2020年は新型コロナウイルスにより、多くの飲食店が未だかつてない危機に晒されました。3月頃からの外出自粛ムード、緊急事態宣言、飲食店への時短要請などにより、経営は大打撃。予断を許さない状況が続きますが、それぞれのお店が試行錯誤し、工夫と努力を重ねています。

そこで、食べロググルメ著名人で出版界きってのグルメ、柏原光太郎さんと食べログフォロワー数No.1の川井潤さんの対談を実施。「ウィズコロナ、アフターコロナの時代に、レストランはどう変わっていくのか?」をうかがいました。前編に続き、「食の通販」のお話です。

「継続して買いたい」と思わせるには

柏原:ひとくくりに食の通販といっても、いろいろなタイプがありますよね。いま一番活発に動いている分野は、料理屋さんが店の味をそのまま届けようとするタイプですが、食品メーカーが通販向けに作った料理や、生鮮食品の通販もあります。

ただ、生鮮食材のサブスクリプションを利用する人の絶対数は多くないので、実際は「自宅でおいしいものを食べたいときに取り寄せるもの」と「簡単に調理できるもの」の2つのトレンドに分かれていくと思うんですよね。どちらにしても、食べるまでの用意が面倒なものは受け入れられないようですが。

食の通販に詳しい人に聞いたのですが、通販を利用する人の多くは「フライパンで餃子を焼くことはするけれど、蒸し器を用意して焼売を蒸すことはしない」そうです。

通販の餃子をフライパンで焼く 写真:食べログモール

川井:普通の人がちょっと手をかけてアレンジを楽しむのは、鍋くらいじゃないですか? 鍋はウケますよね。

柏原:そうですね。川井さんが通販の鍋セットでいいと思ったものは、何かありますか?

川井:僕が一番気に入ったのは、滋賀県の琵琶湖沿いにある旅館「双葉荘」の鴨鍋です。この鴨鍋はもともと旅館で出していたもので、滋賀県産の信長ネギが欠かせないため季節限定なのですが、11月15日から販売が始まりました。鴨肉と信長ネギとラーメンのセットで、かなりいい出来です。コスパもいいんですよ。

「わのしょく二階」のせり鍋 撮影:川井潤

もうひとつは、仙台の「わのしょく二階」という店の名物の「せり鍋」です。蔵王で無農薬栽培されているせりはほとんどえぐみがなくて、シャラン鴨の出汁もおいしいので、「通販はできませんか?」と問い合わせたら、売ってくれるようになったんです(笑)。

通販は、ただの「おいしい」に何を付加するか

柏原:通販って、商品を作って売るだけなら「ベイス」や「ストアーズ」などのサイト作成サービスを使って簡単にできますが、問題はどうやって継続して売るかですよね。通販を始めたと聞いたら、常連さんは一回くらいは買ってくれるだろうけど、その後も続けていくためには、単に「おいしい」だけでなく、継続してもらうためにそこに何かを付加しなければならないと思うのです。

川井:なるほど。

柏原:外食の楽しさって、料理だけじゃなく、内装や一緒に食べる仲間、周りの雰囲気もあるじゃないですか。 それを料理だけ切り取っておいしいと言ってもらうためには、「なぜこの料理がいいのか」という説明や、合わせる酒、店の歴史や情報なども一緒に伝えて、「なるほど、これならおいしいね」と思ってもらうことも大切です。

そういう情報や雰囲気を口コミや通販サイトがうまく伝えることが、飲食店の応援になると思うんですよね。

たとえば築地の料亭「つきじ治作」は、創業者が90年近く前に岩崎弥太郎の別邸を買って始めた店で、創業者が博多の人なので締めの水炊きが有名です。昨今は料亭も経営が厳しい時代なので、名物の水炊きを通販で売るための準備を以前から進めていたのですが、コロナが重なり、いよいよスープを冷凍にした水炊きの通販がスタートしました。ちなみにこちら、僕の中では今年ナンバーワンのお取り寄せ。

「つきじ治作」の水炊き 写真:お店から

買った人は、野菜は自分で用意するんですけど、「つきじ治作」の水炊きは玉ねぎを串切りにして使うのがポイントです。玉ねぎを使うことにはもちろん理由があって、実際にお店に行くと、門外不出のレシピを守っている“水炊き番”が「この玉ねぎを入れると甘みが出るんですよ」と教えてくれて、「なるほど」というサプライズになります。

そういう生の声をいかに届けられるかが、通販で続けて買ってもらえるかどうかの差につながると思うんですよね。

いずれにせよ、今後レストランビジネスはイートイン一本ではなく、テイクアウト、デリバリー、通販の複合体になっていくと思います。

プロフィール

柏原光太郎
日本ガストロノミー協会会長。大学卒業後、出版社に勤務し、グルメ本を手がけたことで食の奥深さに目覚める。料理は作ることも食べることも大好き。料理好きのための食の発信基地としての役割を担うべく2017年12月社団法人「日本ガストロノミー協会」を設立。「文春マルシェ」のチーフプロデューサーも担う。


川井 潤
料理の鉄人ブレーン(1993年~99年)。(株)博報堂DYメディアパートナーズを退職後、現在は食品メーカー、新聞社、IT関連企業、テレビ制作会社等のアドバイザーを務める。ここ数年は、地域や食のため、料理人の地位向上のために、日本のみならず海外でも活動中。食べログフォロワー数No.1レビュアー(2020年12月現在)。

取材・文:小松めぐみ