〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

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岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

名店出身のイタリアンを居心地のいい空間で

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テーブル席とカウンター席がならぶ店内

2023年8月にオープンした「lotus osteria(ロータスオステリア)」の店名は、蓮の名所で知られる上野公園・不忍池にちなんだもの。店は不忍池から歩いて5分ほど。根津駅近くの不忍通り沿いにあり、ほっこりとくつろげる雰囲気がこの街に住む人から支持されはじめている。

オーナーシェフの佐藤健治さん

オーナーシェフの佐藤健治さんは、イタリア・フィレンツェやピエモンテ州で修業した後、広尾「アッピア」で腕を磨いて、独立。「自分の店は、好きな音楽をかけて、自分も楽しめるような気軽なお店にしたかったんです。そこに自由な雰囲気のある自然派ワインは欠かせなかったですね」と佐藤さん。イタリア各地や東京の名店出身ならではのおいしい料理と自然派ワイン、そして居心地の良さが魅力のお店となっている。

アジのカルパッチョ✕完熟オレンジワイン

アジのカルパッチョ プンタレッラと小原紅のサラダ(1,600円)

前菜には旬の食材を使ったメニューが並ぶ。冬のおすすめは「アジのカルパッチョ プンタレッラと小原紅のサラダ」。「イタリアの冬野菜の代表プンタレッラを味わってほしくてアジのカルパッチョにしました。日本一紅いみかんといわれる小原紅早生との組み合わせも楽しんでください」と佐藤さん。シャキシャキとしたプンタレッラがアジの旨みや小原紅早生の甘みと重なって小気味いいアクセントとなっていた。

ヴィテアドヴェストのヴルゴ テッレ・シチリアーネ2021(グラス1,300円、ボトル7,200円)

甘いみかんの入ったアジのカルパッチョには、イタリア・シチリア州のオレンジワインがおすすめ。「こちらは搾りたてのパイナップルや柑橘のニュアンスを感じるトロピカルなオレンジワインです。ほのかな塩味や余韻のミネラル感もあって、アジのカルパッチョを引き立ててくれます」と佐藤さん。果実のまろやかさや深いコクの中に、ミネラルのキレやビターな余韻もあり、それぞれの素材の濃い味を豊かにまとめてくれる組み合わせだった。

特製ラザニア✕濃厚ロゼワイン

エミリア風ラザーニャ(1,700円)

パスタメニューはポモドーロやプッタネスカ、カチョ・エ・ペペなど6種類が用意されている。中でも常連に人気なのが「エミリア風ラザーニャ」。パスタとラグーソース、チーズを重層的にはさんだ魅惑的なメニューだが、手間がかかるため、最近ではレストランでもなかなか見かけない。しかも、こちらのラザニアはパスタから手打ちされているため、かなり時間と手間をかけて作られている特製品。「開店当初、なにげなくメニューに入れたらリクエストが相次ぎ、外せなくなってしまったんです」と佐藤さんが笑顔で教えてくれた。

とろけるハーモニーがたまらない!

手打ちパスタの入ったラザニアはナイフを入れると、とろとろとくずれていくほど軟らかい。口に入れると、もちもちとした手打ちパスタがラグーソースと一緒になって、とろけるような食感に。肉のごろごろ感も旨み抜群。乾麺では味わえない感動レベルの幸せがやってくる。これは”くせにならずにいられない”と言われるのもうなずける。

ラ・ジネストラのトゥット・アンフォラ・ロザート2022(グラス1,300円、ボトル7,200円)

ラザニアはサンジョヴェーゼの赤ワインと合わせるのが定番だが、ロータスオステリアでは、少し変化球をつけて同じサンジョヴェーゼのロゼワインをおすすめしている。「色合いでわかるように、味わいもチェリーの果実味があって濃厚なロゼワインです。果実味がしっかりしていながら、シャープな酸味とミネラル感があるので、ラザニアの濃厚な味をすっきり包んでくれます」と佐藤さん。ラザニアの味を軽快にしてくれる組み合わせだった。

牛肉赤ワイン煮✕リッチ赤ワイン

東京ビーフ(黒毛和種)肩バラ肉の赤ワイン煮(2皿3,000円、写真は1皿分)

ピエモンテ州で修業したことのある佐藤さんは、郷土料理であるブラザート(牛肉の赤ワイン煮)も得意。ピエモンテ州の赤ワイン煮は、ステーキのように薄切りにされているのが特徴。働いていたレストランだけでなくいろいろなレストランの味を食べ比べてたどり着いた秘伝のレシピを、東京ビーフを使ってブラザートに。部位や個体の肉質を見極めて、3〜5時間煮込まれている。ナイフを入れると肩バラ肉の繊維質がほろほろとくずれ、赤身ならではの濃い牛肉の味が楽しめる。

トリンケーロのロッソ・デル・ノーチェ4 NV(グラス1,400円、ボトル7,700円)

ブラザートに合わせたいのは、同じピエモンテ州で造られた4つのヴィンテージのブドウを使った赤ワイン。「少し熟成したヴィンテージのワインも入っていて、熟れた香りとブドウのピュアなエキス感が重なったリッチな赤ワインです。肉の味がしっかりしているブラザートにとてもマッチします」と佐藤さん。肉の旨みを最上に高めてくれるアッビナメントがやってきた。

佐藤さんの「私が恋した自然派ワイン」

カ・デル・コンテのアストロ・ピノ2018(ボトル9,800円)

佐藤さんの恋した自然派ワインは、自然派ワインのおもしろさに気づかせてくれた一本。

「ワインショップの試飲会で出会いました。それまでクラシックなイタリアワインを選ぶことが多かったのですが、まずラベルを見て“こんな自由な雰囲気のワインがあるんだ”と驚きました。ロケットに乗って飛んでいくくらいおいしいということだそうです。

それまで自然派ワインというと、クセの強いイメージがあったのですが、こちらのワインはジューシーで素直なおいしさがあったのもうれしい発見でした。スパイシーさや旨みもあって、誰が飲んでもおいしいといえる味わいだと思います」

イタリアの自然派ワインを中心にラインアップ

ロータスオステリアでは佐藤さんが試飲会で選んだワインがラインアップされている。イタリアの自然派ワインを中心に北のピエモンテ州のワインから南のシチリア州のワインまで個性的なワインが揃っている。店を2人で訪れてもいろいろな種類を飲めるよう、グラスワインは9種類(900〜1,600円)を用意。ボトルワインは常時30種類(4,200〜9,800円)あり、ワインリストは時々入れ替えられている。お気に入りのイタリアワインを見つけてみよう。

おいしいもので日常にくつろぎを

佐藤さんはおいしいものを作るためなら手間ひまを惜しまない
店内には佐藤さんがセレクトした軽快でメロディアスな音楽が流れ、食事に寄り添う
外観

ロータスオステリアはイタリアの伝統料理を旬の食材でアレンジし、美しい一皿に仕上げる。それを居心地のいい空間で楽しめる時間は日常にくつろぎをくれる。上野公園の散策や谷根千散歩の後に訪れてみよう。

※価格は税込、テーブルチャージ・パン代1人400円

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