昨年、話題沸騰した「妖怪弁当」。作ったのはどんなお店?

2018年8月、あまりにもかわいくて完成度の高い「妖怪弁当」が、TwitterなどのSNSで注目を集めたのをご存じでしょうか?

 

味も見た目も素晴らしいこのお弁当を作ったのは、岩手県金ケ崎町にある古民家カフェ「侍屋敷大松沢家」でした。

出典: narumi(@11141141)さんのツイッター

まるで黄泉の国のような荘厳さを持つ、癒やしの古民家カフェ

「侍屋敷大松沢家」があるのは、諏訪小路地区。伊達政宗の一族である大町氏が治め、金ヶ崎城の城内だったことから、文化庁から「重要伝統的建造物群保存地区」として指定されています。

この地区の空き家だった建物を、素敵な古民家カフェに生まれ変わらせたのは「金ケ崎まちづくり研究会」。同研究会の代表・高杉郁也さんは、「建物はしばらく空き家だったので修理が必要でした」と言います。

 

年季の入った門をくぐると、空高く伸びる楓の木々が涼やかな木陰をつくり、まるで“かくりよ”(隠世、幽世。永久に変わらない神域、黄泉の国を意味する)のような荘厳な空間が現れます。

お店の窓からは、築山がある歴史的な美しい庭園が一望できます。紅葉の時期は、この世のものとは思えないほど美しい見事な紅葉のじゅうたんになるそうです。

 

「庭園を多くの人に見てもらいたいという思いから、今の『侍屋敷大松沢家』は生まれました」と高杉さんは語ってくれました。

目指すは「食べる妖怪図鑑」。食材とにらめっこしながら考案したメニュー

この美しい侍屋敷大松沢家から登場したのが、あの「妖怪弁当」。

 

地元の方々が妖怪の絵や知識を発表する、年に一度のイベント「妖怪会議」のために振る舞われる渾身作です。

 

しかも、作られるのは約50個のみというから、レア度の高さがうかがえます。

写真:お店から キウイを使った河童のゼリー。ブルーハワイシロップで水を表現しています。

今年で妖怪会議は13回目。妖怪弁当は6回目の提供になります。

「毎年、妖怪会議を行っているうちに内容のグレードが上がってきたので、せっかくならば食べるものも妖怪に関するものにしたいと思って……」と目を輝かせながら、楽しそうに話す高杉さん。

 

妖怪弁当のメニューは、金ケ崎まちづくり研究会のメンバーが『妖怪図鑑』を熱心に見ながら考案しているそう。

 

毎年、妖怪の種類がなるべく被らないように、スタッフやまちづくり研究会のメンバーみんなでアイデアを出し合っています。

写真:お店から

「妖怪図鑑で得たいろんな種類の妖怪の知識をもとに、食材とにらめっこしているうちに、『この野菜はこの妖怪っぽいな』など頭のなかでリンクしていくんです」と、取材時に2019年のメニューを考案中だった高杉さんは熱弁してくれました。

カフェメニューも絶品ばかり! 岩手愛の詰まった味

「侍屋敷大松沢家」で評判なのは、妖怪弁当だけではありません。通常営業時のメニューも、地産地消を心がけた絶品メニューばかり。

 

料理を考案しているのは、主に高杉さん。かつて栄養士の学校に通い、東京で料理の仕事をしてきた経験を生かしています。

「食べておいしく、体にもいいメニューを心がけています」と宣言する通り、メニューには健康面で期待できる効果の記載も。

 

食材だけでなく調味料も地元のものを使用し、化学調味料は一切使っていないそう。

「地元の方には『故郷にこんなにおいしいものがあるんだ』ということを、他県から来る方には『岩手っていいところだね』と思ってもらいたいですね」という高杉さんの声には、地元への愛情が滲んでいました。

とくに人気のランチメニューは「豆腐と豚肉のグリル」870円。しょう油ベースのソースで焼いた豚肉をローストした豆腐の上にのせて、3種のチーズがとろりと溶けるまで、オーブンで火を入れています。

 

3種のチーズは、北海道産のパルメザンとゴーダとモッツァレラ。豚肉は、金ケ崎で生産されたものも含む、岩手産のもち豚を使用しています。

高杉さんおすすめのスイーツは、ドイツ生まれの「ダッチベイビー」500円。実は、金ケ崎はドイツ中部にあるライネフェルデ市と姉妹都市なんです。

 

「注文が入ってから生地をつくるので、サクサクもっちりとした食感を楽しめるんですよ」と教えてくれた高杉さん。

 

レモンと優しい味の生地、そして濃厚なメープルシロップの三重奏が口のなかに響き渡ります。見た目はボリューミーながら、ペロリと食べられますよ!

宇治抹茶を使った“本気”の「抹茶オレ」400円。こちらは、訪れたら必ず試してみてほしいおいしさ! そっと添えられた庭の楓の葉が、粋なはからいです。

 

このほかにも、岩手県産のさっぱりした鶏肉と自家製オレガノをつかったチキン南蛮、入荷があるときのみ提供する三陸産のカジキマグロなど、リピーター続出のやみつきメニューばかり。夜には御膳スタイルのメニューを用意しています。

「来た人に『なにもいいところなかったじゃん』と思ってもらいたくないんです。せっかく来てくれたんだから、いい思い出を持って帰ってもらいたいですね」という地元スタッフのみなさんから、熱い胸の内が伝わってくるお店。

 

岩手に来たら、少し遠出をしてでも立ち寄ってほしい特別な空間です。

今年の妖怪会議はいつ?

2019年の開催は、8月24日(土)ともうすぐ。まだ参加は可能とのことで、「妖怪の姿になってのご参加をお待ちしております」とスタッフのみなさんから歓迎の言葉がありました。

 

毎年クオリティが上がっているという妖怪弁当ですが、今年はどんな妖怪たちが現れるのか……今から楽しみですね!

 

※価格はすべて税込

 

取材・文・写真:六原ちず