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提供:JR東日本 東京感動線/TOKYO MOVING ROUND
歴史とともに進化を続ける、温故知新の街・大塚
大塚駅には「遊びに行こう!」というイメージはあまりないかもしれませんが、実は、一度は訪れたい新しいグルメスポットが満載! そもそも大塚は駅南口に戦後最大規模と言われた花街の名残を残す「大塚三業通り」がある、歴史ある街。ここから数分の天祖神社は今も地元の人々の厚い崇敬を受けていますが、なんとその創建は鎌倉時代にまで遡るのだとか。一方最近では、星野リゾートの都市観光型ホテル「OMO5 東京大塚」がオープンしたり、山手線沿線のローカルフリーマガジン「東京感動線/TOKYO MOVING ROUND」の創刊準備号が大塚を取り上げたりと、多方面から注目を集めています。古き良き情緒はそのままに、さらに個性あふれる街へと変貌し続ける大塚の「いま」が見逃せません!
懐かしい昭和の風景。「東京大塚のれん街・魚屋みらく劇場」
大塚駅北口再開発エリアの一角にひしめき合っていた木造古民家を保存・リニューアルした店舗群「東京大塚のれん街」。ここはノスタルジックな昭和の風景が消し去られることなく守られた、古くて新しい大塚の名所です。「個性的でリーズナブルな店が並ぶのれん街は、何軒かはしごするのが通の楽しみ方」とスタッフの岡本圭佑さんは言います。
「東京大塚のれん街」の中に、大阪の実力派海鮮料理店の姉妹店が昨年東京初進出。ハズレがない味のレベルの高さはもちろん、圧倒的コスパの良さとボリュームを誇ります。「かつおのわら焼き」480円(税別)は、ワラで燻して塩たたきにした焼き立ての鰹を楽しめる大人気メニュー。芯は冷たく外側は温かいままなので、薬味を合わせる前に是非そのまま香ばしさを堪能したいところ。
「ポテトサラダ」480円(税別)。ボイルしたホクホクのじゃがいも丸ごとひとつの上にのっているのは、自家製の半熟煮玉子です。見た目の面白さもさることながら、席でスタッフが混ぜてくれるのも楽しみのひとつ。最初は粗めで食べてみて、途中から細かめのしっとりとした食感を楽しむのがおすすめです。全国から集められた日本酒は、どれも徳利で650円(税別)均一というから驚き(一部それ以下もあり)。日本酒の激戦区・大塚で気軽に飲み歩きたい飲んべえにとってはうれしいスポットです!
大塚を楽しむ中継基地にぴったりの「エイトデイズ」
都電の線路を挟んで、東京大塚のれん街の向かいに昨年オープン。ゆったりとした店内には、洋酒・ワイン・日本酒と充実したラインナップの揃うバーカウンターも併設。飲みに繰り出す前の起点としてもよし、飲んだ後に静かで居心地のよい店内でじっくり語るのもよし。幅広いニーズに応える地元密着型のレストランなのです。「自家製スモークポークのカルボナーラ」は1,200円(税込)。幅広のフィットチーネにパルミジャーノチーズがかかった、スタンダードなスタイルです。
「豚肉の低温ロースト マスタードソース」は1,400円(税込)。今年1月半ばから順次リニューアルしている新メニューの中でも、お店イチオシの一皿。地域のお客さんのニーズに応えて、しっかりとおいしい夜のお食事メニューをさらに充実させたのだとか。低温でじっくり火を通した柔らかいロース肉に彩りを添えるのは、こっくりと煮詰めた赤ワイン仕立てのマスタードソース。
「大塚駅前にはスペースがなく、家族連れで行けるお店も少なくて。さらに魅力ある街に進化するため人が集う場所として意識した店です」と、店長の谷川英司さん。旅籠をイメージした格天井の洗練されたデザインが、居心地の良さを感じさせてくれます。
いつもの旨酒がここに。日本酒の聖地「串駒 本店」
駅前から少し離れ、戦前の民家を改築した店舗に到着。二階座敷で出迎えてくれたのは、先代店主大林禎氏の妻・雪江さんです。先代は地方の蔵元へ足を運んでは、自身で味を確かめた酒を仕入れていました。「そんな店主は当時他にいなかった。まっすぐな好奇心がそうさせたのでしょうね」と雪江さん。やがて串駒は希少な銘酒が並ぶ日本酒の聖地と呼ばれるように。先代の常識破りの行動力が、現在の地酒ブームのきっかけのひとつとなったのです。「山海馳走盛り」6,000円(税別)は、旬の魚と一緒に熊本の契約牧場直送の馬刺しを楽しめる贅沢な逸品。三重の銘酒「而今(じこん)特別純米小徳利」は950円(税別)。
