12月30日(月)に公開される映画『グランメゾン・パリ』は、木村拓哉さん主演によるテレビドラマ『グランメゾン東京』の続きを描いた映画です。ドラマ版の時にもドラマティックな人間模様や本格的な料理監修、ミシュランの「星」をめぐるリアルな描写で大きな話題となりましたが、映画版ではその舞台がなんとフランス・パリに! 登場人物たちのその後だけでなく、美食の本場・パリを舞台にさらにスケールアップした物語が見られます。再びシェフ・尾花夏樹を演じた木村拓哉さんに、映画について、そしてフランスロケでの「思い出」について伺いました。
「無茶振り」だったパリでのロケ
――最初に完成した映画を見た時の感想は?
木村さん:僕らという素材を調理してくれて、こうやって盛り付けてくださったんだな、ありがたいな、という印象でした。
――作品へのコメントで、最初に脚本を読まれた時に「それこそ本当に三つ星を取るぐらい難しいのではと思った」とありましたが、どのあたりが一番難しいと感じられたのでしょう?
木村さん:いやだって、脚本に「ここでこいつは空を飛ぶ」って書いてある、それと同じですよ(笑)。僕的にはそのくらいのことが書かれていた。そんなの無理に決まってんじゃん、と。それは単純に、パリでロケをするということもその一つで。パリでロケをさせていただく、イコール自分がパリの住民になっていないといけない。人との感情のやり取りも含め、全て「あちらの形式」でやってください、ということなんですよね。こんな無茶振りはないだろう、という感じでした。でもそれができているか否かも自分ではわからない状況の中「空の飛び方」を一度も諦めずに僕らに教えてくれた人たち……具体的に言えば周りのスタッフの人たちがいたわけです。その人たちは絶対に諦めていなかった。自分だけの思いじゃないから乗り越えられた、というところはありましたね。
――それは共演者の方々も同じ認識だったのでしょうか?
木村さん:だって、撮っていれば共通認識でわかってくるじゃないですか。「ここにいるやつら、全員『空飛べよ』って言われてるんだな」というのもだし(笑)今日はこんなシーンを撮るというのがわかるから、「今日は倫子さん(鈴木京香さんの役名)すっげえ飛ばなきゃいけないんだな」とか「今日はミッチー(及川光博さん)、相当気を張ってるだろうな」とか。そういう時に抱えているストレスは自分でもわかるから、不思議な気の遣い合いが現場であったような気がしますね。
――そんな「無茶振り」のパリでのロケでしたが、経験されていかがでしたか?
木村さん:何に驚いたって「背景の説得力」ですよね。何も謳(うた)わなくていいというか、当たり前に歴史と空間がそこに存在している。その大きさ、力強さがすごいなと思いました。
――ドラマシリーズを経ての映画ということで、共演者の方々との関係性が心強さにつながったような部分はありましたか?
木村さん:いやもう、この関係性は前にドラマシリーズをやらせていただいた時にもう構築していたので。「みんなで飛ぶことに挑戦するぞ」という安心感じゃないですけど、そこは良かったと思います。
――木村さんが感じられたこの作品の「難しさ」ですが、フランスロケ以外の部分でも多くあったのではと思います。例えばどんなところだったのでしょう?
木村さん:なんて言えばいいんだろう……要は尾花夏樹という人物が捉えている「料理」だったりコミュニケーションだったりは、本当に身を削っているというか、ある意味「命を張っている」ものなんですよね。料理って、言ってしまえば誰でもできるわけです。でも尾花夏樹という人が料理というものに対して取っている姿勢は、なかなかなテンションなわけで。そんな尾花という人物の表現もそうだし、始まった時から同じような熱を持っている奴らが集まって、消えそうになったものをなんとかもう一度みんなでガードして……一人ひとりの灯火の大きさは限られてるけど、合わせてみたらもっと大きくなったよね、というような話なんですよね。
――たしかに、そういった「熱」を表現する大変さ、難しさはありますよね。
木村さん:そもそもこの映画、言ってしまえば、相当に大変なことをやっているんですよ。料理の味を映像と音で伝えてるだけなんですよ!? 香りもそう。要は具体的に伝える手段がない状態で、観客のお客様に料理の魅力を届けるという……頭、おかしいでしょ(笑)。だから「難しい」っていう言い方でも、正直優しい方だと思いますよ(笑)。
「難しい」という感覚をなくした!? フランス語台詞に苦闘
――今作に関する無理難題のオーダーの中に「フランス語での演技」というところもあったと思うんですが……。
木村さん:むしろそれが「主」ですね(笑)。最初に脚本の初稿というか、まだタイトルすら正式決定していない状態のものを読ませていただいた時には、フランス語のセリフはあるにはあったんです。でもその次にもらった第2稿が、突然ぶ厚くなってるわけですよ。嫌な予感しかしないし、しかも第2稿から台本の開きが“逆”になった(笑)。要はそれだけフランス語のセリフが増えていたということで。
――そんな量のフランス語での台詞と演技は、相当難しかったのでは?
木村さん:それに関しては自分が「難しい」と捉えてしまうと、多分ゴールがなくなっちゃうなと思ったので「難しい」という感覚を自分の中でなくして(笑)、「とにかくこういうもの!」と思うようにしました。もう、やってみるしかないなと。あと、僕らに「フランス語」という“空の飛び方”を教えてくれた人、つまり先生が、諦めない人だったからというのも大きいです。いやすごかったですよ、本当に諦めないし、妥協しなかった。
――それだけに、“パリで暮らしている”リアリティがすごく出ていたような気がします。そういう、役柄の時間の経過や実在感を出すうえで意識的にやられたことは他にありますか?
木村さん:今回グランメゾンチームが再集結しますよ、もう一回尾花っていう奴になりますよ、ということが決まったわけですけど、前のドラマではああいう時間を過ごし、ああいう結末を迎えていて。ドラマとこの映画の間には新型コロナウイルスの流行もあったわけで「あいつその間に何やってたんだろう」となりますよね。一つのヒントとなったのは、映画公開の前日にこの映画の前日譚にあたるエピソードのスペシャルドラマが放送されるんですね。そのドラマが、この『グランメゾン・パリ』へ至るジャンプ台みたいな感じで。その脚本を読んだ時に、その時の尾花がどんな奴なんだろうと考えて、ちょっと髪の毛の色を変えてみたんですよ。だって4年も経っていて、ドラマの最後の時のままで現れるような人ではないな、と思っていたから。それは監督の塚原さんにも内緒だったんですけど。
――内緒だったんですか!
木村さん:塚原さん、ドン引きしてました(笑)。ただ、その時には映画の料理監修をやっていただくのが小林圭シェフだなんて知らなかったんですよね。それで「この人なんですけど」って写真を見せられたときに「かぶった!」と(笑)。恥ずかしかったー……。だから、これは別に彼の見た目に寄せていったわけじゃないです!