JALが羽田空港ならびに成田国際空港の国際線サクララウンジ・JALファーストクラスラウンジで提供する特製ビーフカレーには特別な魅力がある。海外出張に出掛ける知り合いがFacebookやInstagramで、なぜかカレーの写真をアップしまくっているのを見掛けたことはないだろうか(ないならないで、幸せ者だ)。
窓の向こうに見える飛行機を背にしたカレー、横にはシャンパン、皿の下にさらっと置かれたビジネスクラスのボーディングパス。とにかく無言で何かを訴えかけてくる。
あのカレーは、無料でさまざまな飲食が提供されるJALラウンジの中でも、看板メニューなのだ。
そして、とにかくうまい。ラウンジのオマケとか飾りではなくて、本当にうまい。そこらのカレー屋に行くくらいなら航空チケットを買ってパスポートを持って食べに行きたくなるくらい、よくできている。試食させてもらって初めて食べたところ、泣くほど美味しかった。
それもそのはず。JALはかなりの手間と時間を掛けてこのJAL特製オリジナルビーフカレーを開発し、改良してきた。JALがここまで「かなり本気で」カレーを作っている。いったいなぜ? ラウンジ企画担当者に直撃した。
――なぜ、ラウンジで「カレー」なんでしょうか。他にも高級な食事メニューはいくらでもあると思いますが
相原(以下、相) 日本式のカレーは、昔からとても人気があります。最近では、海外でも日本式のカレーはインドカレーとは見た目も味わいも違うので、非常に人気が高くなっています。JALでは、羽田空港ならびに成田国際空港の国際線サクララウンジとJALファーストクラスラウンジでずっと提供してきたカレーが、お客様のご要望に応えながら進化を続けていて、ますます人気が出てきています。
現在の弊社のカレーは食べてみると舌先に独特の甘みを感じた後に、ふくよかな果実がやってきて、牛肉のうま味が広がり、最後にスパイスが長く口の中に残っていきます。この味がお客様に喜ばれています。
レシピ自体は、ご紹介できないんですけれども、いろいろな会社様が「JALと似たカレーを作りましたので、是非食べてみてください」とおっしゃるのですが、やはり、どこか違います。
――カレー屋も真似できない“カレー”作りは、JALさんの本業と全く違うと思うのですが……
相 過去に、いろいろなお客様から頂いた貴重なお声を受け止めて、試行錯誤しながら作ってきました。少ししょっぱいといわれたら、塩の加減を抑えてみたりですとか、いろいろと試行錯誤しています。
特にカレーは、少しでも味が変わると、すぐにお客様からのお声が挙がってきます。そこは頂いたご意見に注意深く耳を傾けながら対応してきました。お客様のご要望にお応えしながら進化させてきた結果というのは事実だと思います。
――もしかしてお米にもこだわりが……?
相 今は山形県産の「はえぬき」という「特A」ランクのお米を使用しています。新米の時期は、「新・JAPAN PROJECT」という地域創生のプロジェクトを展開しているので、そういった各都道府県産の高品質なお米をテイスティングさせていただいて、提供しているお料理やカレーに合いそうなものを選んでいます。
――“JALオリジナルビーフカレー”はやはり、特定の場所でしか食べられないのですね
相 そうですね。機内で出してほしいというお声も頂きますが、機内は地上とは環境が違うので難しい。やはり、ラウンジではラウンジのカレー、機内では機内のカレーとバリエーションを持たせて、お客様に喜んでいただければと思っています。
ですので、このJALカレーは、羽田空港と成田国際空港のJAL国際線ラウンジのみとなりますね。あと羽田空港などにある国内線ダイヤモンド・プレミアラウンジではそのJALカレーをアレンジしたJAL特製焼きカレーパンを提供したりと、また形を変えてお客様に楽しんでいただけるよう取り組んでいます。
――ラウンジでカレーを食べるときの裏技などあるのでしょうか
相 いろいろな食べ方がSNSにアップされていますね。よくいわれるのは、ラウンジでうどんもご提供しているのですが、うどんの上にカレーを掛け、だしを入れてカレーうどんにされているお客様もいらっしゃいます。
また以前、お肉料理でハンバーグもご提供していたのですが、ハンバーグをカレーの上にのせて、カレーハンバーグにされているお客様もいらっしゃいましたね。
いまは皆さん、SNSに次々と写真をアップされることも多いので、拝見しているといろいろと工夫をされていらっしゃるなぁと感じております。
――FacebookやInstagramなど、ネット上の評判もチェックされるのですか
相 お客様のお声のひとつとして捉えています。ここ数年、私どもも機内食をはじめ、飲食に力を入れています。羽田空港と成田国際空港のJALファーストクラスラウンジでは、「ローラン・ペリエ」のような上品で洗練されたシャンパンをご提供しておりますので、「朝シャンしながらJALカレー」といったラウンジの過ごし方をSNSにアップされるお客様もいらっしゃいます。
JALのラウンジで使用しているお皿も、山本侑貴子さんというテーブルコーディネーターの方にお願いをしています。丸まった楕円の黒いお皿にカレーを盛り付けると、一層美味しく見えるのはもちろん、それだけで写真映えします。
ラウンジという空間を通じてお客様にJALのおもてなしを感じていただけるようにしたいと考えています。
――あのカレーを食べないと海外出張が始まらない! という方もいるそうですね
