教えてくれる人
マッキー牧元
株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。
神戸でマッキー牧元さんの心を打った2軒とは?
串ぐし
「予約ができないので開店と同時に入りましょう」
連れて行ってくれる神戸の知人からそう言われた。場所はJR六甲道駅、店名は「串ぐし」。
「串ぐしと言うからには串カツ屋ですか?」
「串カツもありますが、料理がおいしいんです」
知人はうれしそうに言う。
六甲道の南は新興住宅地といった雰囲気が漂う地区で、きれいな街並みだが飲食店はあまりない。そんな場所に店は佇んでいた。
夕方の4時半開店と同時に入ったら、直ちに満席となる。ほとんどが地元の客だと言う。「食べログ」の点数も高くない。
夫婦二人で切り盛りをされ、旦那さんが料理、奥さんがサービスをされている。
まず驚いたのはメニュー数である。席数は20席近くあるのに、手書きのメニューにはなんと60種類近くの料理が書かれているではないか。
しかも満席の客を待たすことなく、淡々と料理を仕上げていく主人の能力が素晴らしい。どの皿も独創性があり、盛り付けも工夫されている。
見ていると、仕込みは最低限のようで、注文ごとに魚や野菜、肉を切っている。
つまり、客本位なのであった。
「新物ホタルイカと分葱の酢味噌」が運ばれれば、サラダですかという斬新な盛り付けで、食べれば理にかなっている。
「いたや貝パクチーのカルパッチョサラダ」は、魚醤、レモン、パクチー、茗荷,赤パプリカ、揚げワンタン、玉ねぎ、ナッツが入っていて、それぞれのバランスがいい。
「アボカドと山芋の生春巻き包み」は、アボカドの硬い黄色い部分と長芋を細切りにして、アボカドのつぶしたものと合わせてライスペーパーで巻いてある。食感の妙が楽しいが、家で真似てやってももうまくいかないだろうな。
「豚足と平春雨のエスニック風 四川山椒やわらか煮」は、トロトロになった豚足の食感と春雨が同期する中で、山椒がヒリリとアクセントに。
「足赤えびのフライ」は、車えびより強い甘みに惚れ、「トルティーヤのアンチョビと青唐辛子のピザ」の、見事な組み合わせに大笑いした。
最後は、店名の由来となった串カツである。数ある中から、新玉ねぎ、赤ウインナーと青唐辛子、ばさ(牛の肺)を選ぶ。
ばさの串カツは珍しい。でも青唐辛子と赤ウインナー同様に、串カツにする意味が正しくあって、心を震わせるのであった。
ああ「和牛あごすじ富山芋のガーリックソテー」や「ミンク鯨さえずりの酢味噌」「みる貝とつぼみ菜のネギ生姜ソース炒め」も食べたかったなあ。
値段は2人で食べて飲んで、1人約5,000円。
店を出て誰もがこう思うはずである。
「あぁこんな店が近所にあったらな」と。