【食を制す者、ビジネスを制す】

仕事をしたくないときに仕事をする

仕事がなかなか手につかないとき、皆さんはどうしているだろうか。気分が乗らない、いつものリズムをつかめない。連休の後なんてとくにそうだが、まるで夏休み明けの小学生のように、沈んだ気分になって、いつもの仕事のリズムになかなか戻ることができない。ある程度、年齢を重ねれば、そんな状態になることは自分でもわかっているのだけど、どうしても身体は重いし、そぞろな気分が続く。

 

そんなときは、もう強引に仕事をするしかない。とくに面倒くさい仕事などに集中していると、いつの間にか通常の仕事モードに戻っていることがある。沈んだ気分でダラダラと過ごすのではなく、エンジンの回転数を急激に上げるように仕事に取り掛かることが得策だ。

 

作家の宮本輝は、日常のリズムを取り戻せないとき、次のような言葉を自分で念じるという。「書けないときに書く」「仕事をしたくないときに仕事をする」「勉強したくないときに勉強する」。無理やりにでも、仕事をしたり、勉強したりすることで、自分をそのリズムに乗せていくのである。

 

実は、ビジネスパーソンにとって、大事なことは平凡な日常をどう過ごすかにある。同じリズムを崩さずに、コツコツと努力する。そうした積み重ねが、塵も積もれば山となると言われるように、大きな成果を生む。気分のノリが悪かろうが、苦しい状況にあろうが、継続してこそ、良い結果が生まれるのである。

 

無我夢中の中に人生の充実がある

宮本輝は次のようなことも言っている。

 

「春は少しずつやってくるのではありません。ある日いっせいに春になるのです。世の中も同じです。少しずつ変わっていくのではありません。あるとき怒涛のように変化するのです」

 

これは多くのビジネスパーソンにとっても同じことではないだろうか。毎日、仕事の理不尽さに抵抗しながら、なんとか仕事を進めていると、そのうち仕事ができるようになる。その仕事を繰り返し、繰り返しやっているうちに、突然、これまでと違う自分を自覚するようになる。飽きもせず、仕事をやり続けていると、その人にしかわからない変化と達成感の喜びを獲得できるのである。

 

どうも成功者は同じような考え方を持っているようだ。建築家の安藤忠雄もこう言う。

 

「人生に“光”を求めるのなら、まず目の前の苦しい現実という“影”をしっかり見据え、それを乗り越えるべく、勇気をもって進んでいくことだ。私は人間にとって本当の幸せは、光の下にいることではないと思う。その光を遠く見据えて、それに向かって懸命に走っている無我夢中の中にこそ、人生の充実があると思う」

1杯の煮込みを食べて、努力することの価値を再確認する

ただ、私は怠け者だ。だから、こうした文章を読みながら、いつも反省することになる。どうしても毎日同じリズムで過ごすことができない。だから、ある日、こう考えた。少しでもリズムを取り戻せるように、あることをするようにしたのだ。それは何のことはない。歩くことだ。とにかく気分が乗らないときは、歩くようにしている。歩いていると次第にリズムがつかめるような気がしてくるのだ。

 

それでも気分が乗らないときは、汗をかくために2時間くらい歩く。身体に負荷をかける。そんなときは、よく駒沢公園までウォーキングする。公園内を歩いていると、ときどき将棋の羽生(善治)さんを見かけることがある。そのときはちょっと得した気分になる。

 

歩けば、お腹も空く。そんなとき利用するのが、駒沢にある牛煮込みの名店「かっぱ」だ。ここのメニューは牛煮込みとごはんと漬物しかない(一応、お茶漬けもあるが食べている人を見たことがない)。具材は牛バラ肉とこんにゃくと豆腐のみ。

出典:wajorinさん

注文では、何も言わなければ、牛煮込みの並サイズがすぐに出てくる。あとはごはんが小か、並か、大盛か、告げるだけだ。並の牛煮込み700円に並のごはん200円、もし100円の漬物を注文すれば、合わせて1,000円。これがカウンターに並べられると幸せな気分になってくる。あとは皿からこぼれるほどの牛煮込みを、ごはんとともに片づけていくだけだ。黙々と食べていると、次第に充実感で一杯になる。

 

この店は、牛肉煮込み一本で勝負している。毎日毎日同じものをつくり、多くの人たちに愛されている。私はこの煮込みを食べるたびに、いつも努力を積み重ねる大事さを実感する。怠惰な私だが、歩いたあとに、この牛煮込みを食べると、もうちょっと努力してみようかなという気持ちになれる。やっぱり継続は大事。そう思うのである。