ファッション誌『mer』や『mina』などで活躍するモデルでありながら、豪快な飲み方がなんとも男らしい! お酒好きを公言するモデル・村田倫子が、気になる飲み屋をパトロールする連載。
飲み道楽な彼女が、「同世代の人にもっと外食、外飲みを楽しんで欲しい!」と願いを込めてお送りする今回は、中目黒にひっそりと佇む、看板のない焼き鳥専門店を紹介します。
呑み屋パトロール vol.10「大人な焼き鳥の巻」
焼き鳥が好きだ。
どんなお酒にもぴたりと寄り添って、飽きることなく私たちを楽しませてくれる、我々の誇るべき国民食だと思います。
この連載でも、何度か焼き鳥屋さんを訪れているほど、無意識に串を頬張っている私ですが、今夜は存分に焼き鳥と向かい合い、舌鼓を打ち、浸りたい……。そんな欲求を叶えるべく向かった先は「中目黒 いぐち 本店」。
赤煉瓦がレトロなマンション。階段を上がった先には、ガヤガヤ賑わう大衆向けの呑み屋さん。廊下を進んでいくと、古着屋さん、雑貨屋さん……。この並びの先に、大人の焼き鳥屋さんが存在するらしい(看板が見当たらず、古着屋さん付近で不安になって住所を再確認)。
そして、一番奥に発見。今夜の目的地!
表札からして、シックです。中に入ると、雰囲気はがらりと変わり、広がる大人の空間。
外観からの嬉しいギャップに胸が高鳴ります。いぐちからの粋なサプライズ挨拶。
エレガントさを纏うカウンターに座って、さあ、はじめましょう。今宵のエンターテインメント!
とりあえず生で、連日の強い日差しで弱った身体を癒やす。
いぐちのメニューは、おまかせ4,800円(税抜)コース一択。全部で22品を二時間かけてゆっくり、少しずつ味わうことができます。まさに大人の嗜み。
冷えたビールが染み渡る感覚に浸りつつ、いざ、コーススタート。まず目の前に運ばれてきたのは、「フランス産 フォアグラのコロッケ」です。
のっけから、フォアグラ様! 大人の攻めにまたもや舌を巻く。
コロンとした、一口サイズの丸いフォルムがキュートです。愛らしく小ぶりな見かけとは裏腹に、衣から弾ける濃厚なフォアグラの身と旨味が口いっぱいに広がる快感に痺れます。このサイズ感だからこそ、ガツンとくるパンチ力がちょうど良い。
続いては、「季節の茶碗蒸しをワンスプーンで」。
小ぶりで粋な陶器の中に、めかし込んだ焼きナスがチャームポイント。
冷えた茶碗蒸しがすぅっと舌の温度で溶ける。爽やかに澄んでいるのに、深みのあるだしの風味が良いです。
珍しいメニュー構成に驚いていると、「女性は、いろいろ食べるものを気にするでしょう? フォアグラは身体に嬉しい成分がたっぷりだけど、少し油が多い。それを茶碗蒸しの卵が吸収するんです」と、オーナー。
研究し尽くされた絶妙なサイズ感、そして美容的な要素まで織り込まれた渾身のメニュー。コース内容を6年間変えずも、多くのお客さんから愛される理由は、お店の温度あるおもてなし力にあるのですね。これから現れる品々にも一層期待が高まります。
可愛らしい盛り付けの「いぐちの手造りレバーパテ 自家製パンと」。
カリッとトーストされたパンに、パテをつけ、ぱくり。
んんん、香ばしい小麦の風味にまったり濃密なレバーの甘味。レバー好きとしてはたまらない! 美味しすぎるパテ、このままダイレクトお口コースでもいただきたいです……。
「8時間かけて取った贅沢鶏スープ」は、日本酒の猪口のような容れ物に、光輝く黄金の液体。一口飲むと、思わず「美味しい!」と声が漏れ出る。
あぁ、水筒に入れて一生飲んでいたい……とぶつぶつ呟いていると、「次回水筒持って来てくれたら、スープ入れますよ! また来てくれる方が嬉しいからねえ……」と、オーナーからの天の声。
えぇ、いいんですか!? 愛としか言いようのない懐の深さ。
彩り鮮やかな「和のサラダ」。本日はビーツ、ヤングコーン、サヤインゲン。しゃきっと瑞々しい歯ごたえ。お手製の胡麻ドレッシングが、素材の良さをグンと引き出します。
幸せな芳香を漂わせながら運ばれて来たのは、「カチョカバロチーズ」。北海道十勝、新田牧場から空輸で仕入れ、今目の前に万全の状態で君臨する一皿。
カリッと焼けたキツネ色の殻を破ると濃厚なチーズが口いっぱいに広がり、しこっと楽しい舌触りとともに味覚を歓喜させます。
うーむ、罪深き味。串に入る前に、この充足感。すごいです、いぐち。
さて、今宵の主役達をお出迎えする前にお口直しにと運ばれてきたのは、大根おろし。
存分に串を楽しんでもらいたい、そんなお店の愛が詰まった素敵な心遣い。粋ですね。ほんのりと甘さを纏いながら、口いっぱいに爽やかな風が吹き抜けます。
さて、串を迎える態勢は万全。いよいよご登場願いましょう! いぐち自慢のおすすめ串5本!
