飲食業界にとっても色々あった2020年。それでもやっぱり食への欲求は止まらないし、食のトレンドは生まれ続けるものだ! ということで、今年話題となった食トレンドをおさらいしようというこの企画。ことにトレンドの生まれやすいスイーツのなかでも注目を集めたジャンルのひとつが「プリン」。前編では、今年特にスイーツファンやSNS上で話題にのぼることの多かった“かたいプリン”について解説してもらいましたが、今回の後編では、根強い人気を持つ“やわらかいプリン”をフィーチャー。

「かたいプリン」編の記事はこちら:2020年のプリンはしっかり食感が人気! 専門家が選ぶ「かたいプリン」のおいしい店

前編に続き、スイーツと言えばこの方、連載「スイーツ探訪」でお馴染みのお菓子の歴史研究家・猫井登さんに、やわらかいプリンについても教えてもらいましょう。まずはプリンの基礎知識からスタート!

はじまりは調理の都合だった! プリン×カラメルコンビ定着の意外なきっかけ

プディングはヨーロッパ全体に広がっていくが、フランスでは具材を入れず、卵液を甘くした、いわゆる「カスタードプディング」が作られるようになる※1。実は、このカスタードプリンには大きな難点があった。皿盛りのデザートにするために型から取り出そうとしても、型の底に生地がくっついてしまい、上手く取り出せないのだ。

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試行錯誤の末、パティシエたちはプリンを作るときに、型の底にカラメルを入れることを思いつく。カラメルは砂糖なので、水分に溶ける。プリン液から水分が移り、その後、蒸しても冷やしても流動性を保ち、型にくっつくことはない。つまりカラメルは、ひっくり返してプリン生地を型から綺麗に抜くために入れられたものであった※2。こうして、カラメルとプリンの一体不可分の関係が始まった。

※1 厳密にいうと、フランスやスペインで見られる“カスタードプリン”は「プディング」とは異なる歴史を有する「フラン」の系譜(ティロパティナン→フラド→フラン)に属するとも考えられるが、ここでは深入りをしないでおく。

※2 フランスでは型をひっくり返して皿に出して供するので、プリンのことを「クレームランベルセ(逆さのクリーム)」と呼んだり、キャラメルと一体なので「クレームキャラメル(キャラメル付きのクリーム)」と呼ぶ。

日本でのプリンの歴史 〜やわらかいプリン大ブレイクの経緯を知る〜

「パステル」のなめらかプリン
「パステル」のなめらかプリン   写真:お店から

明治時代の初期には日本で知られていたプリンだが、実際に一般家庭に普及するのは、1964年にハウスの「プリンミクス」が発売されて以降である。1972年にはグリコの「プッチンプリン」が販売開始され、1990年代には、3個パック、ビッグサイズなども登場。1993年、新しい食感のプリンとして誕生したのが「なめらかプリン」。イタリアンレストランであった「パステル」のパティシエ・所浩史氏が考案した。

当時プリンと言えばかための食感のものだったので、発売当初5年ほどはあまり売れず、「焼けていない」というクレームさえあったという。しかし、1998年頃よりテレビの情報番組で取り上げられるようになり、女性誌「non-no」で、当時圧倒的な人気を誇った広末涼子さんの好きなスイーツとして紹介されたのをきっかけに大ブレイクした。

2000年代に入っても、なめらか系・やわらかめプリンは高い人気を得ているが、ここ2年ほど、かためのプリンの人気が高まってきている。2019年頃から、ローソン、セブンイレブン、ファミリーマートといったコンビニ大手が「クラシックプリン」「ドルチェプリン」「イタリアンプリン」「ねっとりイタリアンプリン」といった商品名※3で、改良を加えながらかためプリンの販売を開始。雑誌「Hanako」の2020年3月号「2020年 最高のスイーツ!」では、「かたいプリン」が2020年のトレンドジャンルのひとつとして紹介された。

※3 かためプリンの商品名として「イタリアン~」をなぜ採用したかは不思議でもある。というのも、イタリアでは「パンナコッタ」(生クリームをゼラチンで固めたもの)は有名だが、プリンはメジャーではない。Puddingに当たるイタリア語はBudinoとされるが、通常はクレマカタラナ(スペインのカタルーニャのクリームの意味)と呼ぶ。イタリアのピエモンテ州にはボネというプリンはあるがカカオ味が定番とされ、カスタードプリンではない。

というわけで後編ももれなく前置きが長くなってしまったが、おすすめの“やわらかいプリン”を紹介していこう。

お菓子の歴史研究家が厳選。やわらかいプリンを食べるならこの3店!

