ページをめくり、お腹を満たす

ブックディレクター 山口博之さんが、さまざまなジャンルより選んだ、「食」に関する本を紹介する人気連載。気鋭のイラストレーター瓜生太郎さんのコミカルなイラストとともに、“おいしい読書”を楽しんで。

肉と米。ミニマルであるがゆえに深まるレシピ

Vol 4.『忍風! 肉とめし』(小学館)著:吉田戦車

昨年、娘が生まれてから小学校に進学するまでを親目線で描いた実録まんが『まんが親』が5巻で終了。また、ネコが毎回斬新なおかゆ料理を作り、おかゆレシピの立派なアーカイブとなった『おかゆネコ』も7巻で完結した。自分の娘の先行事例として、『まんが親』の吉田家をめっちゃ参考にしていた。どちらも最高でした。ありがとうございました。

 

そして昨年から新たな家族ものとして、近所の散歩から夫婦のお出かけ、家族旅行まで、外出を描く新連載『出かけ親』が始まり、食ものとして、『おかゆネコ』のおかゆのように肉と飯のバリエーションが展開し続ける『忍風! 肉とめし』が連載開始。

 

『忍風! 肉とめし』は、現代日本のどこかにあるP県(吉田戦車の『ぷりぷり県』のこと)の山奥にある秘境、虎尾の里が舞台。その里でいちばん偉い虎尾家のお殿様は、肉とめしが大好きで、「野菜など邪魔じゃああーーー!!」「肉とめしの間には調味料以外入ってはならぬ」という徹底した肉食主義者。

 

料理忍び(専属料理人)のカンゾウは、忍者としての能力はないが料理だけは得意。にもかかわらず、レシピ本を読む熱意もなければ、ネットで調べるのも面倒でやりたくないというダラけた性格のため、忍びとして働き始めた娘に新たな料理のヒントを探してくるように命ずる。

 

キャンプに来た人が、ごはんに醤油だけかけて食べる様から豚肉に生醤油をつけただけのさっぱり焼き肉レシピを考えたり、罠猟師のカレーのお弁当から、カレーを作って肉だけ取り出したカレー肉を思いついたり、里で起こる様々な出来事を「肉」と「めし」というかなりミニマルな食風景に落とし込んでいく。

 

インスタントラーメンのスープだけを活かした「味噌ラーメン風ひき肉汁」とスルメを数時間漬けてだしを取った「スルメだしの豚汁(具はもちろん豚肉だけ)」は、日常的な食材の思いがけない使い方ですぐに試してみたくなった。肉とめしやおかゆのように、ルールを先に決めて可能性を掘っていくことは、すべてが選択肢というプロの料理人ではないことを逆手に取った、効率のいい日常的なレシピ開発の手段なのかもしれない。どこぞの小さな飲み屋でメニュー化されてたら思わず頼んでしまいそうだ。

 

逃避めし』や『おかゆネコ』のレシピ同様、今回も吉田戦車本人が実際に作り、食べたものだ。だからこそ特別な素材や特別な手間を掛けた派手な料理ではなく、大学生がすぐ作れるようなものがたくさんある。料理人のカンゾウがめんどくさがり屋という設定は、こういうところで活きている。

 

塩分控えめ&糖質制限ブームが続くいま、吉田戦車が描く食まんがのメニューは自然とダイエット健康メニューとしても有効なのではないか(おかゆもめしも米なので、その調整は各自必要)。妻子が出かけ、普段まったく料理をしない男(自分のこと)が一人残される夜。その時こそもう一度この本を開いて試してみるチャンスだ。たらふく肉とお米だけを頬張りたい。

 

『忍風! 肉とめし』
(小学館)著:吉田戦車

 

イラスト:瓜生太郎