〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

渋谷発のビストロ体験が楽しめる店にリニューアル

メインフロアのコの字型のカウンター席。このほかテーブル席もある

2026年8月、渋谷の居酒屋「RINN」が「Bistro RINN」としてリニューアルした。同店はビストロ業態で手腕を発揮した亀谷剛氏が統括シェフを務めており、原点回帰ともいえるスタイルに期待が高まる。今回のリニューアルでは、「CHOW CHOW」などの運営会社で総料理長を務めた渡邉義則さんを店長に迎え、名物の「RINNのロティサリーチキン」をはじめとしてメニューがパワーアップ。ビストロ料理に磨きをかけつつ、渋谷らしいビストロ体験ができるような工夫がメニュー1つひとつに込められている。

左から店長の渡邉義則さん、西田光江さん、坂入光さん、統括ソムリエの中川教介さん、浪貝恭介さん

ドリンクもビストロ料理に合わせてワインが充実。同店のグループ店である「テンキ」で“新感覚天ぷら✕白ワイン”を提案して同店を人気店に押し上げたソムリエ中川教介さんがワインをセレクトしている。中川さんはクラシックとモダンを融合させながら自然派ワインを造る生産者をフィーチャー。日常で楽しめる価格帯のグラスワインを中心に、特別なグラスワインもプラス。メリハリのあるラインアップを用意している。

4階フロアの客席

Bistro RINNは天井が高く開放的な造りの3階がメインフロア。コの字カウンターとテーブル席がシーンに合わせて便利に利用できる。それだけでなく、内階段から行ける4階部分にも客席がある。こちらは14席のコの字カウンターとスタンディング席のみ。隠れ家のようなクローズドな感覚で利用することもでき、貸切も可能となっている。

サラダグルマンディーズ✕アッサンブラージュ白ワイン

サラダグルマンディーズ(2〜3人前 2,640円)

Bistro RINNの渋谷らしい感覚のビストロメニューを象徴するのが「サラダグルマンディーズ」。ビストロ前菜の定番といえば「前菜盛り合わせ」や「ニース風サラダ」などボリュームがあって満腹になるものが思い浮かぶが、Bistro RINNでは新しい前菜のスタイルとして、ずっと傍らに置いて箸休め的に食べられるサラダを提案。さっぱりとした味わいで軽やかなビストロ時間が楽しめるのだ。

それぞれに調理された野菜にドレッシングをかけ、混ぜてからいただく

サラダグルマンディーズはフランス料理のサラダに中東のスパイスも加え、東南アジアの器で混ぜて完成する。季節によって10種類以上の野菜を使ってあり、トマトはコンフィ、ニンジンはギリシャヨーグルトでマリネ、インゲンはエシャロットや中東のスパイス・デュカと合わせるなど、それぞれ調理されたものにドレッシングをかけてスタッフの手で混ぜ合わせてできあがり。食感も味わいも異なる野菜が1つになったハーモニーのあるサラダとなっていた。

ルネ・ミューレ アルザス・アッサンブラージュ2024(グラス880円)

サラダグルマンディーズにおすすめなのは、アルザスの1Lボトルの白ワイン。ピノ・ブラン、シルヴァネール、ゲヴュルツトラミネールがアッサンブラージュ(ブレンド)されたワインだ。「サラダにもいろんな味わいがあるので、いろいろなブドウの味が楽しめるワインがおすすめです。食べる野菜によって、ハーブを感じたりレモンを感じたりワインの個性が引き出されます。食事の最初は1Lボトルの手頃なワインをグイグイ飲んでスタートするのがおすすめです」と中川さん。気軽でカジュアルなビストロの始め方を教えてくれた。

トリュフレーズンバターのタルティーヌ✕モダン赤ワイン

トリュフレーズンバターのタルティーヌ(2個1,320円)

前菜のもう1つのおすすめは「トリュフレーズンバターのタルティーヌ」。焼酎に漬け込んだレーズンをバターに練り込み、凍らせてからピーラーで薄くスライス。軽やかでふんわりとした口当たりにしたレーズンバターをトーストした厚めのパンにたっぷりとのせ、トリュフを削りかけた一品。2軒目として利用したときにも食べたくなる魅惑の味わいとなっている。

オベール・エ・マチュー オート・ピスト ピノ・ノワール2024(グラス1,200円)