【浅草のおいしいやわらかいプリン】「淺草シルクプリン

駒形のイタリア料理店「テスタロッサ」のデザートだったプリンが評判を呼び、プリン専門店を開いたのが始まりとされる。浅草に3店舗を構える。駒形のテスタロッサは、現在カフェに。プリンの種類は、いちご、チョコ、マロン、チーズ、コーヒー、抹茶、黒ごまなど12種類。

店名の通りプリンはどれもシルクのようになめらかで、やわらかめ。使用している卵は茨城・奥久慈から毎日届く新鮮な卵、そして北海道産の生クリーム。何度も何度も濾し、スチームオーブンの温度を1℃単位でコントロールすることで、シルクのようななめらかさを実現している。

「浅草シルクプリン」390円

今回まず紹介する「浅草シルクプリン」は、お店の定番商品。絹ごし豆腐のようになめらかで、全く固形的な抵抗を感じないほど、やわらか。味わいはクリーミーでミルキー。底に入れられたカラメルも苦味は控えめで、生地の味わいを邪魔しないように計算されている。

「プレミアムシルクプリン」590円

「プレミアムシルクプリン」は、北海道産の低温殺菌牛乳や生クリーム、熟成された良質なバニラビーンズ、奥久慈卵の卵黄だけを使い、温度管理を徹底して作られたプリン。卵の味わい、クリームのコクがしっかりと感じられるが、クドさはなく、口当たりはやわらかでなめらか。生地の旨味が存分に味わえる。

※価格はすべて税込

【下北沢のおいしいやわらかいプリン】「とよんちのたまご 下北沢店」

「とよんちのたまご」は、千葉の房総の海、九十九里の近く、自然豊かな千葉県旭市にある「豊和養鶏場」で産まれた卵販売のほか、高級卵をふんだんに使ったスイーツを販売するお店。

「なめらかプリン」288円(税込)

豊和養鶏場の鶏は、厳選した良質のトウモロコシや大豆のほか、魚粉、カキ化石、海藻類、ウコン、アルファルファ、パプリカや乳酸菌をバランスよく自家配合した飼料で育てられ、抗生剤や抗菌剤は一切使用していない。

豊和養鶏場では「王卵」「豊卵」「白卵」という3種類の卵を出荷しているが、「なめらかプリン」はボリスブラウンという赤い鶏が産む、赤い卵である最高級の「王卵」の黄身のほか、牛乳、生クリーム、砂糖、小麦粉を使って作られている。

生地はオレンジ色がかっていて、濃厚でまったりとした味わいだが、クセはなく、なめらかで上質のカスタードクリームのようだ。底に入れられたカラメルは、流動性が非常に高くさらりとしていて、ほのかな苦味であっさりとした味わい。生地にからめて食べると、生地が軽やかに感じられる。

【代々木八幡駅のおいしいやわらかいプリン】「ポポカテ

「ポポカテ」は、オーナーの長岡義彦氏が2015年にプリン好きを募って始めたお店。代々木上原と代々木八幡を結ぶ地蔵通りから、少し入ったところにある。地蔵通りにはお店の看板が出されているので、お見逃しなきよう。

路地を入って行くと、一般住宅の2階の窓部分にタラップをつけたような外観の店舗が現われる。

さて、プリンの話。オーナーが募ったプリン好きの中でも、かため好きとやわらかめ好きと好みが分かれ、お店では2種類のかたさのプリンを作っている。また抹茶、チョコ、ティー、かぼちゃなどフレーバーのバリエーションも豊富。

プリンの素材にはこだわりを持ち、コクがある上質な卵を神奈川県の養鶏場から直接仕入れ、優しい味わいにするために、生クリームではなく豆乳または牛乳を使用している。またプリンのやわらかさに合わせて甘さを調整し、カラメルは別にして、ほろ苦い味わいにするなど細やかな気遣いも。

「やわ」464円

「やわ」は、スプーンですくった時点でとろとろ感が伝わってくるほど流動性が高い。「かた」に比べると甘めだが、クドさは全くなく、家庭的でほっこりとする優しい味わい。

別添えのカラメルは、ねっとりとしてかなり苦味が強く、やや酸味が感じられるが、生地に合わせると味わいが引き締まり、生地が洗練された大人の味わいに変化する。

「かた」464円

「かた」は、スプーンで掬ってもシャープにエッジを保つほどしっかりとした生地だが、食感として固形感はなく、なめらかな舌触り。「やわ」に比べるとかなり甘さ控えめで、淡白な味わいに感じられる。カラメルと合わせて食べてもあっさりめの味わい。

※価格はすべて税込

※時節柄、メニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2020年11月30日)時点の情報をもとに作成しています。

撮影・文:猫井登