本当においしいカフェごはんVol.3

カフェ飯と聞くと「サンドイッチやパスタを食べるにはいいけど、ちゃんとしたご飯にはもの足りない」って思っていませんか? それはもう昔の話。「レストランという形に囚われず、もっと自由な形でお店を持ちたい」と、カフェをオープンする新進気鋭のシェフがいま増えています。そんな面白いバックグラウンドをもったシェフに、カフェマニアのモデル・斉藤アリスが会いに行く連載企画。

Nami

清水白桃とワインのパフェ 写真:斉藤アリス

第3回は、鎌倉の材木座にある住所非公開のお店「Nami」。私が初めて訪れたのは、オープンから2ヶ月後の2021年7月。とあるアーティストさんに「友人が鎌倉で面白いお店を開けたので行ってみてください」と紹介されたのがきっかけでした。

さわのめぐみさんと斉藤アリス 写真:斉藤アリス

すぐに連絡を取りお店へ伺いました。そのときの写真がこちら。出迎えてくれたのは、シェフのさわのめぐみさんです。

美しいお皿とお品書き 写真:斉藤アリス

予約者だけに送られるメールを頼りに鎌倉へ向かうと、そこはカウンター席のみ。一斉スタート、コース仕立ての喫茶室でした。いろいろなカフェを巡ってきたけれど、コースの喫茶なんて人生初! 目の前に置かれた美しいお皿とお品書きに、背筋がぴっと伸びたのを思い出します。

1品目のアミューズ「雨上がり」 写真:斉藤アリス

アリス「7月に初訪問したとき、最初に出てきた大きな葉の上にのったジュレがとにかく印象的でした」

めぐみさん「あの日は暑かったので、最初は喉を冷やすために爽やかなジュレからスタートしました。葉っぱは蓮芋の葉です。ジュレはライチ、塩と砂糖、グレープフルーツでつくっていて、梅雨の滴をイメージしました」

写真:樺沢孝彦

アリス「喫茶室でありながら、どうしてコース料理の一斉スタートという形にしたんですか?」

めぐみさん「私はパティシエではなく料理人なので、料理を提供したかったのが一つ。もう一つは最後のパフェを一番おいしく食べてもらえるように、口の中を準備するためです。塩気のあるものを口に入れてからのほうが、甘いものはおいしく食べられると思うんです」

2品目の「桃のカプレーゼ 」 写真:斉藤アリス

アリス「そのあとのお料理も印象的でした。たとえば桃のカプレーゼ。お料理ともデザートともとれる、中立的なメニューですよね」

めぐみさん「桃のコンポートを『ストラッチャテッラ』というフレッシュチーズとオリーブオイルでカプレーゼにしています。桃の食感を塩味と一緒に楽しんでいただきました」

3品目の「トウモロコシとパルミジャーノのリゾット」 写真:斉藤アリス

アリス「あとはペアリングのドリンク。たとえばトウモロコシのリゾットと一緒に出てきたカクテルは、とうもろこしの芯を使っていましたよね。爽やかですごくおいしかったです」

めぐみさん「ありがとうございます。とうもろこしの芯を漬け込んだ酵素シロップとホエイでつくったノンアルコールカクテルです」

リゾットを盛り付けるめぐみさん 写真:斉藤アリス

アリス「とうもろこしの芯まで使うんだって感動しました。お庭で採れた葉やハーブを使ったり、普通は捨てるような野菜の芯や皮を使ったりするスタイルはいつ生まれたんですか?」

めぐみさん「日本のイタリアンレストランで何年か働いたあと、26歳で単身イタリアへ行きました。フィレンツェで働いていたレストラン『チンクエチンクエ』の影響は大きいと思います」

イタリアで働いていた当時のめぐみさん 提供:さわのめぐみさん

アリス「どんなレストランだったんですか?」

めぐみさん「フィレンツェはお肉文化の根付いた街なのですが、そこは夫婦が営む小さなベジタリアンレストランだったんです。野菜の扱い方はそこで学びました」

「チンクエチンクエ」のInstagramより(@5ecinquefirenze)

