目次
活躍の場を広げている女性料理人
あらゆる業界において女性の進出がめざましいが、料理業界もまた例外ではない。世界的にみれば、三ツ星という地位にまでのぼりつめた女性シェフも何人もいる。
また、昨今のガストロノミーの潮流に大きな影響力を持つ「世界のベストレストラン50」では、7年前から最優秀女性シェフ賞を設けている。アジアやラテンアメリカのベストレストラン50では5年前から同じ賞を配している。ベスト50の創設がおよそ20年前であるから、その間に、いかに女性シェフへの関心やリスペクトが増したかということがわかる。
日本はまだまだ、女性シェフが少ない?
しかしながら、日本においては、まだまだ女性シェフが活躍しにくい状況にあるという現状は否めない。それは、厨房の現場が、物理的な筋力が要求される、過酷な労働環境であること以上に、長年日本の料理界が体育会的男性社会で構成されてきたことが大きい。ある種の武士道的な考え方から女人禁制的な風潮もあった。
例えば、女性は体温が高いから鮨を握るのには向かないといった、今の時代であれば、セクハラともとられかねない常識もまかり通っていた。政府が「女性が輝く社会を」と声高に叫びながらも、先進諸国の中では女性の管理職が極めて少ない現状もなかなか変わらない。料理業界においても、女性がより輝ける時代がきてしかるべきだ。
世界のトップ女性シェフは、どうやってハンデを克服し、輝けるようになったか?
一般的に女性のほうが力が弱く、また、出産や育児などのハンデがあるのは、万国共通。では、世界のトップ女性シェフたちはどのようにしてそうしたハンデを克服したのであろうか。
2017年の世界最優秀女性シェフ賞を受賞したスロベニアのアナ・ロスは、受賞スピーチの際、「ソムリエである夫をはじめ厨房全体の協力体制があったことが、自分がここまでこられた一番の要因である」と感謝を述べ、「子供たちが小さいときには、厨房に寝転がっている子を足であやしながら、仕事をしたわ。それでも子供は育つのよ」と会場を沸かせた。つまり、育児が本当に大変なのはいっときのことで、何がなんでもやり抜くという強い意志の力があれば、大きな障害にはならないと、若い女性シェフたちを勇気づけたのだ。
今年のアジアベスト女性シェフ、ビー・サトンガンをインタビューしたときも、ママのそばを離れたくない幼い娘をあやしながらの質疑応答となったが、やはり、共同経営者である夫への感謝、また、母や祖母から受け継いだ家庭料理のエッセンスが何より、今の自分の核となっているとも述べている。
スペインカタルーニャの三ツ星「サンパウ」の女性シェフ、カルメ・ルスカイェーダは、もとは料理好きの主婦だったという。家族に美味しいものを食べさせ、幸せな笑顔を見たいという気持ちの延長で料理ができることも、女性シェフの強みの一つではないだろうか。
日本で活躍する女性シェフ3人にインタビュー
女性料理人の地位向上のためには、こうしたスターシェフを輩出し、注目を集めることも必要だろう。現在、日本で活躍している女性シェフ3人に話を聞いた。
修業先選びが肝心。「THIERRY MARX 」小泉敦子さんの場合
まず、「THIERRY MARX (ティエリー・マルクス)」の総料理長を務める小泉敦子さん。「力ではどうしてもかなわない部分があります。だからこそ、普段から男性以上に働き、必要なときに手助けしてもらえるような環境を作っておくのです。パリのマンダリン オリエンタルの創業時より6年間、同総料理長ティエリー・マルクスシェフの下で働きましたが、その間、厨房の半分が女性だったこともあります。マルクスシェフは「女性だから、男性だから」という考え方は全くしない方。能力や感性をフラットに評価してくれました。フランスでもそうではないシェフがいるそうですから、その点を視野に入れて修業先を考えることも必要かもしれません」という。
「THIERRY MARX」の鳩のロースト 出典:お店より
マルクスシェフと小泉シェフ
出産・育児はハンデとは限らない。「志摩観光ホテル」樋口宏江さんの場合
志摩観光ホテルで伊勢志摩サミットのワーキング・ディナーを担当し、一躍注目を集めた樋口宏江シェフ。志摩観光ホテルの総料理長として、「ラ・メール ザ クラシック」をはじめとする、ホテルのすべてのレストランの料理を統括する。「女性の強みの一つはしなやかさ。困難をうまい具合にかわしながら前に進めること。出産、育児はハンデである反面、母親としての目線を持つことで、お客様の料理を作るうえでも役に立ちました」と。
「ラ・メール ザ クラシック」の伊勢海老アメリカンソース 出典:お店より
「ラ・メール」の鮑ステーキ 出典:お店より
樋口宏江シェフ
ファッションにインスパイアされたケーキ。「ete」庄司夏子さんの場合
弱冠28歳ながら、プライベートレストラン「ete」のシェフとして、また宝石箱のようなケーキのパティシエとして話題の庄司夏子さん。「私の強みとなるケーキのデザインはファッションにインスパイアされたもの」と、女性ならではの美意識も強みの一つになっているようだ。「サプライズよりも、食べて本当に美味しいという感動を何より大切にしたいですね。だから、一品ずつの精度を徹底的に上げていきたいと思っています」とも。
「ete」のマンゴーのケーキ 出典:毎日外食グルメ豚さんさん
庄司夏子さん 出典:お店より
自分にしか開けない道を
ビジネスとしての成功よりも、美味しいものを作りたい、幸せな笑顔をみたい、そんな気持ちを純粋に持てるところも、女性料理人の強みといえるだろう。パリの星付きレストランでの活躍、日本の格式あるホテルの総料理長、プライベートレストランのオーナーシェフ……。女性料理人といっても、その道は決して一通りではない。自分に合った方法を摸索しながら、夢を持ち、強い気持ちで努力を重ねること。それが、結果的にはシェフを目指す近道なのである。
料理界の未来を担う女性シェフを応援
若手女性料理人の活躍を応援するイベントが、9月9日に開催される。料理人、ソムリエ計6名が登場。料理人が「自分自身を表現する一皿」提供予定。
会場:TRUNK(KITCHEN)東京都渋谷区神宮前5-31
席数:40席
メニュー:料理4品、デザート1品+ペアリング
料金:17,500円(税込)
販売方法:予約ページを近日公開予定
※イベントの内容については、予告なく変更される場合があります。予めご了承ください。