【今これがキテる!】~ピスタチオスイーツ~

なんだか最近目にする機会が増えた気がする……そんな、“今まさにキテる”グルメを紹介する不定期連載。今回は、全国各地で専門店が登場している「ピスタチオスイーツ」をフィーチャー。連載「スイーツ探訪」でおなじみ、お菓子の歴史研究家の猫井登さんに、昨今のピスタチオスイーツブームについて詳しく教えてもらいました!

教えてくれる人

猫井登
1960年京都生まれ。 早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。退職後、服部栄養専門学校調理科で学び、調理免許取得。ル・コルドン・ブルー代官山校にて、菓子ディプロム取得。フランスエコール・リッツ・エスコフィエ等で製菓を学ぶ。著書に「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス刊)「おいしさの秘密がわかる スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版刊)がある。

砂漠地帯からやってきた!「ピスタチオ」ってどんな食材?

写真:gettyimages

原産地・歴史

ピスタチオは、中央アジアから西アジアにかけてが原産地とされ、乾燥した砂漠地帯に生育していた。後に古代トルコ、ペルシャ地域で食用として栽培するようになり、ローマを通じてヨーロッパに広がったとされる。

木に実ったピスタチオ 写真:gettyimages

生産国

生産量が多い国としては、イラン、アメリカ・カルフォルニア、トルコなど。製菓用としては、鮮やかな緑色で甘さとコクが抜群と評価され、イタリア・シチリア島ブロンテ村のものが人気が高いが、生産量は少なく高価だ。

味わい・食感・香り・色合い

味わい的には枝豆やピーナッツに通ずるものがある。ほんのりと甘いコクがあり、濃厚な味わいで、ほかのナッツに比べてねっとりとした食感が魅力。炒ったものは香ばしい香りがするが、生のものは、ややスパイシーでハーブ系の香りがある。

バクラヴァ 写真:gettyimages

ピスタチオグリーンと呼ばれる緑色を有し、砕いてケーキやクッキーのトッピングに使うほか、ペースト状にして製菓の材料として用いられる。西洋菓子のみならず、アラブ菓子においても多用され、パイ菓子の一種である「バクラヴァ」やヌガーに似た「ハルヴァ」などにも入れられる。

成分・栄養素

ピスタチオは、カリウムや鉄、銅などのミネラル、ビタミンB1、ビタミンE、不飽和脂肪酸のオレイン酸、リノール酸、βカロテンなどを含んでいることから、むくみや高血圧の予防、貧血防止、コレステロール値低下、肌の乾燥予防、免疫力向上などの効能が期待できるとも言われている。

転機は2020年。ピスタチオスイーツ人気のきっかけは?

写真:gettyimages

ピスタチオスイーツは、2016年11月にハーゲンダッツが「ピスタチオベリー」(アイスクリーム)を、2017年11月にスターバックスが「キャンディーピスタチオフラペチーノ」「キャンディーピスタチオ」を発売。2018年には、パティスリー界でもピスタチオが注目されるようになり、クリスマスにはピスタチオの緑がクリスマスのイメージカラーであるグリーンを象徴することもあり、デパートでピスタチオクリームを使ったクリスマスケーキが数多く見られた。

写真:gettyimages

貿易統計においても、2019年にはピスタチオの輸入量が統計を取り始めた2012年以降で最多の500トンとなり、菓子メーカーがピスタチオを使ったスイーツを大幅に増産させたことが要因とされた。そして、コンビニにもピスタチオスイーツが登場することとなる。このような背景の中で「ピスタチオスイーツ」への注目度が一気に上昇したのが2020年だ。きっかけは、成城石井が2020年4月に発売した「ピスタチオスプレッド」だった。

あんぱん小僧
成城石井が販売し大ブレイクしたピスタチオスプレッド   出典:あんぱん小僧さん

ふつうにパンに塗る商品として発売したが、SNS上で、購入者がアイスクリームにのせたり、和菓子を作ってみたりと、多くのスイーツレシピを提案。これを受けて、成城石井も独自のピスタチオスイーツを開発。2021年5月24日に「自家製ピスタチオプリン」を発売したところ、なんと発売1カ月で16万個を売るヒット商品となった。