アリス「そこではどんな風に料理をしていたんですか?」

めぐみさん「今でいうホールフードです。玉ねぎの皮や芯、セロリの葉っぱも取っておいて出汁に使ったり。捨てずにすべてを使い切るということをやっていたので、帰国してからも自然とそうしていました」

取材中のめぐみさん 写真:樺沢孝彦

アリス「帰国してからは、どうされていたんですか?」

めぐみさん「何年か横浜のお店でシェフをやったあと、30歳で独立。渋谷にあったシェアオフィス『PoRTAL』で週に1回、食事を出していました。そこで『ものがたり食堂』が生まれました」

童話「美女と野獣」をテーマにした「ものがたり食堂」 提供:さわのめぐみさん

アリス「『ものがたり食堂』の噂は聞いていましたが、実際にはどんなものなんですか?」

めぐみさん「映画や物語を題材にしたコース料理です。最初は一回きりのイベントとして映画『幸せのレシピ』を題材に料理をつくったのですが、それがすごく好評で月に1回ほどのペースで続けることになったんです」

野獣の角を表現したポルチーニ茸のパイ 提供:さわのめぐみさん

アリス「ユニークですね! どんな料理が出るんですか?」

めぐみさん「前菜からメインまでが、私なりの読書感想文になっています。食べられる読書感想文と私は呼んでいるのですが、作者の表現したかったことを咀嚼していきます。食べる意味の“咀嚼”と、理解する意味の“咀嚼”をかけていて、食べながら物語を理解していくんです」

童話「人魚姫」をテーマにした「ものがたり食堂」 提供:さわのめぐみさん

アリス「ただ物語をなぞっていくのではなく、めぐみさんの視点から物語を読み解いていくんですね。毎回題材は変えているんですか?」

めぐみさん「はい。『はらべこあおむし』『スイミー』『七福神』などいろんな題材でこれまで30作以上つくらせていただきました」

人魚姫の涙を表現したバタフライピーのデザート 提供:さわのめぐみさん

アリス「わぁ! いいなぁ。想像するだけでステキ!この場所は喫茶室だけではなく、いろんな使い方ができるんですね。今後はこんなことしていきたい!という展望はありますか?」

めぐみさん「今までは誰かが書いた物語をテーマに料理をつくっていましたが、次は自分でつくったお話のものがたり食堂をやってもいいかな、と考えています」

取材中の斉藤アリス 写真:樺沢孝彦

アリス「それは面白そうですね! もう物語を書きはじめているんですか?」

めぐみさん「はい、実はもう本は完成していて来年1月に出版する予定なんです。10代の頃から見た夢を書き溜めているのですが、そこから生まれた種を題材にした物語です」

巨峰のパフェ お店のInstagramより(@nami.zaimokuza)

アリス「でも不思議ですね。夢は10代から書き留めていて、料理の仕事はそのあとに始めたことなのに、偶然『ものがたり食堂』が生まれてその2つが一緒になるっていう」

めぐみさん「全部つながっているんでしょうね。夢をよく見ていたのも、そういう理由があったからなのかなとも思います」

和栗のモンブラン お店のInstagramより(@nami.zaimokuza)

アリス「めぐみさんの『ものがたり食堂』、完成したら絶対食べに来ます。楽しみにしています」

めぐみさん「ありがとうございます。年内は11月にシュトーレン販売会、12月はクリスマスディナーを予定しています。来年、苺のおいしい季節になったら、そちらもぜひいらしてくださいね」

取材の最後に記念撮影 写真:樺沢孝彦

取材中のお話もそうですが、記事の執筆中に「ものがたり食堂」のブログを読むのがすごく楽しかったです。童話の内容と一緒にお料理の説明が書かれていて、読んでいるだけでその世界観を堪能できます。

食べたらなくなってしまう料理の儚さが好き、と話してくれためぐみさん。食べることはもちろん、その空間に、そして二度と戻らないその時間に、お金を払うことができる場所だからこそカフェや喫茶が好きなんだな、と自分を振り返るきっかけにもなりました。

※予約はInstagram (@nami.zaimokuza)から不定期で行っています。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2021年9月8日)時点の情報をもとに作成しています。

文:斉藤アリス・食べログマガジン編集部