タルティーヌに合わせたいのは、南仏ラングドックのピノ・ノワール。オベール・エ・マチューは、赤白ともにグラスワインにオンリストされているBistro RINNの推し生産者。「ラングドックでワイン造りをする若き生産者ですが、ゴールとしているところはブルゴーニュ。その中でニューワールドのワイン技術やサステナブルで自然なワイン造りをして新たな感覚を取り入れているところが“RINN”と通じるものがあります」と中川さん。樽の香るピノ・ノワールはレーズンバターとの相性も抜群だ。

ロティサリーチキン✕樽感ボリューム白ワイン

フランスから取り寄せた専用の回転ロースターでまんべんなく焼き上げ

Bistro RINNの不動の看板メニューはロティサリーチキン。“RINN”の名は「輪」からも来ており、回転させながら焼く極上のロティサリーチキンを提供するというのは開店時から構想にあった。それだけ力のこもった一品で、こだわりは満載。専用のロースターはフランスから取り寄せ、まんべんなく焼き上がるようになっている。

バターソースで仕上げるロティサリーチキン

チキンは各地の銘柄鶏や大きく育てた地鶏など、さまざまな鶏肉を試してみた結果、たどり着いたのが小ぶりの鶏肉。その理由は保水率が高く、ロティサリーチキンにしたときに圧倒的にジューシーな肉質を味わえたから。丸鶏は一定の小ぶりなサイズを使用し、塩を一晩なじませた後、逆に皮は薄くパリッと香ばしく焼き上げられ、肉のジューシーさとのコントラストが生きるようになっている。

RINNのロティサリーチキン(3,190円)。3種のソースは、自家製ホットスパイス、サルサヴェルデ、チーズソース。

丸鶏のまま焼き上げられたロティサリーチキンは、テーブルに運ばれて最後の仕上げ。バターをベースにした熱々の肉汁ソースをジュワッと回しかけて完成だ。テーブルにバターの香りが広がるのもおいしい演出。その後、ロティサリーチキンは取り分けて、3種のソースが添えられて提供される。ロティサリーチキンを食べてみると、パリッとした皮目の食感からジューシーで奥行きと旨みのある鶏肉が至福をもたらしてくれた。丸鶏なのでモモやムネなどさまざまな部位のおいしさもしっかりと堪能できるのもいい。

オベール・エ・マチュー オート・ピスト・シャルドネ2024(1,320円)

ロティサリーチキンにも推し生産者のオベール・エ・マチューのシャルドネをペアリング。「塩味の鶏肉なのでボリュームのある白ワインとしてシャルドネを合わせました。ロティサリーチキンにバターの風味があるので樽香をほどよくかけてあるのも相性が良いポイントです」と中川さん。またシャルドネというわかりやすいワインを合わせることで、ワインとの距離を縮めてほしいという意図もあるそうだ。

中川さんの「私が恋した自然派ワイン」

イ ヴィニェーリ ヴィヌディリーチェ 2022(ボトル12,400円)

中川さんが恋したワインは、イタリア・シチリアのロゼワイン。

「オレンジワインがこれだけ浸透した日本でなかなか苦戦しているのがロゼワインです。たしかにロゼワインを造り込んでいる生産者は少ないのですが、造り込むとこれだけ素晴らしいものになるんだと思ったのがこの一本です。

こちらのワイナリーは2000年に設立された若いワイナリーですが、現在は息子が継いでクラシックとモダンのいいとこ取りでワイン造りをしています。ロゼワインのヴィヌディリーチェはエレガントながらブドウのエキスがしっかりと感じられた味わいです。ロゼワインの素晴らしさを味わってみてください」

ワインとの距離を近づけてくれるラインアップ

Bistro RINNではクラシックな考え方をもとに栽培や醸造技術では最先端も取り入れたような自然派ワインが用意されている。またフランスやイタリアを中心にベーシックな品種のワインを揃えて、ワインとの近い距離を作れるようにとの思いがある。グラスワイン10種類(880〜2,200円)は、価格の幅を設けて1,000円以内で飲める定番と1,500円以上のスペシャルワインが設けられている。ボトルワインは30種類(5,500〜19,800円)、ワインリストとともに特別なときに飲みたいものが揃えられている。日常にもスペシャルな日にも利用しやすいラインアップといえる。

ビストロ発のオリジナルワインも模索中

内観

Bistro RINNはビストロとしてリニューアルするなかで新しいものを取り入れオリジナルのスタイルが模索されていた。ワインについては、今後生産者を巻き込んで、オリジナルのワインを提供する流れもある。リニューアルだけで止まることなく、ワクワクするような展開が今後も続いていきそうだ。

※価格は税込

文:岡本のぞみ(verb)
撮影:海老澤芳辰