もちろん他社も黙ってはいない。2020年8月には小樽洋菓子舗ルタオを運営する会社が東京駅内の東京ギフトパレットにピスタチオスイーツ専門店「PISTA & TOKYO(ピスタアンドトーキョー)」をオープン。コンビニの店頭にも、製菓会社各社のプリン、アイスクリーム、ケーキと数多くのピスタチオスイーツが並び、熾烈な競争が展開されている。

「PISTA & TOKYO」では、ホワイトチョコレートにたっぷりとピスタチオペーストを練り込んだ「ピスタチオ ショコラテリーヌ」や、ピスタチオバタークリームにローストしたピスタチオをあしらったサンドクッキー「ピスタージュ」などが人気

専門家が注目。おいしいピスタチオスイーツに出合える3店

「パティスリー ユウ ササゲ」

オーナーシェフの捧雄介氏は、かつて南青山にあった老舗パティスリー「ルコント」に入社した後「オテル・ドゥ・ミクニ」などで修業。「ロワゾー・ド・リヨン」「パティスリープレジール」などでシェフパティシエを務め、2013年、千歳烏山に「パティスリー ユウ ササゲ」をオープン。2021年5月には、小田急新宿店地下2階に初出店した。

ピスタチオの生菓子としては、従来より、ピスタチオのバヴァロワーズにグリオットチェリーとフランボワーズのジュレとクリームを合わせた「シシリエンヌ」(予約・店頭受取限定商品)があるほか、新宿店限定メニューとして「タルトピスターシュ」がある。

「タルトピスターシュ」648円

タルトピスターシュは、ピスタチオ生地を流し、香ばしく焼き上げられたタルトを土台にフランボワーズのジュレを中に入れたピスタチオのムースをのせ、フランボワーズの果肉とピスタチオをトッピングしたもの。

ピスタチオのムースは、なめらかで濃厚な旨味たっぷり。これにフランボワーズの甘酸っぱさが合わさり、素晴らしいハーモニーを奏でる。軟らかなムースとしっとりとした生地を入れて焼き上げたタルトともよく調和している。

「ケーク オ ピスターシュ」1,814円

ピスタチオの焼菓子も販売されている。「ケーク オ ピスターシュ」は、ピスタチオのパウンド生地の上にフランボワーズのダコワーズ生地が絞られ、ピスタチオ色のホワイトチョコ、フランボワーズがトッピングされた、見た目にもスタイリッシュでオシャレなパウンドケーキ。

上のダコワーズ生地は、さっくり。パウンド生地は、しっとりと焼き上げられ、中にはフランボワーズのコンフィチュールをしのばせるという心憎い演出。ベリー系の色合いが生地に華やかさを与え、甘い香りを漂わせる。

「アンテノール」

アンテノールは、神戸の有名菓子メーカー「エーデルワイス」が1978年に誕生させた、全国の有名百貨店で展開するブランドのひとつ。ヨーロッパ菓子のおいしさと伝統を大切に、素材の持ち味を最大限に生かした洋菓子を提供している。

2022年3月末までの期間限定販売の「ピスタチオ・サヴール」800円(1個)

「ピスタチオ・サヴール」は、小麦粉、砂糖、バターを合わせて作る、香ばしいシュトロイゼル生地を土台に、薄く生クリームを塗り、スポンジを敷いて、その上に稀少なイタリアのブロンテ産のピスタチオを用いたムースをのせたプチガトー。ピスタチオの中には、トンカ豆のクレームブリュレとベルガモットのソースが隠されている。

トンカ豆は、バニラのような甘い香りで、桜餅や杏仁などのニュアンスも併せ持つ植物。ベルガモットは、アールグレイ紅茶の香り付けにも使われる柑橘系の植物。もともとは、サワーオレンジ、レモン、ライムなどを交配させて作られたものとされる。

ピスタチオは濃厚な旨味を有するが、単体ではややしつこく、単調になりがち。そこで、柑橘系のベルガモットの爽やかで酸味のあるソースを合わせ、かつ、柑橘系と相性が良いとされるトンカ豆のクレームブリュレを合わせた、緻密に計算された逸品だ。ピスタチオの旨味とベルガモットの酸味、シュトロイゼルの香ばしさが三位一体となって口中に広がる至福の時間を味わうことができる。