見た目からして絢爛豪華なミールス! この日のカレーはチキンマサラ、ダルフィッシュ、マトンクルマ、サンバルの4種。これにダル(豆スープ)やワダ(豆でできた南インドの甘くないドーナツ)などがつきます。

チキンマサラはトマトの程よい酸味とうま味が華やかな逸品。マトンクルマは骨と皮つきの羊肉にハーブを使ったニルギリと呼ばれるタイプのグレイビーがマニア心をくすぐるカレー。

ダルフィッシュ含めノンべジのカレーもおいしいのですが、僕がそれ以上に気に入ったのは肉や魚を使わないダルとサンバル。インド現地でもミールスがおいしいと評判のお店に行くと野菜のみだったりすることも少なからずあり、ミールスとは基本的に野菜料理だと思うことが多いのですが、こちらのお店もまさにそうで肉がなくとも十分に楽しめるミールスなのです。

ワダがまた非常においしい。ふわふわとサクサクが共存。半分はチャトニをつけて食べ、半分はサンバルに投入してサンバルワダという南インドの定番料理のようにして食べ、一度で二度おいしいです。

現地料理としてのミールスは、ひとつひとつの料理はシンプルで素朴ながら混ぜていくことで完成するおいしさという方向性が多いのですが、こちらのミールスは派手でおいしいのです。ひとつひとつが個性あって印象に残る味わいであり、混ぜてもそれがぶつかることがないバランス感。ミールス初心者にとってはこういうものの方が理解しやすいでしょう。そして様々なミールスを食べている方にとっても、この野菜のおいしさには感動するはずです。それに肉や魚の存在感もあるのですから満足度が高すぎる一皿が完成しています。

シェフは北インド料理、南インド料理、どちらのお店でも腕を振るってきた経験がある方だからこそのミールスです。言うなれば北インドで食べる南インド料理のような魅力。そこに日本人ならではの感覚も入っているという面白さ。これは確かに大阪から通う方が多いのもうなずけます。

「多くの方にもっと日本人が作るインド料理の可能性を伝えたいんです。インド料理の知恵を借りて地元野菜のおいしさに気づいてもらえたりするとうれしいですし、インド食文化の楽しさを伝えていくことを自己表現のひとつとして発信していけたらと思っています」とシェフは語ってくれました。

「アイスチャイ」

食後にミニサイズの「アイスチャイ」200円も。スッキリとした飲み口のチャイ。絢爛豪華なミールスの後を爽やかにまとめてくれて、これまた素晴らしい。期待して行ったのですが、その期待を超えるクオリティに感動しました。

お店は大人気で記帳制です。まず最初に名前を書き、そこから並んで待ちましょう。わざわざ行く価値も、並ぶ価値もある、今の奈良のカレーを代表するお店のひとつだと言えるでしょう。

※価格はすべて税込です。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

文・写真:カレーおじさん\(^o^)/