新生「シュヴァル・ド・ヒョータン」のコースメニュー
海と畑(伊勢海老と有機野菜)

これはまさに、リニューアルオープンのコンセプトを表す、シグニチャーディッシュだ。いすみ市は、実は日本でもトップクラスの伊勢海老の水揚げ量を誇る。と言っても、“伊勢”海老というネーミングゆえか、その事実はほとんど知られていない。が、クオリティに関しては折り紙付き。刺身で食せる鮮度のものを朝送ってもらい、夜のテーブルに上げる。表面を軽く炙っただけの、ほとんどレアの状態で供する伊勢海老はまさに至福。

それをいすみ市にある「farmあき」でとれた、さまざまな野菜――なす、パプリカ、ズッキーニ――などに、ゆでる、素揚げするなど必要最低限な一手間をほどこし、野菜そのもののおいしさを引き出し、彩り鮮やかに伊勢海老の周囲に散らす。ヨーグルトとサワークリームのソースが全体をまとめる。
farmあきでは、網にかかった貝殻をたい肥にし、化学肥料を一切使用しないのだという。だから味の濃さが全然違う。
タコとサルサソース

いすみはタコの漁場としても知られる。中でも親潮と黒潮のぶつかる器械根でとれたタコは最高と言われる。足の太さから見ても、いかに立派なタコがとれるのかわかる。実は、おいしさの理由は伊勢海老を餌にして育つからだそうだ。塩もみしたのち、熱湯を通し、クールブイヨン(野菜のだし)で1時間ほど煮て、そのまま冷やす。
トマティーヨというトマトとほおずきを合わせたような、メキシコの野菜を煮込んでサルサにして添えているが、爽やかなその味わいとタコの旨みが絶妙の相性を見せる。
キョンのポワレとコンフィ

キョンとは、鹿に似た、けれど1/3ほどの大きさの特定外来生物。千葉で大発生し、農業に害が及んでいる。味は野性味にあふれた鹿の肉に劣らない。そこでシュヴァル・ド・ヒョータンでは、ハンターによって害獣駆除されたものを料理に使用している。
ロースはポワレにし、前足はコンフィにしている。皿の上には切り分けたロース肉とほぐしたコンフィを盛り合わせ、コンフィにはレモンクリームと山椒、ロース肉にはモロヘイヤと枝豆を合わせたコンディマンを添えた。

最後までいすみ市らしさにあふれた構成で、藍シェフが何をやりたいかということがはっきり見えてきて気持ちいい。それぞれの皿のクオリティも申し分なく、女性シェフとして頑張っている川副藍シェフを心から応援したくなる。
ブルーベリーのリオレ

これはオープン当初から続いているデザートの一つだ。フランスの家庭のおやつで、米をミルクで甘く煮たもの。それを冷やし、最後に泡立てた生クリームと、ブルーベリーを加え混ぜる。
デギュスタシオンスタイルだった当初、メニューからはずすと、ないの?とお客様から聞かれ、はずせなくなってしまったほどの人気の品。顧客であるフランス出身の名パティシエも大のお気に入りだそうだ。こちらの米と牛乳もいすみ市産。優しい甘さに一度食べたらやみつきになること請け合いだ。