〈新連載〉出世ごはん
デキるビジネスパーソンはこんなお店で食べている! 元銀座のホステス&開運アドバイザーの藤島佑雪が、かつての同伴その他の経験から見極めた「出世する店」を「おいしい理由」とともにご紹介!
No.1 白洲次郎も!代々、出世し続ける人々が通う洋食店
ぽん多本家
NHKでドラマになったりして、いっときブームになっていたのが落ち着いた感もありますが、白洲次郎さんのファンって多いんじゃないでしょうか。背が高く、超ハンサムなうえにお育ちもよくお金持ち。日本で初めてジーンズを履き、戦後は吉田茂首相の懐刀と言われて政治の中枢で活躍したジェントルマン。祇園や新橋のお座敷で死ぬまでおモテになったようです。彼の人生を描いた『風の男 白洲次郎』(新潮社)、わたくしも読みました。「僕の憧れだから」って、ホステス時代のお客さまにいただいて。そのお客さま、後に脱税で捕まったうえに詐欺まがいのことをやらかして、底の底まで落ちていかれましたけど、お元気かしら?
そんなわけで今週から始まった新連載「出世ごはん」は白洲次郎&正子夫妻が通ったことでも知られる「ぽん多本家」さんでございます。
上野広小路や御徒町の駅から近いんですけどね、このへん、いい! 最近、上野動物園にシャンシャン見物に行ったついでに、久々に界隈をブラブラしてみたら、狭いエリアにぎゅうぎゅうにいいお店が詰まってるから楽しいんですよね。今日もつい来ちゃったりして、個人的にハマってます。いつも出没している銀座や港区界隈とは違う、明治の文明開化の匂いがそこはかとなく香る感じにやられてます。
「ぽん多本家」さんも創業、明治38年(1905年)じゃないですか。だから横書きの看板だって左からじゃなくて、右から読みだし、どうなの?この重厚感は!ってな両開きの扉からもハイカラ感が漂いまくり!
中に入ると、たった4席のカウンターに中央区より東の江戸前なエリアでしかお目にかかれないようなスーツの老紳士が黙々とお食事中。いつ伺っても、こういうパッと見でお金持ち、少なくとも役員以上という風情の方がいらっしゃるんですよね、ここって。
2階に上がろうとするとレジで支払っている、これまたリッチな雰囲気の男性が「すみません、最近、伺えてなくて」だなんて、お店の方にしばらく来店できなかったことをお詫びしているところに遭遇。これですよ、これ! 常連さんが多く、しょっちゅう顔を出すのが当たり前で、顔を忘れられてたらいやだと思うくらい敬意と愛着がもてるお店であるゆえに、間が空くと謝ってしまうという。こういうやりとりがあるお店、こういうやりとりをするひとが来るお店というのは昔からの常連さんの、ともすれば親子4、5代と世紀をまたがる連鎖によって長続きするんですよね。
宮内庁大膳寮の料理人だった初代がミラノ風カツレツを天ぷら風に揚げたのが始まりという「カツレツ」2,700円。どうなんですか。この雅なルーツ。ちょっとした庶民のごちそう的なお値段。豚肉の脂身をあらかじめ切り落とし、その脂からつくったラードで揚げたカツレツは衣がサクサクでおいしいんですが、わたくしは付け合わせのキャベツに特にうっとりしてしまうんです。すっごく繊細な千切りで、お箸でつまむとフワッと持ち上がる。洋食器でありながら、和ゴージャスなテイストの大倉陶園のお皿も、文明開化なノリですてきなんですよね。
シャンデリアがあるわけでなし、テーブルにクロスもないカジュアルなインテリアなんですが、すべてが上品で知的。日本画家、奥村土牛さんや落語の柳家小さん師匠の書が飾られてたり、お茶もちゃんと茶托付きでサーブされたり。お店が歩んできた歴史の深みがそこここにじわーっと染み出しているんですよね。
今、お金を掴んで、今、散っていくという一瞬の栄華を極めるようなタイプではなく、代をまたいで経済的にも社会的にもいいポジションを保っていくような方々に好まれる要素が客層を含めて随所に見られます。‘出世店’って、こういうお店なんですよね。