相 そうおっしゃっていただけると、こちらもうれしい限りです。これからもお客様にご満足いただけるようなラウンジサービスを提供していきたいと考えています。
例えば、成田国際線のファーストクラスラウンジのお寿司、シャンパンはローラン・ペリエ、あとは英国の高級靴メーカーであるJOHN LOBBとコラボレーションした靴磨きサービスであったりと、ご利用になるすべてのお客様に、特別な空間と「JALらしさ」を感じていただき、海外にご出発いただきたいと考えています。
――お寿司の方が高級そうなのに、不思議とやっぱりカレーなんですよね
相 以前は「さすがにお客様は朝にカレーをお召し上がりにならないだろう」と考えて、午前中は提供しておりませんでした。しかしながら、実際は羽田空港・成田国際空港の国際線ラウンジをご利用のお客様から、「朝からカレーを食べたい」というお声をたくさん頂きました。
コストも掛かりますが、お客様のご要望に少しでもお応えしたいと考え、今は朝から終日ご提供させていただいております。その後の反響が大変大きく、朝からカレーを召し上がりたいと思っていらっしゃるお客様のニーズが非常に強かったことを知り、あらためて担当としては驚きました。
――やはりこのラウンジで、飛行機を眺めながら食べるカレーは格別なのでしょうね
相 そうあってほしいですね。カレー自体はどこで食べても美味しいと思いますが、やはり、こういう特別な空間のなかで、出発前のひとときを楽しんでいただく部分も大きいと思います。
特に羽田空港の国際線サクララウンジ・スカイビューの奥はスカイヒルになっています。このエリアは、まさに草原で寝そべるようなイメージでデザイナーさんが作られているので、外の景色を眺めながらソファーに横になってシャンパンを楽しむこともできます。夜もオープンにしているので、夜景も楽しめます。
お客様にはそういった「JALのおもてなし」をラウンジの空間で感じていただければうれしいです。その中のひとつが、ラウンジカレーであるというだけです。私たちも、どんどん新しいものを出していきたいと考えています。「チャレンジ」というのが大事なキーワードです。
――国内線ラウンジのカレーパンも気になりますね
岩﨑(以下、岩) もともとは、おにぎりなどを個数限定で出していたのですが、お客様から「食事をもっと充実させてほしい」というご要望がありまして。それがきっかけで、やはり「JALらしさ」を感じていただきたいのと、今までの強みを生かせるものは何かと考え、国際線ラウンジでご提供しているカレーを生かそうとなりました。
――あのJAL特製オリジナルビーフカレーがそのままカレーパンに?
岩 そこはちょっと違います。JAL特製オリジナルビーフカレーをそのままカレーパンに使用すると、粘度に問題があるため、あの味をベースにしつつ、もう一回新しく作り上げた形になります。ただ、味にはこだわっています。国際線のラウンジカレーを感じられるよう、いろいろと工夫しています。
実は、国内線ラウンジのお客様の滞在時間は平均15分程度です。国際線と比べると圧倒的に短い。それも踏まえて、短時間でお客様が召し上がることのできるものということで、サイズ感にもこだわりがあります。
もうひとつの特徴は、いわゆる揚げたカレーパンではなく、焼きカレーパンというところで、食感が違います。焼きカレーパンにすることで、よりヘルシーで、表面に振ったパン粉のパリパリとした食感も楽しんでいただける。そして常に焼きたてをご提供しています。
岩 全国のカレーパンをかなり調べて、パイ生地にしてみたり、ナンの生地にしてみたり、試作は数え切れないくらい作りました。それくらい試行錯誤して開発したので、まさにひとつの大きな「チャレンジ」でした。
――食べ物の質が航空会社にとって高いクオリティーを保つ重要な要素なのですね
岩 そうですね。やはり国内線でも、国際線でも同じだと思いますが、朝、ラウンジにいらっしゃるお客様の多くは朝食を召し上がっていらっしゃらないんですよね。起きてすぐ空港にいらっしゃったり、仕事後に忙しいなかその足で出張に出てこられたりするので、そのまま空港にお越しになる方が多いです。そういうときのちょっとした息抜きの要素としてはひとつあると思います。
――ラウンジカレーを愛するお客様へ何かひと言頂けますか
岩 これまでJALを、そしてラウンジカレーを愛し育ててくださったお客様から貴重なご意見やご要望を頂けたからこそ、カレーの味を改善してこられました。そういう意味では、ぜひ、引き続きご愛顧いただき、よりお客様にご満足いただける高品質なものを作っていきたいです。
相 お客様のSNS等の書き込みで、「JALカレー美味しいよ」とコメントしていただいて、何よりそれを見るのがうれしいです。最近はそういったコメントを見る機会がだんだん増えてきまして、もっとより良いものを作っていきたいというモチベーションにもつながっています。
――SNSのおかげでますます、空港でカレーを食べるという行動様式が確立するかもしれませんね。
岩 そうですね。例えば、羽田空港の国際線ファーストクラスラウンジでは、以前、朝の時間帯にパンケーキを出していたのですが、その後ガレットにメニューを変更してみると、ガレットの方が絵になるようで。そうすると注文されたお客様がガレットの写真をSNSにアップしていただいて、企画している私たちもお客様と少しお近づきになれたのかなと感じています。
お客様の生の声がFacebookやTwitterで見える時代なので、そういうものを参考にしながら、どんどん進化させていこうと思います。