2020年は新型コロナウイルスにより、多くの飲食店が未だかつてない危機に晒されました。3月頃からの外出自粛ムード、緊急事態宣言、飲食店への時短要請などにより、経営は大打撃。予断を許さない状況が続きますが、それぞれのお店が試行錯誤し、工夫と努力を重ねています。
そこで、食べロググルメ著名人で出版界きってのグルメ、柏原光太郎さんと食べログフォロワー数No.1の川井潤さんの対談を実施。「ウィズコロナ、アフターコロナの時代に、レストランはどう変わっていくのか?」というお話をうかがいました。
有名店がどんどんお弁当を作り出した4月
柏原:今年は緊急事態宣言が出た4月以降、イートインの売り上げがどんと落ち込み、いろいろな飲食店がテイクアウトやデリバリーを始めました。麻布十番の「十番右京」や西麻布「霞町三○一ノ一」は、初期の頃にデリバリーを始めたのでマスコミにも注目され、今やロケ弁の注文も入ったりして、良い循環が生まれているようです。5月頃は焼鳥弁当とばらちらしがトレンドでしたよね。
川井:焼鳥弁当といえば、恵比寿の焼鳥「鍈輝」の焼鳥弁当は1日100個売れてましたね。テイクアウトで僕がすごいと思ったのは、五反田の「食堂とだか」です。1日300個お弁当を売ってましたから。
ご主人に聞いたら、弁当を買いに来る人の半分以上は店に来たことがない人だったそうです。以前から「行ってみたい」「食べてみたい」と思っていたけれどチャンスに恵まれなかったという人たちが、テイクアウトが始まったのをきっかけに買いに来るようになったんですね。
代々木上原の「sio」も、バインミーを出すようになってから、「今まで気になっていたけど入れなかった」という近所の人が来てくれるようになったそうです。
通販でブレイクしたもの
柏原:テイクアウトとデリバリーが始まって少し経ってから、通販を始める飲食店も増えてきましたね。
僕が最初になるほど、と思ったのは目黒の「レストラン ラッセ」の村山さんが始めたチーズラヴィオリの通販です。ラヴィオリはお店でも人気のメニューでしたが、これが通販でも買えるようになったということでSNSを中心に話題になり、かなり売れたそうです。
川井さんも通販は利用されていますか?
川井:僕は最近、地方が疲弊しているので応援したいと思い、地方の食材や料理を取り寄せています。
たとえば山形県のスーパー「食品館256」は、僕がお願いして通販用の芋煮を作ってくれたんですが、これは水も出汁も全部セットになっているのが面白い商品です。芋煮というのは、秋になると山形県内の各地で行われる“芋煮会”というイベントで食べる郷土料理で、このご時世で芋煮会もなくなったので通販用の芋煮を開発してくれたんです。
旅館やスーパーが売り上げをカバーするための対策として、通販は比較的やりやすかったんじゃないでしょうかね。消費者にとっても、家から出られない状況でポチッとすると品物が届くのは、ありがたいことですよね。
柏原:今まで、食べものの通販はハードルが高いなどと言われていましたが、ふるさと納税が定着したここ4、5年の間にいろんな産品が自宅に届くようになって、通販というスタイルが定着したのかもしれません。
川井:コロナで新しいことを始めた人たちは東京にもたくさんいます。外苑前のフレンチ「L’eau」の清水さんは、以前、東長崎で洋食屋をやっていた時に出していたカレーを復活させるような形でテイクアウト用に販売するようになり、通販も始めました。
広尾の「Ode」の生井さんは、緊急事態宣言中にテイクアウト用に作ったバインミーなどのメニューとコーヒーを出す新しい店「BGM」を12月にオープンします。
年末年始は、お取り寄せ需要が再び高まるタイミング
川井:お正月はおそらく家に居なければいけないような状況になりますよね。ここがまたデリバリーやお取り寄せのタイミングになるのかな。
柏原: おせちは、なかなか好調そうですよね。みんな「外には出たくないけれどおいしいものは食べたい」と思っているはずですから。おせちという名の「酒呑み箱」みたいなものも含めて、どんどん売ったらいいと思います。
川井:31日におせちを取りに行って並ぶのもちょっと面倒だし、三密になるし、お取り寄せみたいな形でうまく対応してもらえるといいですよね。
プロフィール
柏原光太郎
日本ガストロノミー協会会長。大学卒業後、出版社に勤務し、グルメ本を手がけたことで食の奥深さに目覚める。料理は作ることも食べることも大好き。料理好きのための食の発信基地としての役割を担うべく2017年12月社団法人「日本ガストロノミー協会」を設立。「文春マルシェ」のチーフプロデューサーも担う。
川井 潤
料理の鉄人ブレーン(1993年~99年)。(株)博報堂DYメディアパートナーズを退職後、現在は食品メーカー、新聞社、IT関連企業、テレビ制作会社等のアドバイザーを務める。ここ数年は、地域や食のため、料理人の地位向上のために、日本のみならず海外でも活動中。食べログフォロワー数No.1レビュアー(2020年12月現在)。
取材・文:小松めぐみ