まずトップに登場したのは、「ねぎま」。
ぷりんと弾ける身に、しゃきっと瑞々しいネギ。程よい塩加減に、肉の持つ甘味が口中にじわりと沁み渡ります。
続いて、「ささみ焼き」。
透き通る桜色にわさびの緑が映えます。
わさびがツンと鼻を抜ける心地よさに、柔らかで優しいささみの身。御殿場から届く、厳選素材の上品な辛味は、わさびが苦手な私でも美味しくいただけました。
ここで、「次は手羽先なのですが、骨ありにしますか? 骨抜きにしますか?」とオーナー。
!?
がつんとジューシーな手羽先を食べたい……。しかし隣には気になる異性、取引先の大事なクライアント……。今夜は、絶対に失敗は許されない……。
そんな時でも、手を汚さず、安心して手羽先をがっつり楽しめる。なんと紳士的なサービスなんだ(私は骨つきの何かを綺麗に食べるのがとても苦手です)。
骨抜きにしてもらった手羽さん。
リラックスした状態でいただけば、美味しさに浸る余裕もできますね。
ぽっくり楕円の身なりが可愛い「つくね」。
このタネにどのような仕掛けがあるのか気になって仕方ないほど、ジューシな食べ応え。小ぶりでも十分の満足感。
その後の「せせり」の力強い弾力と歯ごたえ。定番五種でさえ部位によって表情がまったく違うことを知り、鳥のスペックの高さに改めて感心。
ここで串のお供を補充。
今日のおすすめの中に、大好きな「萩の鶴」がありました。にゃんこのラベルが愛しい。
はぁ……。
やっぱり日本酒がすきだ……(幸せすぎて顔に締まりがない。笑)。
お次は名物、ピンチョススタイルの串たち。はじめてお目にかかるスタイル。焼き鳥の、まだ知らないキュートな一面を見ることができた高まりに、口元がゆるむ。
左から、「砂肝」「ハラミ」「ハツ」「ボンジリ」そして「ソリ」「フリソデ」と希少部位。
わたしの好物でもある部位たちがずらり。
特にハラミの攻撃力にはあっぱれ。一口サイズという大きさを上回る旨味レベルに、笑顔が溢れる。
希少部位は定番とは違うアプローチでの攻め。少し個性的な味わいが、お酒に合うのだよなぁ。日本酒を運ぶ手に拍車がかかります。
さてフィナーレは、ここにきての野菜たち。
トマト、ズッキーニ、キノコ、ナス。炭火で焼かれた旬の野菜たちの絶妙な甘味が、味覚を静かにフィナーレへと導く。本当に緻密に計算されたメニュー構成なのだと、通しで体感して腑に落ちる。
多くの人の心を掴み飽きさせない秘訣は、多様性と、ふとした瞬間に垣間見ることができるギャップ。活気溢れる大衆の場では、親しみやすい人懐っこさで魅了し、大人なシーンでは、色気を纏い淑やかな一面にドキリとさせる変幻自在の罪なフード、焼き鳥。そんなテクニシャンに、まんまと私はメロメロなわけです。
焼き鳥に惚れ直す夜。あぁ、愛しい。次は水筒を持参してまた来よう。
文:村田倫子