【そば百名店】
名店の系譜を辿る 第1回
「そば百名店」の中には、多くの逸材を輩出している名伯楽の店が数軒存在します。また、そこから独立した弟子たちの店も「百名店」入りしています。主要なそば店の師弟関係が頭に入れば、お店を訪れる楽しみも深まるというもの。というわけで、そば研究家の前島敏正さんがそば界の師弟関係を紐解く「名店の系譜」を3回にわたってお届けします。第1回は千葉県柏の名店「竹やぶ編」です。
「竹やぶ 柏本店」の系譜
「2017年の百名店を見ると気がつくのは、千葉県柏の名店『竹やぶ 柏本店』出身者のお店が多いこと。亀有の『吟八亭 やざ和』、江古田の『じゆうさん』、神宮前の『玉笑』、神楽坂の『東白庵かりべ』は、みな『竹やぶ 柏本店』から独立した人たちのお店です。彼らが修業した『竹やぶ 柏本店』は、北柏の駅から手賀沼を一望する小高い丘の上にあり、独特の凝った内装とそばの美味しさが特徴的。お弟子さんたちのお店も、内装が凝っている傾向がありますね。それから『にしんの煮付け』と、ふわふわの『そばがき』の美味しさも共通点です。ちなみに『竹やぶ 柏本店』は、創業者の阿部孝雄さんのご次男が継ぎ、『竹やぶ 箱根店』はご長男が継いでいます」(前島さん)
注目の若手が営む「手打ち蕎麦 じゆうさん」
「竹やぶ 柏本店」卒業生が営む人気店の中でも、江古田の「手打ち蕎麦 じゆうさん」は、前島さんが若手の注目株として推す一軒。ご主人の高橋定雄さんが、実家のそば店をリニューアルして開いたそば店です。
高橋さんのご実家は、もともとそば店。「竹やぶ 柏本店」で修業し、実家に戻って3代目を継ぐ際に店名を改め、リニューアルしたのは2004年です。店名の「じゆうさん」の由来は、店の前の目白通りが昔、道幅の広さから「13間道路」(※)と呼ばれていたため(※13間=23.5m)。名付け親は「竹やぶ 柏本店」の阿部さんです
ステンドグラスが嵌め込まれた入口のドアを開けると、左手はカウンター(4席)で、右手はテーブル(8席)。奥には掘りごたつの座敷(5席)があり、ガラスの壁越しに打ち場を見ることができますが、実際にそば打ちがされるのは開店前。店内を見渡すと、テーブルやカウンターはかえで材の独特の風合いを生かしたもので、カウンターの上にはガラス作家のキノコのオブジェが。箸置きやせいろの笊は輪島塗りのものを揃えるなど、店内のあちこちに風流なこだわりが表われていますが、こうした趣味も修業先の「竹やぶ 柏本店」からの影響が少なくないそうです。
そばは、日本全国の良質な玄蕎麦を低温冷蔵で熟成させ、毎朝自家製粉して打つ「せいろ」(900円)と「田舎そば」(1100円)の2種類。「せいろ」は電動の石臼で挽いたそばを10割で打ち、「田舎そば」は玄そばを石臼で手挽きし、つなぎを1割強入れて打ったものです。「田舎そば」は、高橋さんが「打つ時にゴツゴツさせないように気をつけています」と言う通り、しなやかなコシがあり、喉越しなめらか。薬味にわさびではなく辛味大根が供されるのは、「(そばの)穀物のような香りを生かすため」だそうです。1日10食限定のため、お早めにどうぞ。
「にしんそば」(1800円)は、「竹やぶ 柏本店」から受け継ぐ「にしんの煮付け」と「かけそば」が、別盛りで供される1品です。にしんの煮付けの作り方は、初日は米の研ぎ汁で煮て冷まし、2日目は漉した煮汁に昆布や鰹節、醤油、みりんを加えたもので煮て冷まし、翌日もこれを繰り返し、ようやく4日目に完成するというもの。驚く程手間のかかる料理ですが、高橋さんいわく、「一番時間がかかるのは“つゆ”」。「じゆうさん」のつゆは、ソーダ節とサバ節の“焼き節”を井戸水で煮出し、“かえし”と合わせているそうです。
「“節”は蒸して使われることが多いですが、私は焼くことで旨みを凝縮させています」
丁寧に煮られたにしんは程よい甘辛さで、とろけるように柔らかく、旨みがたっぷり。かけそばの上にのせれば、丁寧にとられたつゆににしんの旨みが染みて、まさに至福の味わいです。
※蕎麦がなくなると早仕舞いもあるのでご確認ください。
※12月30・31日はお土産のそばの販売のみ。