季節のコース料理と野菜たっぷりの麺料理を味わう

森脇さんのおすすめは、「元町梅林」時代からの定番メニュー3品と、平日ランチで提供する野菜たっぷりの麺料理。いずれもオリジナリティあふれる工夫が見られ食通を魅了する。

肉のうまみがじゅわっと広がる「和牛ローストビーフ」

コース料理での提供が基本、料理全体の味のバランスを考慮し薬味や添え物はその日で変わる

森脇さんのイチ押しは「和牛ローストビーフ」。目の前に運ばれ、まずその大きさにびっくり。続いて、「たおやか」という言葉が浮かんでくるほどの美しさに目が釘付けになる。

 

森脇さん

あっさりとして塩の塩梅もちょうどよく、しつこくありません。通常、冷たい状態で出てきますが、焼きたてから冷めた状態が一番おいしいですね。

絶妙な火入れでしっとり美しいロゼに仕上がっている

「脂が溶けるくらいの状態がもっともおいしいので、その状態でご提供しています」と話してくれたのは、平尾さんとタッグを組み調理を担当するチーフの高村誠さん。

まずは肉の出汁を使った特製だれに付けてパクリ、口の中でとろけるほど軟らかい。自家製生七味をアクセントに、こっくりとしたおいしさの卵黄の味噌漬けを肉でくるんで味わうと、口中でジューシーな肉のうまみと三位一体となり思わず笑みがこぼれる。

万人に愛される定番料理「お餅の天ぷら」

コース料理の中ほどで提供される定番の一品

2品目は、新潟が取り寄せたお餅を揚げて特製のだしに浸した「お餅の天ぷら」。使われているのは、新潟産のもち米から作られた「こがね餅」。色白でコシがあり、もっちりした歯ごたえを楽しめるのが特徴で、これを揚げ餅にすることで香ばしさと食感の妙が加わる。

甘辛い特製だしは世代を問わず誰もが大好きな味。たっぷりの大根おろしと青ねぎがアクセントになり、ぺろりといただける。

サクサクの衣とプリプリの食感がたまらない「海老フライ」

「海老フライ定食」2,750円。海老2本に季節の天ぷら、ご飯、味噌汁、香の物が付く

ボリューミーな「海老フライ」も長年愛されてきた外せないメニュー。厚くもなく薄くもない、ちょうどいい塩梅のパン粉に覆われカラッと揚がった海老は、丸々としてプリップリ、思わずうなるおいしさだ。

「うちのチーフは揚げ物が特に上手で、チーフと二人でよく食べ歩きに行きますが、フライはうちの方が一番おいしいといつも思います」と平尾さんも太鼓判。ちなみに仕入れがあるときは、長さ30cmはあろうかという超特大サイズの「極みエビフライ」の提供もある。入手困難なサイズゆえ、メニューに並んでいたらぜひオーダーしてみてほしい。

フライのおいしさを引き立てる藻塩、自家製ソース、自家製マヨ(季節で変わる)

味わうときは自家製ソースとマヨ、まろやかな口当たりの藻塩をお好みで。

デミグラスソースのような色合いの特製ソースは、野菜と果物を何種類も煮込んだ自信作。使用する素材は季節で変わるが、果物に至っては柿、イチジク、マンゴー、ブルーベリー、バナナ、リンゴ、パイナップルの7種類が使われ、奥深いという言葉がぴったりの味わいで、海老フライのおいしさを引き立てる。

自家製マヨには、同じく自家製のマーマレードが加えられているのが特徴。ほのかに感じる柑橘の風味が心地よく、さっぱりといただける。

特製ジャンで身も心も温まる「温心菜麺」

野菜たっぷりでヘルシーな「温心菜麺(おんしんさいめん)」1,500円

火〜金曜のランチタイムのみ、数量限定で味わえる麺料理のファンも多い。健康志向の料理に定評があった「健食優菜ひら」から続くメニューで、春は「切り干しつけ麺」、夏は冷たい「冬瓜ラーメン」など、季節でスープも麺もがらりと変わるのが特色だ。

「大事なのは体感温度。温度によって食べたいものが変わるので、温度に合わせた麺料理を提供しています」と平尾さん。

冬のメニューは、麺が見えないほど野菜がたっぷり、トッピングのゴマもたっぷりのった「温心菜麺」。「野菜はネギやレタス、大根などを使っていますが、大根は生を煮るだけではシャリシャリ感しかないので、店で干した大根も混ぜています。干した大根を入れることで甘みも出ます」(平尾さん)。しかも太さによって一夜干し、1カ月など干す期間を変えるというから驚きだ。

 

森脇さん

麺類は女将の平尾さんのオリジナル。季節で変わるのですが、どれも独特でそそられます。

特製のジャンを加えて味変を楽しむ

麺はつるつる、シコシコのきし麺。1日半かけて作る豚の佃煮を出汁で割った滋味深いスープは、最後の一滴まで飲み干せるおいしさで、毎日食べても飽きないやさしい味だ。

平尾さんが「薬味にたっぷり加えて」と話すのは、小皿で添えられた自家製のジャン。海老、イカ、ホタテ、ウコン、山椒などで作られており、メニュー名の「温心菜麺」のごとく、加えることで心も体もぽかぽかになる。「ママ、とても温まったよと笑顔で帰られるお客様のお顔を見るのがうれしくて」と平尾さん。

心も体もほっとする料理と空間が一番大事

レトロなデザインの釣り看板が目印

「梅林」から「元町梅林」が生まれ、「元町梅林」と「健食優菜ひら」が一つになり「春鶯亭ひら」へ。時代や店は変わっても、そこに変わらず流れているのは、平尾さんも話す「召し上がった後に笑顔が出るお店でありたい」という思い。

「うちは、みなが一丸となって家庭的なおもてなしで迎えるお店、アナログなんです。ハイテクなものがなくて恥ずかしいのですが」と平尾さんは謙遜するが、非対面・非接触が加速化する時代だからこそ、心も体もほっとするような料理と空間を提供する「春鶯亭ひら」は輝きを増す。

火打ち石で見送る若女将の小川和貴(かずき)さん(右)とスタッフ(左)

帰り際、厄除けのおまじないに行ってくれるのは火打ち石によるお清め。姿が見えなくなるまで見送られ、帰り道も心がぽかぽかになる。横浜元町で覚えておきたい味な一軒、ぜひ予約を取って出かけてほしい。

※価格はすべて税込

撮影:齋藤ジン

取材・文:池田実香(フリート)