【定食王が今日も行く!】
張り詰めた緊張感が心地よい。究極のぼっち飯空間
深夜飯こそ、定食王はその力を発揮する。うまい店はいくらでもあれど、また行きたくなる店には、理由がある。唯一無二の魅力がある。仕事でぐったり疲れて、モチベーションが下がった時にこそ、訪れたくなる店がある。それが駒沢大学にある「かっぱ」だ。
初めて訪れたのは8年ほど前。初訪問の時は、“店内、食事中の私語禁止”の都市伝説を聞いていたので、かなり緊張しながら訪れた。店内に入ると、確かにぴーんとはりつめた空気だ。漫画『孤独のグルメ』にも登場する。
ひとりで来店している客が多いから、単純に私語が少ない。音楽も話し声も聞こえないピーンと張り詰めた空気の中で、牛煮込みと真摯に一対一で向き合う。究極の孤高のグルメだ。しかし、何回か通うと、この緊張感を想像するだけで興奮する。そして、そこにいる皆が深夜に、それぞれの1日を終えて、ひとり飯を食っているという空間が、とても心地よいのだ。
深夜まで営業しているので、以前は泥酔して来店する客が多く、酒を提供しなくなったそうだ。私語禁止もその当時のご主人が決めたルールのようだ。 創業1950年、今のご主人で3代目。店の奥には昭和30年代に授与された「内閣総理大臣賞」の賞状が掲げられている。
深夜に食べるから沁みる!
唯一無二の牛煮込み
席についても注文は基本的に聞かれることはない。さっと牛煮込み並が提供される。並でも他店の大盛りくらいあるので要注意だ(ちなみに写真は大盛り)。ご飯の量を注文するのを忘れずに。おひつで充分に蒸らされたご飯は、米粒が美しくピカピカと輝いている。その米は軟らかく、うまい。深夜に食べるからこそ、癒やされる。
“モツは使っていません”という貼り紙の通り、牛の赤身肉、こんにゃく、絹ごし豆腐を味噌ときざみ生姜で煮込んでいる。肉はホロホロと口の中で溶けていく。味噌煮込みだが、さほど濃厚でパンチがあって、ご飯がすすむというタイプではない。ただ一度食べると、また食べたいという衝動にかられるほど、中毒性があるのだ。
牛煮込みは浅い皿で提供される。必ずと言っていいほど、テーブルにこぼれる。おそらくお店の演出だろう。手が汚れる前提で、カウンターにはティッシュ箱が用意されている。
最後はもちろん、ご飯にぶっかける。牛煮込み・オン・ザ・ライス。七味で味を変えるのもおすすめだ。ご飯だけを楽しみたい人にはごま塩も用意されている。小鉢としてついてくるのは、きゅうりのぬか漬け。すでに醤油がかかっている。デフォルトで白飯が大盛りなのは、ご飯に牛煮込みをかける前提なのだろう。
メニューは牛煮込み、ご飯、お茶漬け、漬物のみ。以前は「煮込み」並650円、小550円だったが、やや値上がりした。ご飯の大きさだけ言えばいい。何も言わなければ煮込み並700円、ご飯並200円、漬物100円がでてくるので、1,000円。店の入り口左側にキッチン直結の小窓があり、テイクアウトも可能だ。
牛煮込みこそ、「定食」の原点!?
明治文明開化から140年
これは定食なのか?と問われると、現在の定義からは外れるかもしれないが、これこそ「定食」の原点なのではと思う。「定食」明治時代の文明開化後、肉を食べるようになった日本人が、西洋料理のコースを「定食」と呼んだのが語源だと言われる(諸説あり)。しかし粗食だった日本人には、受け入れられず、和製の洋食を白い飯を食べる習慣が生まれたという。とんかつや、コロッケ、チキンカツなども、この当時生まれた。その中でも牛屋という牛肉を味噌で煮込みきざみネギや山椒などで味付けし、提供する店が人気を博した。その後、戦後昭和30年代から大衆食堂として発展していったと思われる。つまり、牛肉の味噌煮込みは140年前から日本を支えている、DNAフードといっても過言ではないのだ。
店は24:30までだが、売り切れ次第終了なので、23:00頃までの入店をオススメする。体に心に沁みる牛煮込みをぜひ、一度試してみてほしい。きっとまた深夜に駆け込んででも食べたくなるはずだ。