「お通し二点盛」900円(税別)と、「十四代本丸生酒角新」の小徳利1,000円(税別)。価格高めのお通しもまた、先代の発案です。「これだけで2種類はお酒が飲めるくらいにしようとていねいに作っていますから、最初の一杯はできれば日本酒を選んでいただければ」と雪江さん。この日はトコブシの煮付け、梅麸、ホタルイカの黄身酒盗がけと、穴子の握り。これに加え、海老真薯(しんじょ)の新挽あられ揚げの椀がついて二点盛りとなります。
火鉢で焼いているのは、能登の魚醤「いしる」を使った「いしりもち」300円(税別)。「先代のように食と酒に興味を持ちアクティブに飛び回る若者が、この店から幾人も巣立っています。彼らが次世代の地酒を扱う居酒屋文化を担っていってくれるはず」と雪江さん。大塚が誇る名店・串駒は、地酒を楽しむ文化と伝統を未来へ伝える架け橋でもあるのです。
酒好きによる、酒好きのための店「ぐいのみ大」
こちらの店主・伊藤大さんは「串駒」出身者の一人。2010年にオープン以来、多くの酒好きに愛されている人気店です。常時揃えている日本酒は銘酒ばかりを揃えた約50種、当然季節ごとにそのラインナップは変化していきます。例えば写真の「東魁盛 純米吟醸」760円(税別)は千葉県・富津市にある小泉酒造のものですが、通常千葉県内にしか出回らないもの。「富津は近いですから、直接買い付けに行きました」と笑う伊藤さん。「大山どりのもも肉塩焼き」780円(税別)といただけば、ついつい杯が進みます。
日本酒だけではなくワインも豊富なのがこちらの店の特徴で、写真のフランス産の「ボンペシェ ブラン」などをはじめ、約30種類を揃えています。「出汁や醤油の味に合うので、基本的にはビオワインです」と伊藤さん。また、お酒に合わせるお料理も新鮮な魚介はもちろん、どれも産地、素材を厳選したものが中心。目にも鮮やかな「デトックス根菜サラダ」980円(税別)は、神奈川県の無農薬栽培農家から取り寄せた新鮮野菜を使用。根菜だけで10種以上が入り、目と舌で楽しみながら味わえます。
「串駒」に勤めているうちに、日本酒やお酒の奥深さ、楽しさに惹かれていったという伊藤さん。日本酒の蔵元にはなるべく通うようにしていると言い、これまで訪れた蔵はなんと200以上! 「一ヵ所で50回以上行った蔵もありますから、延べだともっと行ってますよ」と語りますが、その知識と愛情がメニューにも表れています。かといって肩肘はるのではなく、気楽に楽しめる雰囲気なのもまた魅力的。伊藤さん曰く「お酒を楽しむ人が、もっと増えてほしい」。名店のスピリットは大塚の街を盛り上げながら、脈々と受け継がれているようです。
花街の名残を残す、貴重な名店「割烹 松し満」
かつての花街の名残を感じられる店が少なくなる中、こちらは希少な一軒と言えそう。創業は1948年、かつては座敷もある「割烹店」の営業のかたわら、近くの料亭に仕出しをしていたとか。2012年にカウンター中心の今のお店にリニューアルしたものの、お通しの「白魚のウニあえ」、「まぐろと長いもの梅あえ」各300円(税込)、「海老の揚げしんじょ」900円(税込)、「牡蠣のちり蒸し」900円(税込)など、多くの夜を彩ってきた華やかな和食は健在です。
割烹店時代の器をそのまま使用しているのも、味わいの1つに。「鳥のつくね煮」600円(税込)、「ひじきの炒め煮」300円(税込)と一緒に楽しみたいのは、オリジナルボトルの芋焼酎「酔神の心」グラス600円(税込)。ちなみにこちらの店がある「三業通り」の「三業」とは、「芸者置屋・待合・料亭」の三業態のこと。一番活気があったという戦後の時期には、なんと300人もの芸者さんがいたのだとか。また、他の花街と比べて「穴場」感があるため、芸能人やスポーツ選手がお忍びで遊びに来る場所でもあったそう。
一見絶えてしまったように見えますが、実はまだ「大塚花街」は生きています。1人ではありますが現役の芸者さんが活動をしており、テーブル席のこちらの店でもお願いをすることができるのだそう。「テーブル席だけでも、本当に盛り上げてくれますよ」と語るのは店主・新井定雄さん。父親から店を引き継ぎ、大塚の町の変遷をずっと見つめ続けてきた新井さんはまた、「大塚花街」の最後の灯を守る大切な存在でもあるのです。
街の持つ古い歴史と、いくつもの名店の存在。そしてそんな大塚に惹かれ、新たな店やお客が集まる潮流も生まれつつあります。大塚の美食を楽しむならまさに”今”! ぜひ訪れて、実際に味わってみてください。
取材・文・写真:株式会社フリート